「訪問者」

「訪問者」




【あらすじ】

椎名太助はデイトレーダーを自称する実家暮らしのニート。トレーダーとしての儲けはほぼなく、貯金もない。投資の元金を稼ぐため、ネットのご近所掲示板の「Masaki」という人物が求人を出していた「家の留守番をする」バイトに応募する。


留守番開始から1週間経った後、涼子という女性が訪れてくる。彼女はMasakiの妻だった。椎名は涼子から、この物件はMasakiが家族に内緒で借りていること、そしてMasakiがここ数週間音信不通であることを聞かされる。涼子は「Masakiは今同僚の新田という女性といるに違いない」と推理していた。


数日後、Masakiの同僚の新田が家を訪れてくる。そして彼女もまたMasakiを探している、というのだ……。


次々と訪れる「訪問者」。彼等は全員Masakiを探している。彼等が語るMasakiという人物はそれぞれ全く違った姿であり、椎名の中のMasaki像は絶えず更新されていく。
果たしてMasakiはどんな人間なのか、今誰と何処いるのか、そして何故失踪したのだろうか―


【登場人物表】

椎名太助(27)…デイトレーダー。Masakiの家で「留守番バイト」を始める

安沼 涼子(30)…1番目の訪問者。Masakiの妻

新田 紗紀(24)…2番目の訪問者。Masakiの同僚

瀬田 武彦(29)…3番目の訪問者。Masakiの親友

安沼 ゆり子(62) …4番目の訪問者。Masakiの母




【シナリオ】


○椎名太助の家・太助の部屋 

ディスプレイを見つめる椎名太助(27)。画面にはFXのチャートが移されている。大暴落したチャート。

椎名「……」

ネット銀行の残高を確認する椎名。残高「4,082円」の表示。思わず顔を覆う。

○椎名太助の家・リビング
   
誰もいないリビング。

母・父と椎名が映った家族写真が棚に飾られている。

椎名がやってきて、そのままキッチンに向かおうとする。

その途中、リビングのテーブルの椅子に母の小バッグが置いてあることに気付く。

バッグに近づく椎名。あたりを確認してバッグを開け、中から母の財布を見つけて取り出す。

椎名「……」

椎名の財布を持つ手、震えている。

椎名「……流石にこれは駄目だ」

椎名、財布を母のバッグに戻す。

 
○椎名太助の家・太助の部屋


パソコンの前に座る椎名。

検索エンジンを開き「アルバイト 求人」で検索する。

レストランやコンビニ、ジムの受付等様々なバイトの情報が表示される。

椎名「……無理だなあ」

椎名、検索エンジンに「アルバイト 人と接さない」で再検索する。

検索結果をスクロールする椎名。

椎名「(ディスプレイを観ながら)これ……」

マウスをダブルクリックする。

椎名N「俺は最高のアルバイトを見つけた」


○Masakiの家・リビング


ソファに寝そべり、スマホをいじりながらテレビを見ている椎名。

椎名N「それは『留守番』バイト」


○Masakiの家・玄関

   
玄関のドアを開ける椎名。宅配員が立っている。

宅配員「(伝票を出しながら)ここにサインお願いします」

椎名「はいはい、と」

伝票にサインをする椎名。

椎名N「たまに来る宅配に対応する程度で、基本家にいるだけでよい」

   
○Masakiの家・風呂

   
風呂に浸かる椎名。

椎名「ふ~~」

椎名N「こんな天国みたいなバイトない」


○Masakiの家・寝室


ベッドに横になっている椎名。

スマホの画面を付ける。画面上「3月15日」の表示。

スマホを操作し、「留守番バイト」の詳細が書かれたメールを開く。

メールの文末に「Masaki」の文字。

椎名「サンキュー、マサキ」


○Masakiの家・寝室


ベッドに横になりスマホの画面を見ている椎名。

「3月21日」の表示。

留守番バイトの詳細が書かれたメールを開く。

「バイト期間:三日間程※後日連絡します」と書かれている。

椎名メールの返信ボタンを押し、

「Masakiさん 留守番をしている椎名です。バイト期間はいつまででしょ

うか?」と書いて送信する。スマホを傍らに置く。

玄関のチャイムが鳴る。


○Masakiの家・玄関

   

