【2019年12月11日・未来のBUTAI #7】リープフロッグから見る深圳など中国新興都市とドローン産業
「未来のBUTAI」は、浅草橋の『インキュベーションスペースBUTAI』で毎週水曜日19時から開催されているイベントプログラムです。
The First Stage for Any Innovator(あらゆるイノベーターにとっての最初の舞台)というコンセプトのもと、参加者の皆さんの次なる1歩のきっかけとなるコンテンツを提供しています。
2019年12月11日に行われた第7回目のテーマは『リープフロッグから見る深圳など中国新興都市とドローン産業』。
中国南部に位置する深圳(しんせん)は、中国最大チャットアプリ・WeChatを擁するテンセントや、スマートフォンの世界シェアでTOP3のHuaweiなどが本社を置く「アジアのシリコンバレー」として注目を集めています。
この深圳で起業し、ドローン産業や国際連携に知見のある川ノ上 和文(かわのうえ かずふみ)さんをゲストに迎え、海外で5社創業経験のある弊社bajji CEO小林が対談形式でディスカッションを行いました。
登壇者プロフィール
川ノ上 和文氏
エクサイジング・ジャパン CEO
翼彩跨境科創服務(深圳)有限公司 総経理
Aeronext Shenzhen Ltd. 総経理
2005年より中華圏に関わり、北京、上海、台湾で活動後、2015年から深圳開拓に乗り出す。
2017年に深圳で翼彩創新科技(深圳)有限公司(現:翼彩跨境科創服務(深圳)有限公司)を設立し、その後東京に進出。
”プロ開拓者”として、深圳・ベイエリア圏を中心に産官学の現地ネットワーク開拓、業界団体、起業家コミュニティ、大学創業コミュニティなどとの関係構築、国際連携のニーズ把握を行い、日本企業との橋渡しや事業構築のサポートを行っている。
2018年よりビッグデータ産業を軸に成長する貴州省へも業務拡大。ドローンを中心とする新興産業の産業ツアー、日経ビジネススクール・NBSミッションの中国編ナビゲーターも務める。2019年5月より日本発ドローンスタートアップ:エアロネクストの深圳法人である天次科技(深圳)有限公司総経理を兼任。
自己紹介
(左:bajji 小林、右:川ノ上氏)
川ノ上:深圳とかそういった場所に関心がある方もいれば、ドローンみたいな新興産業に関心を持っている方もいて、色んな切り口があるんですが、みなさんどの辺に関心あります?
参加者:深圳とか中国市場ですかね。
参加者:一年前に深圳に行ったことがあるので、その後どう変わったか気になります。
参加者:ドローンとか技術的な話に興味があります。
川ノ上:割とざっくりしてますね。
小林:(会場に向けて)”リープフロッグ(leapfrog)”って言葉を今回初めて聞いた方どれくらいいらっしゃいますか?
結構なじみないですよね。
この現象は15年くらい前から起きているんですが、ここ最近になってその現象に”リープフロッグ”という名前がつけられたんです。まあ、それはおいおいご説明します。
川ノ上:そうですね。対談の中で、皆さんのご関心を拾っていければと思っています。
まず自己紹介させていただきます、川ノ上(かわのうえ)と申します。
小林さんとは、小林さんが准教授をされているビジネスブレークスルー大学で、私が学生をやっていた時からなので、9年前からの付き合いになります。今私は深圳に住んでいるんですが、中華圏との関わりは14年前の2005年の北京留学から始まって、北京、上海、台湾と移ってきて、今深圳が3年目になります。
小林:(川ノ上さんの自己紹介スライドを見ながら)言語は4つ話せるんですね、関西弁と標準語と北京語と英語。
川ノ上:ネイティブ言語は関西弁なんで(笑)
小林:同じやね(笑)
川ノ上:さて、自分が今何をやっているかと言いますと、深圳の新興産業に関心を持っていたので、新興産業ツアーとか、現地の商談設定などをやっていたんですね。
そこから日経ビジネススクールや大手企業の研修などの企画やナビゲーターをしながら、特にドローン産業については自身の関心が高くリサーチをしながら、深圳という街で何か事業できないかと模索していました。
