農民がインド政府を打ち負かす:一年にわたる抗議行動が水平性と直接行動の有効性を示す
原文:https://ja.crimethinc.com/2021/11/19/how-the-farmers-defeated-the-government-of-india-a-year-of-protests-shows-the-effectiveness-of-horizontality-and-direct-action
原文掲載日:2021年11月19日
著者:Pranav Jeevan P
以下の報告で、Pranav Jeevan P(原註1)は農民とナレンドラ゠モディ首相の極右政府との闘争・農民が始めた運動の特徴・農民が勝利を収めるに至った手段を探求している。
インドの農民は、農業セクターを民営化して企業が搾取できるようにする政府の活動に対して歴史的勝利を収めた。ナレンドラ゠モディ首相率いる権威主義右翼のインド人民党(BJP)政府は、農民の抗議行動の前にようやくひれ伏し、三つの反農民法 の撤回を受け入れた。一年にわたる農民闘争の成功は示している。水平型で自主管理された分権型抗議行動に何十万もの民衆が参加できるのだ。途轍もない妨害に遭っても持続できるのだ。断固たる権威主義体制に対してさえ勝利を収められるのだ。
大企業メディアのプロパガンダも、国家の弾圧も、政府賛同のギャングによる攻撃も、農民を抑圧できなかった。この抗議行動は、世界で最大の反企業・反政府大衆運動の一つとなった。企業-政府結合体は、インド民衆の自由・幸福・自決の敵だと見なされたのである。政権に対する議会の反発が弱く、司法が人々の直面する不正に沈黙し、官僚機構が抑圧者に奉仕してさらなる搾取の道を開くような場合でさえ、大衆運動は常にこうした抑圧システムを打ち破る道を見つけられるのである。
農民は、多くの困難に直面しながらも、こうした大規模抗議行動を何カ月も維持できた。その理由は二つある。自主管理型組織と分権化である。抗議行動を指揮する指導者は一人もいなかった:あらゆる農民組合が参加する会議が全てを決定したのだ。女性と土地なし労働者がこの大義に参加し、その懸念事項に取り組み、インド社会に通常みられる断層を超えて統一戦線を形成した。その結果、インド社会で一般に見られるカースト差別・ジェンダー差別、そして、憲法第370条の廃止 (これによってジャンムー・カシミール州の特別自治権が剥奪された)のような様々な反社会的法律・廃貨政策・市民権改正法(CAA)・新教育政策(NEP)・環境影響アセスメント(EIA)・蔓延する 民営化・必需品と燃料の高騰・失業・経済危機などの議論が活発になった。農業関連諸法に対抗する闘争はすぐに、今日インドで民衆が直面しているあらゆる形態の抑圧に対抗する闘争として出現した。抗議者達はこの国を苦しめている他の社会的・政治的諸問題に関する懸念について意識するようになったのだ。このことが、警察の暴力・メディアのプロパガンダ・司法の怠慢に対する監視と反発がさらに多くなり、政治家と官僚に自身の行動の責任を取らせようとする抗議者が増えたのである。
これは、ラキンプール゠ケリ事件に対する反応に顕著だった。この事件で、BJPの大臣の息子がSUVで農民を轢いた。BJP政府は明らかに逮捕するつもりなどなかったが、農民は政府に第一次情報報告書(FIR)を提出し、容疑者を逮捕させた。また、農民は、労働運動家の Nodeep Kaur と Shiv Kumar を狙った警察の残忍な暴力に抗議して座り込みを行った。彼等は、カルナール県で農民に対する 警棒での攻撃 を命じたIAS(インド行政サービス)の役人を強制的に解任した。ダリット(訳註:ヒンドゥー教の階層で最底辺)男性の Lakhbir Singh を、シク教の聖典を汚したと主張してシク教徒武装集団(a group of Nihang Sikhs)が殺害したことに対する抗議行動を行った--ダリットの人々が今もインドで最下層民として扱われていることを示している明らかな例だった。
