ナンパのテクニック3
夜、渋谷駅。待ち合わせしている友だちと電話をしながらハチ公前にいたら、駅の方から爽やか〜でいかにも俺モテますって自覚してそうな雰囲気の男性が近寄ってきた。わたしの前で立ち止まるやいなや、そこでいきなりじゃんけんが開始された。
「おねえさん、じゃんけんしましょ!」
こちらが電話していることはお構いなしに話しかけてくるので、最初は当然無視を決め込んでいたが、あまりにも突然の出来事に動揺してしまい、電話口の友だち相手に急に敬語になってしまった。友だちがこれからハチ公に向かうということで話は落ち着いたので、電話を切った。
いつもナンパをされるたび、こちらを一人の人間としてでなくただの"若い女"としかラベリングせずに性的に消費しようとしてくる無礼さが透けて見えて腹が立っていた。
逃げるとか無視とか、いろいろやってみたけど、話しかけられた時点でこちらはマイナス感情なので、せっかくなら「いかに自分に貼られたラベルと相手の身ぐるみを剥がし、ナンパ師の一人の人間としての言葉を引き出せるか」というチャレンジをすることにしていた。
俺モテますと自覚してそうな兄貴は、実際のところかなりモテるだろうなと思った。「おねえさんめっちゃタイプなので話しかけちゃいました」「俺ナンパしたの初めてです。」「どうですか、お茶でも飲んで花見をしながら今後の二人の未来について話しましょう」と饒舌に、ろくな恋愛をしたことがない女性やちょっと思考力が弱い女性が浮き足立ってついていきそうな言葉を矢継ぎ早に垂れ流している。女慣れしてない男性が、こんなスマートに話しかけられるわけない。
今までされてきたナンパはほとんど下心見え見えだったので、すぐにイラついていたが、このお兄さんは余裕があって、その独特なゆったりさが優秀な営業マンっぽいなと思った。
「おねえさんこれからなにするんですか?」
『友だちと待ち合わせです!』
「俺盛り上げ役やりますよ!」
『いや、今から大事な友達同士が四年越しに仲直りするのを見届ける激アツ回なんで無理です』
「あーそりゃ俺いらんなあ。」
『いらないですね』
しつこく食い下がるわけじゃなくて、相手の話を聞いた上で話のラリーを絶対に止めない感じ、まじで営業マンっぽいな。友だちが到着するまでまだ時間があったので交戦することにした。
『お兄さん、モデルとかやってるんですか?』
「いや全然っすよ」
『へえー!お顔立ちが整っているので表に出るお仕事されてる方かと思いました。何やってるんですか?』
「えっと〜…営業マンです」
読み当たって嬉し〜〜〜〜〜〜〜!!!
『え!営業、すごい!なに売ってるんですか?』
「まあ不動産とか…」
『成績優秀そう〜!!』
「そうすね、いつも割と上位っすね(得意気)」
『お兄さんの話し方とか人丸め込むの上手そうですもんね!』
「(´⊙ω⊙`)」
『そうそう!わたし営業できるようになりたいんですよ!なにかコツとかありますか?』
「えー、なんだろうなあ…。ん〜
って、そんな真面目な話しにきてるんちゃうねん、なんでやねん!笑笑」
『アハハハハ☺️!』
(チッ、聞けなかった……。)
『すみません、もう友達来ちゃうんで』
「え、まって、今日じゃなくてもいいから今度遊ぼ。連絡先教えて」
『じゃあお兄さんのインスタ教えてください!ID覚えてあとでフォローしておきます〜』
「え、わ、わかった…」
見せられたのがフォローフォロワー30人くらいの裏垢か捨て垢だった。
絶対これ裏垢やん、いやナンパしといてひよんなよ〜wwwwwwwwって爆笑しながら言った直後、友達から電話がかかってきて話してたらどっか行った。
ナンパが向こうから逃げた!
勝った!!
俺の勝ち!!!
キモチェ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
ナンパされた後にこんなに爽快感を感じたのは初めてだ。
今までナンパに腹立っていたのは、ナンパ師に対する怒りではなく、相手はこちらを利用する気でいるのに自分ばかり誠実に対応しようとしている馬鹿馬鹿しさに対しての怒りだったと気づいた。目には目を。
次にナンパされたとき、なんて返したら一番笑えるかをいろんな友だちに聞いてみよう。今までムカつくことのひとつだったことが、ゲームイベントになった。今はそれをネタにするのがむしろ楽しいまである。