77日目 日記「花の名前」
彼岸花はどうして畔を縁取るように咲くのか。
突然、境界のようにして現れる。日に日に縁取りが太く濃くなりまた気付かないうちに消えていく。
疲れて帰って家のポストを開けると、不用品回収のチラシが一枚入っていた。取り出した瞬間風が吹いてチラシが飛んでいった。
フェンスをこえて草むらにチラシを拾いに行く。
草むらの草にうずもれるようにして咲いているかわいいぽわぽわしたむらさきの花が気になり引き抜いて帰る。玄関の花瓶に水を入れその花を飾る。
名前が気になって調べると蔓穂(つるぼ)というらしいことが分かった。
つるぼ、つるぼ、と口に出してみる。
見分けて名前を呼ぶようになると、途端に景色の中から立ち上がってくる。
ずっとそこにいたのだけれど。
通りすぎる景色の中に、まだ知らないものたちがざわざわ、ざわざわ、と存在している。
すべて知る前に死んでいく。当たり前のことだけれど。
モノクロの中のパートカラーのようにして、ある日ふっと色がついて生きているうちに知りあうものはみんな偶然。
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