そんな中、今日本のスタートアップ界隈では知名度が上がってきているエアロネクストという日本初のドローンの重心制御技術を持つ研究開発会社がありまして、この会社が深圳の政府主催のピッチ大会の予選を突破し深圳で開催された決勝大会に出場する際、また、その後の商談設定などをサポートし、トントン拍子で中国現地法人を作ることになり、GMとして参画し、現地の事業開拓を推し進めている、という状況です。
今日のテーマはリープフロッグという事なんですが、リープフロッグという言葉は、何かのテクノロジーやサービスが社会実装されていく過程が、段階的ではなく蛙が大きく飛ぶように一気に最先端までジャンプする現象を指すんですね。
これがアフリカや中国や国内でも頻繁に見られるようになってきていて、そのわかりやすい事例がドローンだったり、キャッシュレスのようなデジタル化だったりします。
ドローンの文脈で言うと、(スライドの本の写真を見ながら)例えばこれは、向こうの本屋さんで売ってるドローン物流に関する本です。
ドローン物流は日本でも実験はされているんですが、一般的な認識としては、まだまだ先の話で現実味がない分野かもしれませんし、そのことを取り上げて「ドローン物流」の普及に向けた分析本を書こうという人もいないでしょう。
でも深圳では普通に本屋さんで一般書として売られています。
法整備とは別に、社会や市民がこういうテクノロジーを受け入れられるかどうかっていうのは、新しいサービスが普及する上で結構重要な観点で、ある意味、マインドセットや観念のリープフロッギングが起きてる、とも言えると思うんです。
深圳には10の行政区があり、行政区ごとに競争をしていて、中国ナンバーワンの産業を作ろうとしています。
深圳という場所を、サンドボックス(※)が集約されたような街にしているんですね。
(※サンドボックス…システムから隔離された仮想環境の事。ここではテスト環境の意)
そんな中、私が関わっているドローンのスタートアップであるエアロネクストは、南方科技大学という深圳におけるスタンフォード大学のような役割を目指している新興大学と一緒にラボを作って、ドローンの次のコンセプトであるフライングロボットの研究開発を行なっています。
南方科技大学はアメリカの大学出身の中国人教師をどんどん中国に招聘しています。
来年から5年のスパンで、大学のロボティクス研究員と一緒に、空飛ぶロボットの実証実験を行なったり、ドローンのユースケースを集めてそれに関するテストと事業化のための検討を行っていきます。
中国は、学びの対象であると同時に脅威でもあると思っています。
例えば先日、海上保安庁が中国製ドローンを排除するというニュースがありました。
米中貿易戦争により、ハイテク産業は影響を受けやすく、逆に言えばそれくらい中国のテクノロジー進化が早く、脅威にもなっている、ということです。
我々としては、米中関係そのものや波及する影響を考慮しながら、どのようにグローバル戦略を立てていくのか、というのは非常にチャレンジングなことです。
そんな中、中国は新興産業の創出環境としては優れていて、ドローンは、中国という環境をうまく使って市場を作りやすい例の一つではないかと思います。
こういうものも含めて、中国を市場として見る前にまずは巨大なサンドボックスとして捉えて、新しい産業を起こすための環境を借りにいくというアプローチで事業展開しています。
こういった新興産業が、法律が未整備な状況下で需要を掘り起こし、実践することで徐々に社会浸透し、リープフロッグにつながっており、深圳のような技術新興都市では人口の平均年齢も若く、リテラシーも高いことから社会浸透のスピードが速くなっています。
自己紹介としてはこんな感じです。
リープフロッグとは何か
小林:ありがとうございます。
ではここから皆さんの関心も踏まえて対談していきたいと思います。
まずリープフロッグの定義について皆さんあまりご存知でなかったので、これを片付けておきましょう。
リープフロッグがどういう現象かというと、日本の場合は、下水や道路などのインフラが整備され、固定電話ができ、携帯電話ができ、ISDNのナローバンドができ、ブロードバンドができ、モバイルブロードバンドができ…こういう順番で整備されてきたんです。
ところが、固定電話もブロードバンドも飛び越していきなりAndroidスマホが普及する、アフリカだとそういうのが当たり前なんですよ。
上下水道ない、トイレない、ガスがないから家で料理できない、道は砂利道、けど皆スマホは持ってます。
