【短編小説】仮契約頂点姫
「どうしてこんなことに…」
まだ砂煙が立ち込めていてはっきりと見えないが、そこには彼が二本足で立っていた。というよりも、二本足”だけ”が立っていて、上半身がない。煙塵が徐々に立ち退き、真っ赤な断面とそこから垂れる血が見え始め、私は恐ろしい現実を理解した。
片思いしている彼との、いつもの帰り道だった。私は素直になれることができず、いつも彼に対して当たりが強くなってしまう。
「アンタさぁ、そろそろ真面目に勉強したら?」
「大丈夫、大丈夫。期末テストなんてなんとかなるさ」
「またそんなこと言って!いい加減にしないと、本当に留年することになるよ!」
その説教に腹を立てて彼が言い放った
「安藤ってさ、俺に冷たいよな」
の一言が引き金となり、私の体が動き出した。
そこからはスローモーションのように事を鮮明に思い出せる。私の両手がゆっくりと上がり、彼の方に向く。指がピストルの形になり、人差し指が彼に照準を定める。指の先が白く光り、熱を持ち始めた。私は何かを察して指を別の方向に向けようとしたが、間に合わず。昔少年漫画で見たような衝撃波が私の指先から放たれ、彼の上半身を吹き飛ばした。
涙がポロポロと流れ始めてくる。私は片思いしていた彼を、よくわからない能力で殺してしまったのだ。指から出た衝撃波等いろいろと整理しないといけないことがあるけども、今は整理が追いつかない。彼を失った悲しさが脳内を占める。そんな私に何者かが声をかけた。
「ようやく能力に目覚めたようね」
「能力…?」
後ろを振り向くと、スーツを着た女性がいた。サングラスを掛けていたので瞳の色は読み取れないが、この日常からかけ離れた光景を冷静に見てるようだった。スーツ女が私に語りかける。
ツンデレビーム エビリティ
「怒愛光線よ。あなたの能力」
「ツンデレビーム!?エビリティ?!」
聞き慣れないビームを聞き慣れない言葉で説明された。スーツ女は引き続き説明を続ける。
エビチュウ
「アイドル ”私立恵比寿中学”を広めるために、
スターダスト
悪の組織が、エビ中の楽曲名を能力化したの。それがエビリティと呼ばれていて、エビ中と無関係の人達に能力が与えられてしまった。現在進行系でエビリティを持つ人間は増えてきていて、このような事故が全国で多発しているのよ」
「そんな」
カリケイヤクノシンデレラ
「仮契約頂点姫があなたの正確なエビリティ名で、ツンデレビームはそのエビリティの一部。スターダストを倒すには、あなたみたいな強力なエビリティを持つ人間が必要なの。私についてきて」
スーツ女の口から出る言葉についていけない。そもそも、彼女は私を利用しようとしているだけじゃなかろうか。私のこと、そして彼のことを一切考えていない。
「だったら早く私を止めに来ればよかったじゃない!!どうして彼がこうなる前に教えてくれなかったの!!」
怒りに震えながら彼の方を振り向くと、二本足だったはずの彼が少しずつ再生しだしていた。徐々に上半身が形成されていき、最終的に私の大好きなあの表情が蘇る。
「ど、どういうこと?」
PLAYBACK
「時間の巻戻し、私のエビリティよ。特定の物体に対して時間を巻き戻すことができる。あなたの能力は強すぎるがゆえに制限が効きづらい。私のエビリティはあなたのエビリティをサポートすることができる。手を組んで、一緒にスターダストの暴走を止めましょう」
私は決心することにした。こんなトコでは終われないみたいだ。
「・・・わかった、あなたに付いていくことにする。でも、一つだけ質問させて」
「何?」
「あなたは先程、ツンデレビームは仮契約頂点姫の能力の一部だと言った。ということは、私には他にも使える能力があるってこと?」
「そうよ、察しがいいわね。例えば他の能力では、人に円周率や周期表をたくさん覚えさせることができるわ」
その時、再生が終わって一部始終を聞いていた彼が呟いた。
「期末テスト、なんとかなりそうだな」
私の人差し指が、彼に照準を定めた。
【おまけ】
いつもキレイに使っていただき、ありがとうございます。