抗議者達が使った方法は先例がなく革命的だった。農民はデリーに向けて行進し始め、デリー周辺の境界を占拠し、幹線道路に陣取った。Rail Roko(列車を止めろ)抗議行動が行われ、農民は列車を止め、旅行者に抗議行動の重要性を呼び掛けた。
抗議者達は国家の残忍な暴力を受けた。軍と警官隊は彼等に厳しい処置を行おうとした。警官は抗議者を止めるために催涙ガスと放水銃を使い、道路を掘り起こし、何重ものバリケードと防砂フェンスを使った。これまで700人以上の農民がこうした抗議行動で殉教している。政府は、彼等が占拠している場所の水道・電気・インターネットサービスを絶ち、抗議者を解散させようとした。それに対して、農民は、抗議の場で生き延びるべく必要物資を全て自分達の村から持ち込んだ。参加者は、大規模なランガル(訳註:無料の食事)を組織し、参加者全員に食事を提供した。
警察と大企業メディアは農民に対する攻撃の両翼として相互に機能していた--だが、農民を打倒できなかった。
こうした自主組織諸形態は、テント・太陽電池式携帯充電ポイント・ランドリー・図書館・医療用の個室・歯科治療といった公共施設を少しずつ確立できるようになった。同時に、農民は、野党が自分達の抗議行動を盗用しないよう注意を払っていた。彼等は、いかなる政治指導者の支持も拒否し、政治家に自分達の綱領を提供しなかった。指導的地位にあると主張されてしまうからだ。抗議者の多くが既成政党を信頼していない。政治の潮流が変われば身を引くと知っているからだ。彼等は、農業関連諸法に反対して自分達を支持すると主張する 政治家の誠実さを疑っている のだ。支持を主張しているまさにその同じ政治家が、「憲法第370条の廃止」など様々な抑圧的権威主義法律を支持していたからだ。
農民達は、厳しい冬も、夏の数カ月も、致命的なパンデミックの波の中でも、デリーに続く道路を封鎖し続けた。この国中にストライキを呼び掛けた。諦めなかった。寒さ・暑さ・新型コロナウィルスで何十人が死んでも。
農民達は知っている。政府の政策のほとんど全てを与党に資金提供している巨大独占企業が命じているのだ。農民達は政治家と官僚だけでなく、インドのトップ億万長者 ムケシュ゠アンバニとゴータム゠アダニの企業帝国をも攻撃しようとしていた。こうした企業による独占が自分達の生活にもたらす脅威を認識し、そうした法律を「農民を助ける」はずの自由市場政策だと説明する「専門家」と「エコノミスト」の言質を受け入れようとしなかったのだ。農民達は知っていた。こうした「専門家」と「エコノミスト」のほとんどが、企業が出資するエアコンの効いた事務所に閉じこもり、インドの農業経済が持つニュアンスを直に学ぼうとしたことは一度もない。農民達は知っている。世界銀行とIMFのトップ゠エコノミスト全員がインドには新たな農業法が必要だと合意すれば、間違いなくそれは悪いニュースだ。BJP政府が制定した農業関連諸法の主な受益者がアンバニとアダニだったため、パンジャーブ州とハリヤーナー州の農民は、アンバニが所有するジオ社のSIMカードを使わなくなり、ライバル企業のネットワークに変更した。パンジャーブ州では、リライアンス゠ジオ社の通信塔やその他のインフラが数多く破壊された。農民は、給油ポンプなどリライアンス社の製品とサービスをボイコットし始めた。
農民と政府との対立を終わらせるためにインドの最高裁判所が介入したことがあった。農民はその要求を断固として主張し、裁判所に公然と挑戦した。裁判所が命じても抗議行動を止めないと主張したのだ。何故なら、それは彼等にとって生死に関わる問題だからだ。農民は司法システムを信用しなくなった。最近の最高裁の判決は、大抵、政府の要求に迎合しているからだ。最終的に、裁判所も譲歩せざるを得なくなり、法執行を18カ月間停止するよう命じたのである。
