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読書の日記#6 『教育』

ポッドキャスト『奇奇怪怪』、最近楽しく聴けなくなってきた。2人の会話のリズムは変わらず面白い。ただ規模が大きくなって少しずつ進化する番組と、自分の生活とが馴染まなくなった感じ。毎週聴くという習慣を手放すのも寂しいのでどうしようか悩んでいる。以上余談でした。

さて、今回の作品はこちら。
遠野遥『教育』河出書房新社(2022)

本作は閉鎖的な学園を舞台に、主人公の佐藤のまわりで起きる出来事が物語になっている。
著者の既刊である『破局』や『改良』も読んだことがあり、文体がちょっと無機質な感じが好き。今作もそれは健在で、コーヒーフレッシュに関する主人公のモノローグが特徴的だった。
アイスコーヒーにコーヒーフレッシュを注ごうとしたところ、蓋を開けて注ぐ前に誤って捨ててしまうという場面。彼曰く、コーヒーに注ぐまで「①コーヒーフレッシュの蓋を開ける、②コーヒーにコーヒーフレッシュを注ぐ、③空のコーヒーフレッシュをゴミ箱に捨てる」(p.66)という手順がある。そして「…三つのステップを踏む必要があることに留意すれば、同様のミスは失くせるだろう。」(p.66)とのこと。
百歩譲って将来仕事ができそうというポジティブな見方もできるかもしれない。しかしそもそものミスが変だから、やはりどこか非人間的な印象を受けてしまう。
他にも「一日三回以上オーガズムに達すると成績が上がりやすい」(p.11)という学校の謎ルールがあり、生徒もそれを当然のこととして受け入れている。作品全体が奇妙さにまみれている。

生徒たちがこんな学校に従順なことも怖いのだけれど、そもそもエロいことに積極的なことも結構怖い。もちろんそういうことが好きなのは悪いことじゃない。けれど恥ずかしい、という態度を誰も表さないところに不気味さがある。学生の頃なんて特に恥ずかしいはずなのに。話しかけられたと思ったら宗教の勧誘だったときに感じる、住む世界が違う人だ…感を文章で味わえた。
"教育"というタイトルだけど、教える側である教師の輪郭はあいまい。教わる側が学校の空気を作り出している部分って少なからずあるんじゃないか。そこに焦点を当てているようにも思える、作品内では歪な形で描かれているけれど。

感想が少し難しい類の作品。ハードカバーだけど上下の余白が大きめで、すいすいページが進んだ(2日で読み終わりました)。考察しがいもあると思うので、おすすめです。

2024/11/5


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