玄関のドアを開ける椎名。

安沼 涼子(30)が立ってこちらをじっと見ている。

椎名「あの……」

涼子、椎名を押しやって無理矢理中に入る。

椎名「ちょ、ちょっと」

涼子「あなたー!あなた、いるんでしょ!」

部屋に向かって叫ぶ涼子。

椎名「僕以外、誰もいませんよ!ずっと一人で留守番してたんですから」

涼子、椎名の顔をじっと見て、泣き始める。


○Masakiの家・リビング


リビングのテーブルに椎名と涼子が向き合って座っている。

湯のみでお茶を飲む涼子。

椎名「じゃあ、涼子さんはマサキさんの奥さんなんですね」

湯のみを置く涼子。

涼子「……(頷く)」

椎名「えっと、じゃあこの家は涼子さんの家?」

涼子「違うんです」

椎名「……ですよね。2人で住んでる家の感じはしませんでした」

涼子「この家、主人が私に内緒で借りた家なんです」

椎名「内緒で……ですか」

涼子「ほんと......(あたりを見回して)信じられない.......」

椎名「じゃあ、今マサキさんはお家に?」

涼子、黙り込む。

椎名「……いないんですか」

涼子「……主人がいなくなって、もう二週間になります」

涼子、再び泣き始める。

椎名「……」

涼子「……でも誰といるかは分かってるんです」

椎名「えっ」

涼子「主人の同僚の女性です」

//すみません、時間が無いので以降プロットになります//

 涼子はMasakiが同僚の女と不倫しているに違いないと話す。涼子の話を聞いているうちに、椎名は涼子が不憫でならなくなる。そして、この家の家主であるMasakiを軽蔑するのであった。涼子は主人が帰ってきたら必ず伝えて欲しい、と椎名に伝え去っていく。


翌朝。椎名がトイレで用を足そうとすると、便器の中に何かの違和感を感じる。違和感の正体は分からず、そのままトイレを出る。


その日の夕方。新田紗紀(24)がやってくる。
新田もまた、Masakiを探していた。
新田はMasakiと不倫はしていないと言う。新田は会社の先輩であり、明るく、周囲からの評判も高いMasakiに憧れ好意を抱いていたが、彼は家族を誰よりも大事にしていたので、諦めたのだと。

新田はMasakiが「親友に謝らなくてはいけないことがある」と常々言っていたことを思い出す。新田は、Masakiは今その親友といるのではないか、と推理する。


翌日。瀬田武彦(29)が訪ねてくる。
彼もまたMasakiを探していた。
瀬田とMasakiの高校時代からの親友だったが、元々瀬田の恋人だった涼子をMasakiが奪ったことで、疎遠になっていた。
瀬田は元の親友同士に戻りたいと心から願っていた。
瀬田は「あいつが心を許せるのは母親だけだから、今頃母親といるんじゃないか」と話すのであった。


翌日。Masakiの母の安沼ゆり子(62)が訪れる。
ゆり子もMasakiを探していた。
ゆり子と妻の涼子は馬が合わず、そのせいでMasakiにはいつも二人に気を遣わせていたらしい。
そのせいで、最近は中々実家に帰ってこない、と悲しそうに話すゆり子。
Masakiは元々繊細な人間で、追い込まれると1人で部屋に閉じ込もる子供だったようだ。
ゆり子は、Masakiは妻と二人で自分の知らないどこかいるに違いない、と推理していた。


夜。トイレの便器をじっとみる椎名。手に持っていたケチャップの容器からケチャップを手に取り、便器の淵につける。

翌朝。トイレの便器を見る椎名。便器の淵につけたケチャップが流れて消えている。

椎名、Masakiの家を出る準備をする。
出る間際、家の中を振り返る。
椎名、家の中に向かって何かを言おうとして、考え込む。
椎名「わかるよ」
それだけポツリと言って、Masakiの家を出る。

帰宅後、椎名は会社の就職面接を受け、企業に就職する。
実家を出て一人暮らしをはじめる。

留守番バイトから2ヶ月後。
椎名は会社帰りにMasakiの家に再度訪れる。
外から家の外観をみた後、Masakiの家のチャイムを押す。
暫くの静寂。そして、スピーカーから誰かが受話器を取る音。

<終>

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