実質的に全てのニュースメディアが政府賛同の談話を放映している--農民に対する誤ったプロパガンダを広め、農民を「カーリスターン主義者」(原註2)だとか「テロリスト」だとか呼び、悪者扱いし、抗議行動を子供じみていると言い、農民を「無知」だと呼んだ。大企業メディアは、抗議行動が拡大しているニュースを意図的にもみ消していた。しかし、そんなことでは、この運動は全く止まらなかった。参加者はそれぞれの州の村々を直接訪れ、数百人・数千人の集会を開き、農業関連諸法に関わる諸問題を議論し、それらは自分達の生活に悪影響を及ぼし、企業に翻弄されてしまうと論じた。こうした集会に参加した人々は、学んだことを自分達の村落と家族に伝えるよう勧められた。こうした草の根レベルで直接人々と接する直接コミュニケーションのチャンネルは、政府が広めようとしたプロパガンダよりも遥かに強力だった。お抱えの大企業ネットワーク全てを駆使してもかなわなかったのだ。
農民が情報を広めるべくソーシャルメディアを始めようとすると、フェイスブックと子会社のインスタグラムは、政府に批判的な他のページと共に農民のページを停止するようになった。ツイッターは、農民が法律を論じるために使っていた500以上のアカウントを削除した。フェイスブックは、農民(Kisan)運動内部からの公式的情報ソース、キサン゠エクタ゠モルカ(Kisan Ekta Morcha)が属しているページを削除したものの、人々から大規模な反発を受けて、ページを元に戻せざるを得なくなった。
リアーナ(訳註:歌手・女優)が農民の抗議行動への支持をツイートし、国際連帯とインド政府への反発の機運を高める手助けをすると、インド国家は被害対策を行おうと自国のメディア有名人を複数使って、これインドを侮辱する「国際的陰謀」だと言わせたのだった。
それぞれの州で選挙が行われる--BJPが長年狙っていたベンガル地方もそうだ--中、農民はその代表者を送り、直接人々に演説して反農民諸法の性質を説明し、BJPに投票しないよう依頼した。その結果、いくつかの州でBJPは選挙に大敗した。今後行われるウッタル゠プラデーシュ州(UP)での選挙がインドのBJP支配の運命を決めると言っても過言ではない。この選挙は農民達が抗議行動を激化させている中で行われる。2020年11月26日の抗議行動開始記念日には様々な大規模集会がインド全土で計画されている。BJPはこうした選挙で、新型コロナウィルス大流行の第2波を抑えられず、酸素不足による大混乱を引き起こした壊滅的大失敗に対する反発を恐れている。
そのため、BJPは選挙の前に農民をなだめる緊急措置を講じた。政府には農民の要求に従う以外選択肢はなかった。農民達はモディ首相の声明を全く評価しないと主張した--次の国会で法律を廃止してほしいと思っており、それまで抗議行動を継続するつもりなのだ。また、農民達は、農産物の最低保障価格を確保してほしいとも考えている。現政府は、民衆の要求を無視していた--蛮行・暴力・プロパガンダで異議を攻撃し続け、民衆を犠牲にして民営化を実行するつもりだった--が、敗北し、方向を変えざるを得なくなっている。
これが、インドにおける一連の強力な運動の最新情況である。差別的な市民権改正法(CAA)に対する抗議行動はこの同じ道程の先例だった。CAAは2019年12月11日に可決されたが、それからほぼ2年経っても、政府はこの法を実施するための規定を作成できていない。この法律に対してインド全土で噴出した大規模抗議行動には社会のあらゆる階層の人々が参加した。抗議行動を支えたのは、国中で抗議の占拠を始めたイスラム教徒の女性達だった。結局、パンデミックによって抗議行動は中止せざるを得なくなったが、政府は、この法律を施行しようとした場合に起こる大規模な反発をなおも恐れているのだ。民衆が組織を作り、共に力を行使できるという意識を持つようになると、どんな権力者も民衆を止められないのである。
