79日目 日記「浮上」

久しぶりの一日休みでずいぶんぐっすり眠った。

たくさん眠ると頭の中のあれこれが闇鍋のようにぐつぐつとシャッフルされて、あれ?こんなものあったっけ?というような思いがけない記憶が浮上してくることがある。

今日は関西に住んでいた頃に複数の展覧会場で度々姿を見た男性のことをふいに思い出した。

まったく知らない人である。ただスーツ姿で固いビジネスバッグを持って美術館に来る人というのは少ないので目立っていた。向こうが私のことを認識していたかどうかは知らない。

個人ギャラリーではない美術館の展覧会の会期は2ヶ月近くあることが多いので同じ日の同じ時間帯に来ているという時点ですごい確率だと思うのだけれど、それがいくつもの会場で何度か起こり、あ!またあの人だ!と思うようになった。

別に探し回ったり後をつけたりはしていないのに、それなりに広い展覧会場の中でふと見るとその人が近いところにいて驚く。きっと会場に入ってからのタイムスケジュールの刻み方、動線までもが似ているのだろうな、と思った。

親子連ればかりの人気絵本の原画展会場で単独で来ているなんだか素性の分からない浮いた存在の大人どうしとして出くわしたこともあった。子ども達にまじって自由に手に取れるよう置いてある絵本の過去作品などを真剣にひとつひとつ見ていくような大人は少ないのでどうしたって目立つ。

また別の会場ではミュージアムショップで私が箔押しの高級なポストカードを奮発して1枚だけ買うのにどれにするか吟味していたところ、連れている容姿端麗な女性に向かって「買ってあげるから好きなだけ選んでいい」と言っているらしき男性の声がしたので、なんて贅沢な!と思って顔を上げ声のした方を見やるとその人だったこともあった。

あの人、どうしているんだろうな。今も美術館に通っているのかな。

作品に集中しているはずの館内で認識するくらい近くにいたことが複数回あったのだから、ひょっとしたら認識していない時にも実は同じ会場にいた可能性もあるよな、なんて今さらそんな考えに思い至る。

何のオチも終着点もない日記ですが、袖振り合うも多生の縁、というのは実際あるんだろうなという気がしている。

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