【短編小説】私のお墓の前で【XR創作大賞】
※ これは、『XR創作大賞』の応募作品です。
※ ↓から本編
霊園の入り口に、『AR墓参り500円』と書かれた看板が立っていることに気付く。興味を惹かれた私は、近くの枯れ葉を掃除していたお坊さんに聞いてみた。
「すいません、この『AR墓参り』ってなんですか?」
「ああ、これ?少し前にうちの息子がここを引き継いでくれたんですがね、前の仕事で携わってた拡張現実、通称ARをウチでも勝手に始めちゃったんですよ」
「未練がすごいですね。墓場とARなんてかけ離れてそうなのに」
「最初は私も反対したんですけどね、実際に体験してみたら少し面白かったですよ」
(墓参りに面白さって必要?)と思いつつ、私はAR墓参りを申し込んだ。お坊さんから渡されたゴーグルをかけると、目の前の霊園の風景にゲーム画面のような外枠が現れた。そしてゴーグルについたスピーカーから
「墓に書かれている苗字は何ですか?」
と尋ねられた。
「『大木』です」
と答えると、霊園内の歩道に突然花が咲き始めた。
「それでは、案内します。花が咲いている道を進んでください」
確かにその花達は、大木家の墓がある場所を指し示すように咲き続いていた。地味な霊園がカラフルな花達によって色鮮やかになった。
花に沿って歩きながら他所の墓を見てみると、墓に書かれた文字が浮かび上がっているように見える。難しい書体ではなく、見やすいゴシックのようなフォントで納骨されている方の名前で浮き出ていた。墓によっては生前の顔写真も表示されている。小さい頃、近所にいた変なおじいさんのお墓がここにあったんだ、という新しい気付きもあった。お坊さんに言われた通り、少し面白い。ちょうど500円くらいの面白さだ。
そしてようやく、大木家の墓の前に着いた。この墓には大木家の先祖達、小さい頃かわいがってもらったおじいちゃんとおばあちゃん、そして昨年亡くなった親父が眠っている。
「目的地に到着しました」
というカーナビみたいな音声に雰囲気を台無しにされかけたが、私は冷静にお供え物を置き、線香を立て、目を閉じて合掌した。その間は、さすがにARは黙ってくれていた。
目を開き、その場を立ち去ろうとすると、
「ありがとな」
と耳元で声がした。後ろを振り向くと、墓場の前に親父が立っていた。なるほど、これがAR墓参りか。おそらく、生前の親父の写真を画像データとして取り込み、その情報から作成したCGを立体的に表示してくれてるのだろう。丁寧に再現された親父の表情を見ると、子供の頃に一緒に遊んでもらったこと、反抗期に喧嘩して家を飛び出したこと、そして最期を看取ることができなかった後悔、色んな思い出がこみ上げてきた。
親父の姿が拡張現実による偽りの姿だとは気付いていたが、それでも涙が止まらなかった。一旦ARゴーグルを外し、ハンカチで涙を拭き取った。一旦心を落ち着かせるために、ゴーグルを外した状態で墓を見た。でも、まだ親父は立っていた。こちらを見ながら微笑む姿は徐々に薄くなり、空の方へ消えていった。
これは、何現実?