【2024版】勤め先選びで爆損するなかれ(「医薬品」編)

こんにちは、日本爆損防止委員会です。

当会は、ここ数年でにわかに盛り上がりを見せる株・暗号資産・FX等の金融取引により、取り返しのつかない爆損をしてしまう人を無くすことを目的とし、発信活動をしています。

本稿は金融取引関係ないのですが、投資や投機をしていなくてもあらゆる人が関係のある話、会社選びの話をさせていただきます。

以前の記事では、上場企業の中で最多数派である「情報通信・サービスその他」、そして「小売」セクターの企業の決算情報を分析し、働きたい会社を探しました。

今回注目するのは「医薬品」セクターです。景気の変動の影響を受けにくく、業績が安定している業種はディフェンシブ関連と称されますが、医薬品はそのうちの1つです。

製薬会社などに興味がある人でないと全く興味がないかもしれませんが、これから景気がどうなっていくか不透明な中で、医薬品のように景気に左右されにくい業態へ就職するのは、安定した人生基盤を築くためにも悪くない選択肢かと思います。

こういった企業分析noteを書くときは、実際の会社名出してあれこれ言うことに多少のリスクがあるので有料にしているのですが、医薬品セクターは筆者がいる業界なのでなるべく多くの方に興味を持っていただけるよう、特別に完全無料でお出しします。

ディフェンシブ関連とはいえ、決算を見ていくと勝ち組と負け組の差が如実に現れる結果となりました。今回も企業の決算情報を定量的に分析することで、フィーリングだけに頼らずに、爆損しなそうな会社を見つけていきましょう。


株価・決算データの定量分析

これから示すグラフは、出典があるものを除き全て筆者が独自に作成したものです。

勢いのある産業か?

まず、「小売」のセクターは勢いのある成長産業なのでしょうか?会社選び以前に、衰退産業に入ってしまったらその時点で築けるキャリアや金融資産はたかが知れてしまいます。

去年(2023年)の医薬品セクターETFのリターン(騰落率)と、市場平均としてTOPIXのリターンを比較してみましょう。
以下plotしているのは累積リターンで、青がTOPIX、緑がセクターETF、赤がその差(Spread)です。

TOPIXとセクターETFのリターン比較

TOPIXにセクターETFが負けていますね!去年だけのデータではありますが、市場平均に負けているわけですから、少なくとも勢いのある産業ではないかもしれません。ディフェンシブとはいえ毎年TOPIXに勝てるわけではないんですね…。

こういった中でも、やはり勝ち組、負け組の企業があるのでしょうか。個別のデータを見ていきましょう。

売上・利益は出せているのか?


日本の株式市場には、ざっくり企業規模別に「プライム」「スタンダード」「グロース」に分けられます。
「医薬品」セクターの決算データ(2023年当期純利益)を集計したところ、黒字率は以下のように

プライム , スタンダード > グロース

とほぼ企業規模順に収まりました。プライム、スタンダードは90%を超える企業が黒字なのに対し、グロースは、18%というのはどういうことでしょうか。医薬品は新興企業にはかなり厳しい業態のようです。

各市場の黒字率

企業比較のため二次元空間にマッピングしましょう。当期純利益 (Profit)を横軸、売上高 (NetSales)を縦軸に、データを取得できた「医薬品」69社をマッピングしてみます。縦軸はlog scaleにしています。
赤がプライム、青がスタンダード、緑がグロースです。

売上高と当期純利益

グロース(青)は会社によって差はあれど、売上規模が小さく、利益を出せている会社が確かに少ないですね。プライム(赤)はさすがの売上規模ですが、大事なのは横軸の当期純利益ですね。売上から諸経費を引いたものですが、この利益を積み上げられる会社が成長している会社です。

売上上位を拡大して見てみると、面白いのは縦軸の売上規模は(だいたい)同じでも、横軸の利益には大きな差があることです(横に広がっている)

売上規模は同等でも、利益は大きく違う

右上のぶっちぎりの利益を出している2社は、利益が大きい順に右から中外製薬 (4519)武田薬品工業 (4502)です。特に中外製薬は、3,744億円の当期純利益を叩き出して他社を圧倒しています。3位は塩野義製薬 (4507)です。

