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「労働法はフリーランスを守れるか?」橋本陽子著
「労働法はフリーランスを守れるか・これからの雇用社会を考える」橋本陽子著・ちくま新書2024年3月発行
著者は学習院大学教授。主著に「労働者の基本概念・労働者性の判断要素と判断方法」がある。
ウーバー、アマゾン宅配員として働くギグワーカー。多様な働き方という美名のもと、労働法に保護されない個人事業主には、労災保険の適用もない。最低賃金、長時間労働の規制も、失業時の補償もない。
労働法は誰のための法なのか?本書は、フリーランスの「労働者性」を考え直し、今後の日本の雇用社会の在り方を問う。同時にEU、欧州の労働法制の動向から日本の労働法制の将来を問う。
岸田内閣は「新しい資本主義」で「成長と分配の好循環」「コロナ後の新しい社会の開拓」を目指すという。内容は過去20年間言われてきたことの繰り返し、結局は新自由主義の促進、格差拡大をもたらすだけであろう。
フリーランス新法制定に伴う「雇用類似の働き方に関する検討会」座長は、フリーランスの位置づけを明確に提示する。今後の雇用社会は、①組織内キャリア、②スペシャリスト型キャリア、③テンポラリー型キャリアの三つに分類する。この中で②にフリーランスを含め、③にパート等非正規、ギグワーカーを含める。
これは1955年、経団連提唱「新時代の日本的経営」で述べた①長期能力蓄積活用型、②高度専門能力活用型、③雇用柔軟型の三つに分類、①が正規社員、②が専門職、③が非正規を生み出した考え方と全く変わっていない。日本は40年前の労働者意識、雇用社会に対する思考方法から進歩はない。
フリーランス新法は独禁法の流れで制定された法律。下請法を拡大した中小零細事業者保護の法律である。従って労働者性の視点からの労働者保護は弱い。そこには労働者性、使用者性の視点はみられない。
著者はEU、ドイツの労働法制研究の中で、日本との違いを挙げる。ジョブ型雇用も、欧州では、産業別労働協約による職務給が統一化されている。労働協約のカバー率は全労働者の80%とされている。企業内組合中心の日本では実現が困難な制度と言える。
2022年、25歳以上有期雇用労働者はドイツで7.8%、EU全体で10.8%を占める。ドイツでは有期労働は客観的事由を必要とする。いわば補助的、臨時的業務に限定される。日本は正社員同様に長期的、恒久的な雇用となっているのと大きな違いがある。
現在のEUは市場統合を目的とした共同体ではない。社会正義の共同実現を求める共同体である。いわゆる「ソーシャルヨーロッパ」の考え方である。故に労働法制も労働者性の価値を重視、労働者保護を優先する。
ドイツの「闇労働」という税、社会保険料支払義務違反の働き方、さらに「偽装自営業」の摘発など、労働規制を強化している。その点で日本の労働法制は依然として旧態依然であると言えるだろう。