アナキズムの諸原則--水平型で参加型の意思決定・権力の分散化・連帯・相互扶助・自発的連合--はこの農民抗議行動に一目瞭然である。アナキストは直接行動を用い、ヒエラルキーを破壊し、不公正に対して抗議し、コミューンや非ヒエラルキー型コレクティヴといった対抗制度を創造して自分の生活を自主管理する。アナキストは、反権威主義的関係性を集団的機関に育もうとする。そのことで、誰もが自分に影響する個々の決定事項に平等な発言権を持てるようにし、指導者や幹部に頼らずにグループのメンバー間で大まかな合意を形成しようとしている。アナキストは公的空間を占拠し、再生すべく組織を作り、そこでアート・詩・音楽を融合してアナキズムの理念を表現する。スクウォットは、資本主義市場や権威主義国家から公的空間を取り戻す一つの方法である。同時に、直接行動の手本としての働きもする。
農民の抗議行動にこれらの諸原則・諸実践の全要素を見ることができる。そして、これが農民抗議行動の頑強さと成功の理由なのだ。この勝利が、大規模組織が成功するためにはトップにいる指導者と底辺にいる盲目の追随者による中央集権型指揮命令系統が必要だという神話を覆している。これらの抗議行動に指導者はいない。参加者自身が従うべき行動方針について合意に達しているのだ。民衆が自己決定し、小規模コミュニティの中で互いに調整し合い、支援し合えば、最強の集団的力と連帯が創造されるのである。
非常に多くの人々がこれほど長い間集団的に組織を作り協力しているおかげで、これらの抗議行動が成功したという事実は次のことを示している。私達は、外から押しつけられた諸制度抜きに、自主組織を作り、コミュニティを創造できる。権力を集中させて民衆を抑圧している独裁的官僚制と権威主義政府など不要なのだ。こうした抗議行動のほとんどは、正規教育を受けていない女性達や貧農等の社会的に追いやられたコミュニティの人々が推進していた。彼等は協力して、裕福で高学歴の人々の間に存在するコミュニティよりも、もっと倫理的で平等なコミュニティを創造できると示した。抑圧された不遇な人々が、相互扶助と直接意思決定を行うコミュニティを自分達で組織できると示した。強制的でヒエラルキー型の統治システムは必要だとされているが、実際には彼等を搾取するためだけに存在しているのであり、そんなものは必要ないと示したのだ。
世界中の人々は農民抗議行動の成功から学ぶことができる。誰もが、自分達を搾取している抑圧的体制に対する闘争を実行できるのである。世界は新たな時代の抗議行動と活動主義を目にしている。農民の抗議行動は、権威主義的体制をどのようにして打破するのかを示す民主主義の狼煙となるべきなのである。
(訳註:参考文献は割愛しました。関心ある方は原文を参照してください。原文には著者のインタビュー動画も掲載されています。)
原註1
著者はインド工科大学ボンベイ校で博士号を取得している学生活動家であり、インドの高等教育機関における疎外されたカーストの表現に関わる諸問題の研究に取り組んでいる。また、2019年12月から2020年3月に行われた市民権改正法(CAA)に対する抗議行動の積極的参加者で、アンベードカル主義反カースト運動と協働するインドのアナキストである。著者は農民運動を支援するソーシャルメディアチームに参加し、抗議行動から直にニュースを拡散し、抗議アートを創り出す手助けをしている。
原註2
カーリスターン主義者は、インドとパキスタンにまたがるパンジャーブ地方にカーリスターンと呼ばれる主権国家を設立して、シク教の母国を創り出そうとする分離独立主義グループ。この言葉は、パンジャーブ地方出身のシク教徒が大部分を占める農民抗議行動を悪者扱いするために使われた。