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税は誰のためにある?

「私たちはなぜ税金を納めるのか?・租税の経済思想史」諸富徹著・新潮選書2013年5月発行

著者は1968年生まれ、京都大学大学院経済学研究科教授である。
本書で「税とは何か?国家とは何か?資本主義とは何か?を考え、21世紀の税制を展望する」と言う。

第一章でイギリス市民革命による租税を論じる。社会契約のトーマス・ホッブズの国家論、ロックの国家論から自主的納税倫理が成立した。17世紀、英国で動産査定課税、内国消費税が生まれた。

アダムス・スミスは内国消費税を物価上昇を招くと批判し、所有、所得による課税を主張した。

英国の租税論は市民革命による「政策遂行手段の租税」である。即ち、租税は市民のために存在すると英国は考える。

第二章でドイツの租税を論じる。ヘーゲル法哲学は「国家は必然的組織、個人と国家の一心同体論」を主張する。ここからドイツ租税論は「財源調達手段の租税」である。即ち、租税は国家のために存在するとドイツは言う。

ここに租税、納税は市民の権利なのか?それとも義務なのか?の違いが生まれる。

租税システム導入時期は大きな戦争の時期に重なる。英国、ドイツは対ナポレオン戦争の時期、米国は南北戦争戦費調達の必要から租税システムを大きく変更した。

日本では明治20年、日清戦争の7年前に税制大改革が行われた。当時、大蔵省は税制改正にイギリス案を提示した。伊藤博文はそれを拒否、ドイツ税制を選択した。

米国の租税制は、関税中心の共和党と所得税・法人税中心の民主党の争いが長く続いた。1929年大恐慌後のニューディール政策の中でルーズベルトの反独占、富の再分配政策が生まれた。

その結果、政策目的課税と課税権力への民主主義による監視の重要性が主張された。下からの働きかけ、市場経済の課税によるコントロールである。

現在、グローバル経済の中、多国籍企業の利潤に対する課税が問れている。グローバル・タックスである。

資本主義の特徴は無政府性にあるとマルクスは批判する。一方で資本主義の自律性を主張する学者もいる。市場経済をどのようにコントロールするか?である。

2013年、EU11ケ国で「金融取引税」が施行された。ケインズの証券取引税、トービン税の考え方と同じである。金融の利潤に対してではなく、金融取引そのものに課税される。画期的である。

現在、反グローバル・タックスの中心は米国である。今後の課題は、EU一部のグローバル・タックスをどう全世界に拡大するか?課税権力のグローバル化は可能か?さらにどう徴収するかより、その税金を誰が使うか?である。

国家、企業、市民の三者の利益関係のバランスをいかに調整するのか?そのためには、市民、下からの監視、コントロール、民主主義の育成が必須である。

衆議院選挙報道を見ながら思う。本来、メディアがすべきことは納税者主権、国民の在り方、そして自由とは?民主主義とは何か?国民主権の将来を問うべきではないか。

今こそ、税について考えるもっとも良い時期。ぜひこの本を読むことをお薦めする。

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