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剣士と貴族(うち+よそ)

「アンタ、読書してるけど好きなの?」
ふとそう言われて顔を上げる。
話しかけたのは赤と黄色い模様のバンダナを撒いた金髪の女性だった。彼女に同行してもらっているが、女一人で大丈夫かと心配になった。
依頼に女一人はいけないと書かなかった私も悪かったかもしれない。
しかし彼女は強かった。戦士らしい熱気のある戦い方をする。
私にはそれが眩しいと思えた――前衛で戦う『彼』とはまた違うものだ。

「ええ、本が好きなので。貴方は読まないのですか?」
「ううん。それよりワタシは身体を動かした方がいいわ」
隣に座っていた彼女が伸びをした。マイペースな性格らしい。
「そうですか。では一つアドバイスをさせていただきます」
「ん?なに?」
女性は首を傾げた。確か名前は――ルーシア・ジーク。剣士だ。
「冷静に物事を見て、周りを見る事が大事です。あまり時間は経過してはいませんが、貴方は突っ走ってしまう癖がありそうですから。
余計でしたらすみません」
今の私は護衛をしてもらう貴族として振る舞っている。
本当は戦えるのだが依頼をしてみて、純粋にどんな感じが知りたかったのだ。
もちろん名前は偽名だが。
「いいのよ。そういうのありがたいからね。えーっと…ルドックさん?」
「はい、お名前を覚えてくださって嬉しい限りです」
この名前も『彼』をもじったものである。私はファントムであり、変化する鏡の魔物でもあるが――まあこういうのは昔はよくやっていたものだ。
私はあらゆる偽名を生んできた。名前は適当すぎたかもしれないし、真剣に決めたかもしれない。
しかし今回は愛する『彼』の名前をもじって名乗りたかった。本人が来たらすぐに分かってしまうのだろうか。

「何かこのあたりじゃ見ないなと思ったのね。苗字は隠してるし…」
「仮の苗字ならありますよ。ですが、私とあなたならば名前で間に合うと思いまして。必要ですか?」
「いらないわ。護衛相手に必要以外な情報は不要だもの。それに護衛に関わる情報はちゃんと聞いてるから平気よ。ま、ワタシは癖でフルネームを名乗っちゃうけどね」
彼女は歯を見せて笑った。その表情が従者と重なった。
…今リブラは何をしているんだろうか。
「貴方は素直でいい人ですね。ただ私が言うのも難ですが、お金がイイからと貴族の依頼ばかり受けてはいけませんよ?彼らはとても傲慢で狡猾な者ばかりですから」
彼女には知り合いに近い物を感じたからこそのおせっかいだ。
「ふーん、そうなの?でもアンタも貴族だけど素直よね?私にアドバイスしてくれるし。でも忠告は受け取っておくわ」

そう言って彼女はお礼を言って、剣の手入れを始めた。
私と彼女がこの依頼を終えて、次に出会う時はなるべく敵対しないようにしたい。
そう思えたのは何故だか、分からなかった。

【お誕生日おめでとうございます!】

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