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元気ですか、お父さん。ジャイアンツが優勝しました。
2024年9月28日、我が巨人軍こと東京読売ジャイアンツが4年ぶりのセ・リーグ優勝を果たした。自分はもちろん、周りの巨人ファンと喜びを分かちあった。優勝した瞬間、第一に頭に浮かんだのは父だった。今回は自分に野球というスポーツ教えてくれた父、そして自分と父を深く結びつけるジャイアンツの話をしようと思う。
父は鬼のジャイアンツファンだった。ついでにかなり亭主関白な人だった。幼少期、週末に家族で外食に行くと「実況の言葉を全てワシに伝えろ」とジャイアンツ戦が流れるラジオを必ず自分に渡してきた。自分は選手もルールも分からないまま、父に試合状況を伝えるのに必死だったのを覚えている。一軍戦全試合はもちろんのこと、二軍戦まで全て目を通し、キャンプ地にも足を運ぶようなジャイアンツ一筋な父は毎日ジャイアンツ戦の勝敗で一喜一憂し、負けた日には父に声をかけるのが怖いくらい雰囲気はピリついていた。いつの日か故郷の田舎から4時間ほど新幹線に乗り東京ドームへ連れて行ってもらったことがある。初めての生での野球観戦。記憶は薄いが恐らくバックネット裏だった気がする。試合終盤へ差し掛かり、幼かった自分は眠気が限界を迎えた。そんな自分を見た野球に興味のない母が父を説得し、試合が終わる前にホテルに戻った。当然のごとく父は大不機嫌になりその後夫婦喧嘩をしていたのを覚えている。そんな父から初めて貰ったビデオテープが「巨人の星」だった。自分が野球にハマるきっかけになったのがこの作品。作中に出てくる主人公の星飛雄馬の父である星一徹、笑ってしまうくらい顔も性格も自分の父に似すぎていて怖かったのを覚えている。本当に似ている。
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星一徹の話は置いておいて、自分が小学生になり何かスポーツを始めることになったとき、当時周りの友達が皆サッカーチームに入るということもあり自分もサッカーを始めたいと父に話した。ハッキリとは覚えていないが「お前はワシの子じゃねえ」のようなことを言われた記憶がある。そこからなんだかんだあり近くにあった少年野球チームに入った。お世辞でも自分に野球の才能があるとは言えなかったが、真っ直ぐに野球が好きな青年へと育った。今考えればこの環境にいて野球のことを嫌いにならなかった自分はすごい。高校入学時、自分が進学する学校の硬式野球部が強豪校だったのもあり、試合に出られる自信がなく、野球ではなくアルバイトをする生活を選んだ。そうやって何気ない日常を過ごしていた自分だが、毎日下校時に学校のグラウンドで練習する軟式野球部の練習を遠くから見ることが習慣になっていた。ずっと野球がしたかったのだと思う。その思いに自分で気づいてからは早かった。すぐさまバイトを辞めて軟式野球部に入部、また野球をする生活が戻ってきた。その時も頭に浮かんだのは父だった。
父は自分が中学2年生の頃に他界した。奇しくも自分が部活で野球練習をしているときに倒れた。練習着のまま、スパイクを履き替える余裕もなく病院へと向かい、父は自分が傍に来たことを悟るとすぐにいってしまった。父との最後の対面は、父が買ってくれたドロドロになった練習着に病院の床でカタカタと音を鳴らすスパイク姿だった。どこまでも野球な人だなと思った。次の日も普通に練習に行った。野球は楽しかった。
23歳を目前とする今、自分は絵に書いた熱狂的な野球ファン(ジャイアンツファン)になっている。毎日プロ野球中継をツマミにお酒を呑んでブツブツと言っている。良いことかどうかは分からないが客観的に見ると父にそっくりである。時にはユニフォームに袖を通し、東京ドームや神宮球場へ観戦に行ったり、スポーツバーで試合を見る。かなりヤジをとばす。嫌いだからではない、好きだから。父もこうやってボヤきながら野球を見ていた。呑み屋で野球好きなおっちゃんと会うと必ずと言っていいほど会話が弾んで仲良くなる。父が生きていたら一緒にお酒を注ぎあってテレビの前でイライラしたり喜んだりしているのだろうか。そんなことを思うと少しだけ寂しくなる。父は息子と一緒にお酒を呑みたかったと言っていた。だからお墓参りするときはいつもお酒を持っていく。運転だから自分は呑めないけど形上の乾杯。あ、あと声に出してジャイアンツの近況を伝えている。(ヤバいやつ) 阿部慎之助が監督になったこと、驚いてるかな。長野が広島に行ってまた戻ってきたこと、高橋由伸が半ば強制的に監督をやらされBクラスになったこと、内海がジャイアンツで引退してないこと、原監督が3回目の監督をしたこと、言い出せばキリがないがどれもちゃんと父には伝えてある。恐らく空からブツブツと言っていたと思う。
さて、あと2ヶ月と少しで今年も日本のプロ野球が始まる。プロ野球がないと平日の夜が本当につまらない。お酒も進まない。今年も自分はジャイアンツのユニフォームに袖を通し熱狂的に応援や罵倒をする。いつか父にまた会えたとき、あの人に誇れる野球ファンであろうと思う。
野球が好きなのか嫌いなのか分からないくらいいつもテレビの前で怒っていて気づいたら酒に酔い潰れている、そんな野球大好きなお父さんが大好きだ。