塩野義製薬は、製薬会社なのにVTuber始めたりしていたので、利益が出てるんだろうなぁとは思っていましたが、確かにしっかり稼いでいるようです。

一方、住友ファーマ (4506)は5,555億円の売上を出しながら、745億円の赤字(拡大)となり、図では左上にポツンと乗る結果となりました…。プライムで次に赤字の企業は参天製薬 (4536)でした。こちらの目薬を使ったことのある方も多いかもしれません。

貴方は自分が勤める会社がこの図のどこにいてほしいですか?

そういった視点で会社選びをするのも、フィーリングだけにならずいいかなと思います。

稼ぐ力は?財務の健全性は?

生の売上と利益を見るのもいいですが、企業の稼ぐ力をより標準化された形で定量化するために、ROA (Return on Assets: 総資産利益率) を見てみましょう。
ROAは以下のように、資産に対する当期純利益の%として計算されます。資産をどれだけ有効に活用して、利益を作っているか、すなわち企業の稼ぐ力を標準化した形で定量している指標です。

https://doda.jp/companyinfo/contents/finance/009.html

我々の給料は企業の稼ぎから来ているわけですから、企業の稼ぐ力は高い方がいいですよね。

また、企業の財務健全性を図る指標として、自己資本比率を見てみましょう。自己資本比率は、負債含む全体資産のうち、純資産が占める割合です。

自己資本比率が高いということは、金融機関等に返さなければお金の割合が少なく、財務が健全であると言えます。50%を目安にしている方も多いでしょう。

以下は、横軸にROA、縦軸に自己資本比率をとって「医薬品」の企業をマッピングしたものです。

ROA vs 自己資本比率

ROAは5%を超えると優良と言われますが、そもそもグロース(青)企業は赤字(ROAがマイナス)がかなり多いですね…ごく一部の黒字グロース企業は、自己資本比率も60%を超えており安定した経営基盤を持っているようです。こういったグロース企業がどういう戦略で大手と戦っているのか(あるいは戦わなくていい戦場を見つけているのか)、興味深いですね。

スタンダード上場企業(緑)で、ROAが50近く、自己資本比率が80%近い会社が図右の方にポツンとありますね。こちらはミズホメディー(4595)という、体外診断用医薬品の開発・製造・販売を行っている会社です。ウイルス検査や妊娠検査薬が主力で、特に新型コロナウイルス・インフルエンザウイルス抗原同時検出キットが2023年にすごく売れたようですね。私もコロナになってお世話になったと記憶しています、辛かった…。

本業で儲けられているか?

稼ぐ力をROAで定量していましたが、例えばIT企業が不動産を持っていて、そこからの賃料でIT以上の利益を上げているかもしれません。もしかしたら本業自体は赤字だけれども、金融取引等の黒字で補っているのかも知れません。それはそれで会社経営としてはいいのかもしれませんが、成長する会社というのはやはり本業が伸びていないといけません。

本業で稼ぐ力を定量するため、営業利益率を見てみましょう。売上高から、売上原価と販売費及び一般管理費を引いたものの割合です。

https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/44779/

ROAを横軸、営業利益率を縦軸にとった図を見てみましょう。基本的には正の相関が見て取れます。

ROA vs 営業利益率

ほんの一握りですが、ROAがマイナスなのに営業利益率がプラス(図左上)だったり、ROAがプラスなのに営業利益がマイナス(図右下)の会社もありますね。キッセイ薬品工業 (4547)はその一例です。高脂血症、排尿改善薬が主力のプライム企業で、ROA4.76ですが、営業利益率が-1.67%とややマイナスです。

図右上にポツンと、稼ぎすぎている会社がありますが、緑の点は紹介済みの
ミズホメディー(4595)ですね。それ以降右上から、中外製薬、塩野義製薬、と続きます。

決算から見る働きたい企業ランキングTOP11

以下の5つのポイントの合計でランキングを作りました。

  1. 「売上成長率」:過去5年で何回増収があったか (0 ~ 5回)

