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生活の建築知識.62

おはようございます。
地震大国である日本の構造技術は、他国と比べれば必要に迫られ発展してきました。
大きな橋も大きな建物もある程度の地震では倒壊はおろか、ほとんど損傷することもなく、未曾有の大地震で初めて自然の怖さを体感することになります。
今では当たり前のように耐久性が確保されていますが、過去の被害を反映させながら発展してきました。
構造設計は、専門として構造解析を行う職種となり、今の社会が成り立つのも彼らの功績のおかげです。
話は少し変わりますが、家庭でも出来る地震対策や何か不安的なものを固定したいということは少なからずあるかなと思います。
そのような要望を手軽に実施することも今では難しくないですが、効果的にそれらを実施しなくては意味がありません。
今回はそれらについてのちょっとした力学に関して簡単に説明していき、建築の構造に絡めながら話を進めていきます。
当たり前じゃないかと思う内容もあるかもしれませんがご了承ください。

まず、多くの方が一番興味あるのは地震対策かと思います。
地震での対策は収納内部の飛び出し防止と家具の倒れ留めが一般的かと思います。
収納内部の飛び出し防止は、早い話では収納扉が開かないようにすれば良いわけです。
もちろん施錠すると不便になりますので、耐震ラッチをつけることをおすすめします。
ホームセンターなどでも売ってますが、勢いよく扉が開こうとするとロックがかかり、内部の飛び出しを防止してくれます。
注意点としては、ガラスが入ったような扉ですと内部のものがガラスにぶつかり飛散してしまうの可能性があり、その役割が果たせなくなります。
※強化ガラスであれば問題ありません。
また取り付けたら、勢いよく開けようとしてちゃんとロックがかかるかを確かめることも大切です。
家具の倒れ留めに関しては、よくあるのが家具上に取り付ける突っ張り棒のようなものです。
または断面形状がL型の金物を用意して、壁面と家具を連結することで倒れ留めとすることも出来ます。
もしくは直接家具内部から壁面や床面にビス固定をすることも有効と言えるでしょう。
ここでも注意点があります。
突っ張り棒に関して、家具と天井面を突っ張るわけですが、あまり強く突っ張り過ぎないように気をつけてください。
あまりに強くすると天井が持ち上がってしまい、最悪損傷してしまう可能性があります。
またL型金物やビス固定の場合は、下地に効かせることが前提となります。
床にビス打ちする場合は間違いなく効くと思いますが、手前2点だけ留めるのではなく最低でも四隅をビス打ちすることをしてください。
家具の倒れの原因は横揺れによる家具の回転となります。
家具の床面付近を支点に上部が回転することで倒れてしまいます。
突っ張りもビス固定も回転を止めることが目的となり、結果倒れ留めとなります。
以前、両親に突っ張り棒の倒れ留めを設置するのに相談を受けまして、その時に[上の梁に力を加えないとダメなんでしょ?]と言われたことがありますが、天井面の直上に梁があることはほぼありません。
梁型が露出でもしていない限り、梁に突っ張りをすることはまず出来ませんので、これは誤った情報です。
確かに強固な部分に突っ張りをする方が良いですが、回転を止めることが出来れば問題ありませんので、必ずしも梁に突っ張りをする必要もありません。

ここで出てきましたように、力には押す引く以外の回転による力があり、建築においても回転力は解析の対象となる働きです。
建築分野ではモーメント力と言われますが、支点に対してモーメントが働くと物自体に変形しようとする力が生じます。
物自体の剛性(形状を維持する性質)により実際には変形せず、力が逃げやすいところで押す力や引く力に変換されて現れます。
てこの原理を想像すればわかりやすいのですが、建築物はこのような力の連続を制御することで安定させているわけです。

次に壁面に取り付ける固定棚を考えてみましょう。
何もない壁面に固定棚を取り付けるには、棚受けとなるブラケットを設置しなければいけません。
ブラケットを取り付けるには壁の下地のある部分にビス固定などを行えば取り付けられます。
ブラケットに棚板を置いて、さらにブラケットとビスなどで固定すれば設置は完了です。
注意点としては、やはりブラケットが下地にしっかりと固定できているかが肝心です。
また、ブラケットの形状にも注意が必要です。
固定棚に荷物を置くと下方向に荷重がかかることになります。
先程のモーメントを考えると、固定棚にかかる荷重がモーメント力として支点にかかります。
高い剛性があれば、ブラケットの形状は変形せずに壁面と離れようとする力に変換されますが、下地としっかり固定されていれば力を受け切ることが出来ます。
しかし、剛性が低ければブラケットが変形をしてしまいます。
ブラケットの剛性を高めるためにとにかく硬い材料のものを選ぶというのも方法としてはありますが、荷重から生じるモーメント力は支点との距離が大きければ大きな力となりますので、物質の硬さだけで耐え切るにはかなりの強度を必要としてしまいます。
これを助けるものとして、ブレース(筋交)があります。
おそらく多くの固定棚用のブラケットはブレースがついており、このブレースがモーメント力を別の力に変換してくれます。
結論を言えば、ブレースによりモーメント力は変換されて壁を押す力となります。
感覚的に想像した方がわかりやすいかもしれませんが、壁面に接しているブラケット上部では壁を引く力(離れる力)、下部では壁を押す力(密着する力)となり、どちらの力も壁面の委ねられることになります。

ここからわかるように、部材の強度だけでは限界のある構成をブレース(筋交)などを設けることで、力を変換しながら耐えうる場所まで誘導することも構造には大切な方法となります。
少し想像しにくい話かもしれませんが、力を変換するというのは最終的に耐えるというだけではありません。
高層ビルなどでは、地震対策として免震構造というシステムがあります。
免震構造と合わせて耐震構造という言葉を聞くことがあるかもしれませんが、その違いは耐震構造は部材の剛性を高めたり、ブレースを施して力を誘導することで、力学的に地震に耐える構造体とするのですが、免震構造は力を誘導して免震装置に集め変形させることで力を相殺していく方法です。
わかりやすいところではベッドや自転車のサドルバネを想像すれば良いかと思います。
変形して振動や振幅することで徐々に力を消していきます。
このように建築では、変形を前提とした構造解析も行います。

建築では多くの部材が組み合わさり、それぞれの部材にどのような力が働き、どのように影響を及ぼすかを解析しながら構造を成立させていきます。
近年では構造設計の発展によりこれまで実現し得なかったような建築物も誕生してきました。
金沢21世紀美術館などで有名な建築ユニットのSANAA(妹島和世+西沢立衛)などの軽快で不規則な建築も構造設計による影響が大きいと思われます。
なかなか表には見えにくい構造の世界ではありますが、工学において構造なしにはものは成り立つことが出来ません。
もしご興味があり好きな建物がある際には、その構造設計は誰がやっているのか調べて頂ければまた違った見え方がするかもしれません。

そして、力の働きや流れなど考えることは珍しいと思いますが、何かを支持することが必要になったら、どのにどんな力が発生しているか想像してみると意外と感覚的にわかることもあります。
ふとした瞬間に気にして頂くきっかけになれば幸いです。

では、また。

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