「未来の住まい」を形にする新たな挑戦 - 株式会社ノビシロ代表・鮎川
クリエイティブカンパニーであるBAKERUには、「クリエイター合衆国」を目指すべく様々な分野のプロフェッショナルが所属しています。そこで今回は、BAKERUグループで株式会社ノビシロの代表・鮎川さんにお話を伺いました。
ノビシロが展開する「ノビシロハウス亀井野」では、高齢になるとお金があっても家が借りられないといった社会課題を解決するべく、「最後まで暮らせる賃貸住宅」を提供しています。
人と人、人と地域をつなげ、最後まで安心して暮らせる「街のインフラ」を目指した高齢者向けの住宅事業とは?ぜひ最後までご覧ください。
“物件を借りにくい人”に寄り添う中で気付いた課題
-ノビシロ立ち上げに至るまでの経緯を教えてください。
2012年に不動産仲介業を行う株式会社エドボンドを立ち上げました。不動産仲介といえば、個人や法人の物件探しをお手伝いし、マッチングをしていく仕事です。お客様に満足いただける物件を紹介すべく日々仲介していく一方で、お客様自身が与件を満たせなかったり、物件審査が通らなかったりと、そもそも“物件を借りにくい人たち"が存在していることに気付きました。その要因には、国籍や所得、職業の種類など、様々な理由が存在しています。
そのため私自身は、お部屋探しのプロセスを通じてお客様に親身に寄り添い、どうにか理想の暮らしが実現できるよう努めました。そのおかげか、「鮎川さんなら物件を探してくれる」と口コミが広がり、お客様から紹介いただく数は年々右肩上がりになりました。ただお部屋探しの難易度が上がったのも事実です。
高齢者の方々が特にお困りになっていることに気付いたのは2015年ごろでした。というのも、高齢者以外のお部屋探しは、仲介業者が物件を探したり、調整をしたりすれば見つかることも多かったんです。ただ不動産業界では、高齢者に物件を貸すのはリスクだと捉えられており、どこに行っても前向きに検討されにくく、断られることが多くありました。さらにこれによって孤独感を抱える人たちがいることに課題を感じる機会が増えました。しかし問題は深刻で、これまでの常識や仕組みでは簡単に解決できないものでした。
業界に必要だと感じた“新たな仕組み”
-では一体、どのように課題解決のための取り組みを進められたのでしょうか?
そこで私は、高齢者の方々が住まいを見つける難しさやその理由について真剣に考えるようになりました。具体的には、当事者や管理会社はそもそもなぜ高齢者に物件を貸したくないのか、業界にはほかにどのような課題があるのかなどです。実際に当事者がリスクだと感じている事象を知ることで、オーナーが貸したくなるような仕組みがつくれればと考えるようになりました。そしてヒアリングの結果、不動産業者が高齢者の入居受け入れに否定的になる1番の理由は、「孤独死」の問題であることがわかりました。そこで、孤独死が起きない、もしくは死後発見が早くなる仕組みづくりが必要だと考えるようになりました。
このようにお客様に寄り添う一方で、不動産業者やオーナーがどうやったら貸しやすくなるかばかりを考えていることに気付きました。しかし大事なのは、そもそも高齢者の方々がどのような暮らしを望んでいるのかです。私はただお客様の要望を叶えるだけではなく、彼らの立場や願いを真剣に考え、新たな解決策を模索することが大切だと感じました。
こうした思いから、今度は超高齢社会に向けて整備されている福祉や介護における取り組みについて理解を深めていくことになります。例えば、足が悪くなっても一人で暮らしたいとき、国からどのような行政、福祉サービスが提供されているのかを知ることからはじめました。ほかにも認知症や高齢に伴い起こる身体的な悩みに対し、国がどのような方針を取っているのか、そして何を推奨しているか調べるようになりました。
そうした中で知り合ったのがノビシロの現 取締役の加藤です。加藤は当時から福祉・介護業界で注目されているオピニオンリーダーの一人でした。そこで私は、現状の業界における課題を彼に相談すべく彼の元へ訪問し、知識面での協力を依頼しました。加藤は私が抱えていた課題感を聞くと、これから増えるであろう独居問題への対策の必要性を理解し、共感してくれました。親交がはじまったのはここからです。以降は地域医療、包括支援など、同テーマに関連する勉強会が開催される度に一緒に参加させてもらい、3年ほどかけて業界理解を深めていきました。私はこの3年の間にも、孤独死にならないための仕組みづくりを考えたり試したりしていました。
これらの試行錯誤を経て、ついに会社として形になったのが2019年です。そして「ノビシロハウス亀井野」は構想から1年半後に完成しました。構想段階から多くの方に応援いただいたこともあり、ありがたくも多くの方から入居問い合わせをいただいた結果、入居者さまは順調に決まっていきました。
ただ問題となったのは、コミュニティハウスとしての運用体制です。別の事業も展開したまま「ノビシロハウス」の取り組みが始まったため、私自身が多忙を極めることになりました。
そこで今後の方針を思案していたところ、10年来の友人で、久しぶりに再会したBAKERUの取締役・小谷にグループ会社として一緒に事業展開をしていかないかと提案がありました。それがBAKERUグループに参画したきっかけです。
より良い共生社会を実現する
-今後実現したいことを教えてください。
現代社会では、どのような人が隣の家に住んでいるのかを知らないという問題があります。しかしかつて日本では2世代、3世代が共に暮らすことが当たり前でした。現在はその価値観は年々失われつつあります。
そこでノビシロでは、一人ひとりが孤独になることなく、自分らしい暮らしを楽しむことができる環境を創り上げました。具体的には、一人暮らしの際に感じる“世間との繋がりの希薄さ”を取り除くため、月に一回の住居者同士の交流会を通じて親しい関係を築く場を提供しています。これによりお互いが支え合う関係が育まれ、より良い共生社会が実現できればと考えています。
大事なのは「ノビシロハウス」は高齢者の方々にとっての“住まい”なだけでなく、人生の終わりを迎える場所でもあるということです。私たちはただ住む場所を提供するだけではなく、地域社会の中で安心感や関係性を構築できるように今後も取り組んでいきたいと考えています。
また、もちろん高齢者に限らずハンディを持つ方など、特別なニーズを持つ方々にも対応していけるのが理想です。実際「ノビシロハウス」には20代の車椅子ユーザーの入居者さまもいます。これは当初予想もしないことでしたが、物件選びに関する悩みは決して高齢者に限った話ではないのだと気付くきっかけになりました。地域のみなさまとも交流しながら、さまざまな世代が協力し合い、支え合う社会を築く。その結果、みんなが住みやすい住まいをつくったり、暮らしの選択肢を増やしたりできれば嬉しいです。
事業を開始してから約2年半の間にも、多数の問い合わせと感謝の声をいただく機会が多くあります。その反響は予想を上回るもので、ノビシロの価値や可能性を実感する瞬間でもありました。今後はこの取り組みを全国の地域に波及させていきたいです。
鮎川沙代プロフィール
2012年4月 株式会社エドボンド 代表取締役就任
2019年9月 株式会社ノビシロ 代表取締役就任