  2. 「利益成長率」:過去5年で何回増益があったか (0 ~ 5回)

  3. 「稼ぐ力」:直近ROA (6分位: 0 ~ 5)

  4. 「本業で稼ぐ力」:直近営業利益率 (6分位: 0 ~ 5)

  5. 「財務健全性」:直近自己資本比率 (6分位: 0 ~ 5)

どの指標も高ければ良いです。

投資判断をしたいわけではないので、PBRなどの割安指標や、配当利回り、配当性向といった指標は考慮に入れてません。あくまで、こういう会社で働いたらキャリアも金融資産も爆益が期待できるであろう会社を選ぶことが目的です。もちろん「医薬品」セクターに属する企業限定です。

以下の会社実名が含まれるコンテンツは有料にしないとトラブルの元なのですが、冒頭にもお話した通り医薬品セクターに興味を持ってほしいので本稿だけは無料でお出しします。

本稿としては、求職者の貴方に上場企業は企業の通信簿ともいえる決算データを公開しているのだから、その定量的なデータを見て会社選びの参考にしようというメッセージが伝われば嬉しいです。

SSSランク(25点満点)

25点満点の会社は…いませんでした!ディフェンシブ関連なので、これはちょっと意外ですね。別記事の情報通信・サービスその他セクターでは、10社がランクインしていました。

SSランク (24点)

24点の会社は1社でした。小野薬品工業 (4528)です。武田でも中外でもなかったです。
小野薬品工業は2016年から売上高は毎年前年比プラス、営業利益でも2019年以降毎年前年比プラスで推移してきており、自己資本比率85%越えでROAは13.09と全く文句のつけられない数字を叩き出しています。製薬業界は新薬を出してから特許が切れるまでにしっかり稼いで、次の新薬の開発に繋げるというサイクルを繰り返さないといけないのですが、がん新薬「オプジーボ」拡大が効いているようです。

Sランク (23点)

23点の会社は以下の3社でした。中外製薬、入ってきましたね。

  • 中外製薬 (4519)

  • 日本新薬 (4516)

  • セルソース (4880)

いずれもプライム企業です。中外製薬 (4519)のROAは20越えという異次元の領域に到達しています。自己資本比率は75%超えで安定ですし、2017年以降売上高営業利益共に毎年成長を続けています。また、データサイエンスに積極的に力を入れている会社だという印象もあります。

データサイエンスの日なんて普通の製薬会社にはないですよ…すごいですね。外資のロシュと提携しており、タミフルはこの会社からきています。抗がん剤や関節リウマチ剤を主力としています。

A- ~ AAランク (20-22点)

以下の6社がランクインしました。スタンダードが1社、グロースが2社入っています。

  • 栄研化学 (4549)

  • 塩野義製薬 (4507)

  • ロート製薬 (4527)

  • ミズホメディー (4595)

  • シンバイオ製薬 (4582)

  • ラクオリア創薬 (4579)

塩野義製薬 (4507)ロート製薬 (4542)は有名ではないでしょうか。ロート製薬は目薬が有名だと思いますが、スキンケア化粧品が急成長しているらしく、機能食品や再生医療も展開しているということで、勢いがありますね。

栄研化学 (4549)は臨床検査薬大手ですね。コロナ検査薬でイケイケのミズホメディー (4595)も唯一のスタンダード企業としてランクインしています。

グロースからはシンバイオ製薬 (4582)ラクオリア創薬 (4579)の2社が入りました。赤字だらけの医薬品グロース界の中で、スター的存在ですね。いずれも長い赤字期間を経て最近黒転した企業ですが、大手がカバーできない疾患は必ずあるので、他の業界に比べ赤字率が非常に高いですが、グロース企業にも期待したいところです。

以上、得点20点までの企業を見てきましたが、いかがでしたでしょうか。ご検討の会社、在籍中の会社はありましたか?

会社名とスコアは以下にまとめていますので、「自分の会社入ってるかも!?」という人は見てみてください。

それでは、ここまで読んでいただきましてありがとうございました。また次回の記事でまたお会いしましょう。


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