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赤石山

(バカ公園・花)


新卒で入社した会社、1年も続かずにやめちゃって。

十分な貯金があるわけでもないのに勢いだけで辞めちゃったから、仕事もしないとなーとは考えるんですけど。でも全然やる気出なかったんですよね。


そしたらYouTuberやってるU先輩から連絡来て。撮影とか編集とか手伝ってくれるスタッフ探してるんだけど、ウチ来ないか。って。


どうも普通にサラリーマンやるイメージも湧かないから、即オッケーして。それから数か月スタッフとしてお手伝いしてたんですよ。




そんで何ヶ月かスタッフとして働いたぐらいですかね。ある夏の日にU先輩の地元に行ったんですよ。動画撮影と帰省を兼ねて。


U先輩の地元ってのが、まあいわゆる田舎で。山の中を何時間も運転してやっと着く、みたいな。町というよりかは集落みたいな所でした。着いたその日はU先輩のお父さんが迎えてくれて。運転の疲れもあったので日付が変わる前には寝ちゃいました。


翌日は、先輩の地元スポット巡りとか、青春時代を振り返る動画を撮影して。それが終わってから夜の「肝試し動画」の打ち合わせをしてたんですよ。


先輩曰く、地元には「神隠しの山」って言われてる所があるらしくて。心霊とかでは無いらしいんですけど、いちおう古い言い伝えとかもあるとかなんとかって話でした。




で、いよいよ夜にその山に向かいまして。山道の入口近くに車を停めました。入口には鳥居が立っていて、辺りは真っ暗と言うこともあり、雰囲気はなかなかのものでした。


怖いってよりかは、ワクワクしてましたね。当時、U先輩のYouTubeチャンネルはファンこそ多くないものの、じわじわ注目されていってる時でしたし。逆に変なもの映ったら、それはそれでオイシイんじゃないか?くらいに思ってました。


U先輩は準備万端って感じだったので、僕がカメラを持って、鳥居の前で撮影をスタートしました。最初に先輩が企画の趣旨の説明と、「神隠しの山」の言い伝えをもっともらしく説明していきます。


辺りは真っ暗で今はカメラの赤外線機能で撮影してます。いやこの山なにを隠そう過去に行方不明者が何人も出ている神隠しの山と言われているんですよ。そして不思議なことに過去の行方不明者は全員妊娠した女性だったという噂もあります。それではさっそく山に入っていこうと思います。


とかなんとか口上を済ませてU先輩は鳥居をくぐりました。僕もU先輩に続いて山へと足を踏み入れます。辺りは静かで、ザッザッと二人の足音がよく聞こえていました。山を登る間もU先輩はトークで場を繋ぎます。



僕も子供の頃に何度かこの山には来てるんですけどあんまりよく覚えてないんだよね。なんだっけな。たしか奥に行くと御神木だか何だかが祀ってあるんだよ。



雑木が生い茂った山を登って30分ほどすると、少し拓けた場所に着きました。それ以上奥には道は無さそうでした。


そこには木でできた小さな社のようなものが建ってて。高さで言うと2mくらいの、人が一人入れるくらい。


社の中には、石が置いてありました。

粗雑に置かれていた訳ではなく、祀ってある、みたいな言い方の方が合ってるかも。座布団みたいな正方形の布製のクッションみたいなのが敷いてあって、その上にボウリングの球を少し細長くした石が置かれていました。石の周りにはしめ縄みたいな囲いがされていて、なんとなく触っちゃダメなものと認識できるような。


丸みを帯びた石の表面に、赤黒い苔みたいなのが着いていて、下の座布団もシミだらけでした。雨曝しだから当たり前ですけど、とても綺麗な代物ではなかったです。御神木?石?なら、もっと厳重に保管とかするもんじゃないのかな、とも思ったんですけど。


先輩が言ってた御神木ってコレのことですか。あーたしかこんなんだった気がする。石か。石だったら御神石(ごしんせき)ってこと?なんかそれじゃあ親戚みたいじゃん。せっかくだしこの石ちゃんと観察しとくか。


と、話をしていました。すると。



ザッザッ。


僕らが来た道から足音がしました。


ザッザッ。


足音はどんどん近づいてきました。


誰か来る。


僕とU先輩はその場に立ち尽くしていました。






現れたのは、40歳代くらいの女性でした。

そのおばさんは小さなバックを持っており、懐中電灯でこちらを照らすと、あらァ、と少し驚いた様子でした。


U先輩はカメラを意識して、わざとらしく、ビックリしたー!とリアクションを取ります。


こんな時間にココに人が居るなんて、なかなか無いからねェ、驚いちゃったわァ、と言いながら、おばさんは社に近づいていきます。


そしたらそのおばさん、ランチトートバックくらいの小さい手提げから、フィルムケースくらいの容器を取り出して。容器の中のものを社の中の石に注ぎ始めたんですよ。


U先輩が、ソレなんですか?って聞いたら、


おばさんが恥ずかしそうに答えたんですよ。



あれよォ。月のものってヤツよォ。いい歳して嫌よねぇこんなのォ。





えっ?


えっ、月のものって、月経ってこと?経血?




困惑している我々をよそに、おばさんは赤黒い液体を石に注ぎ続けていました。


明らかに顔色が悪くなっていくU先輩。何故そんなことをするのかと聞くと、


おばさんは、




こうしないとね、ねじれちゃうのヨォ。




と、言いました。


ポタポタと、粘り気のある血を石に垂らしながらおばさんは続けました。




あかしさんが怒って、ねじっちゃうのヨォ。



言葉少なに、なんだか不気味でした。


おばさんは、ずっと、石を視ながら話していました。


そしたらU先輩がうずくまっちゃって、とうとうその場で吐いちゃったんですよね。


悪りぃ、俺ダメなんだよ。昔から、その、生理っつーか。そういうの。
ちょっとカメラ止めてくんね、とU先輩が言うので、僕は録画を止めました。持っていたペットボトルの水を先輩に渡して。


おばさんの方に目をやると、まだポタポタと石に血を注いでいました。


おばさん、なんか、ちょっと笑ってるんですよ。


結局その肝試し企画動画はボツって、翌日にはU先輩の地元を後にしました。




すこし調べたら、U先輩の地元には、なんらかの伝説というのでしょうか。その地域に伝わる“わらべ歌”があるらしくて。おばさんが言ってた「あかしさん」っていうのも出てくるので、なんか関係あるんじゃないかなーって。



ちいのみ あかんぼ こくこくと

おっかあ どこかと ないている

かわりの おっかあ つれてこい

すてこの かみさま あかしやま




U先輩は、その時の動画を毎日毎日みてます。イヤホン着けて。吐くくらいならみない方がいいと思うんですけどね(笑)

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