日本やアメリカやイギリスなどは最先端をずっと走ってきて、ちょっとずつ前に進んでいくという発展の仕方をしたけれど、アフリカあたりは自国に何もない所に突如最先端のものが安くなって入ってくるという状況なんです。
特にスマホとモバイルインターネットは色んなものを飛び越えてやってきました。
これはなぜかというと、道路・電線・固定電話などを整備するよりも、基地局を立てて電波を飛ばす方が簡単で安上がりだからです。
アフリカのように見渡す限りの草原ですと東京よりも電波が遠くまで届きやすいという利点もあります。
中国メーカーなどが安価なスマホを開発し、裕福でない地域の人たちでも入手しやすくなりました。
そうした背景があってスマホが急激に普及し、スマホを活用したサービスも広がりました。
ECで何か商品を注文する場合、電線もないしトラックもないし物流も整備されてない、じゃあ、だったらもうスマホから注文してドローンで荷物を配った方が速いじゃない、という世界。
おそらくそういう世界が、地球上で10億人単位で広がっています。
目に見える風景と肌感だけで市場や技術の発展具合を計算してしまうと、大怪我をするかなと感じています。
違う例で言うと、日本でもQRコード決済が普及して、今年になってようやくどこのコンビニでも使えるようになってきましたが、深圳では何年前からありますか?
川ノ上:と言っても4年前くらいじゃないですかね。
小林:それでもすごいじゃないですか。4年前(2015年ころ)にもうQRコード決済やってたんですよ。
なぜ深圳でQRコード決済が普及したかというと、深圳ではSuicaみたいな非接触型IC決済は流行ってなかったし、クレジットカードは持てないし、そうした従来の技術を持ってなかったからという負の側面と、店舗側が導入しやすいというプラスの側面があったからなんです。
人力でリヤカー引いている八百屋のおっちゃんがQRコード決済を使う、そういう世界です。それが、リープフロッグ。
川ノ上:私もちょっと中国の事例を引きます。やっぱり中国って、社会主義とはいえ格差があるんですよね。
深圳はハイテク都市として注目されているんですけど、そこから内陸方面に飛行機で二時間くらい行くと、貴州という、三年くらい前まで最貧省と言われていた省があるんです。
一番少数民族が多くて山が多くて全く経済が発展していなかった省なんです。ここで、現在進行形でリープフロッグが起こっています。
例えば医療領域ですと、遠隔医療があります。
容易に下山できない山の中の診療所をサポートするには、診療所に通いやすくするインフラを整備するよりも、徐々に整備が進む5Gを見据えて通信網を活用してネット病院を作った方がいいと。
省側が病院に対して、医療ビッグデータ集めなさい、電子カルテ作りなさいと指導して強制的に遠隔医療が進んでいるんですね。
物流のマッチングも起こっています。
例えばUberのようなサービスがあって、現在地と目的地を入力すると、それに適合する周辺のトラックとマッチングしてくれて、それに運賃を払うとか。
小林:ちょっといいですか。
こういうのはある意味イノベーションのジレンマで、日本の場合ってこれをやっているのは運送業者の社長さんたちなんですよ。
そういう運送業者が日本に何万社ってあって、いまだに事務所の固定電話で連絡を取ってやりくりしてる。それでも効率よく回ってる。それだけ人間関係のネットワークと住み分けができている。
ローテクコミュニケーションでハイテク分散処理ができているんですね。
それがあるから壊しにくいし、こっちの方がぱっと見便利に見えてしまう。
もしこの仕組みやネットワークを一部の人しか使っていなければ不便なんですけどね。
一方、何もないゼロベースから始めるには、ハイテク機器と仕組みを使った方が便利だからリープフロッグ現象が起きて一気に普及する。
川ノ上:そうですね。中国の人口の半分がネットユーザーなんですが、モバイルユーザーが多いんですね。
日本だとPCから入ってモバイルに移行していったんですが、中国の内陸部あたりはモバイルファーストなんです。
するとモバイルにはもう初めからEコマースアプリがインストールされていて、ネットにつながる=ECにつながるところから始まるので、EC産業が一気に広まったんですね。
既存のインフラではそもそもカバーできなかったと思う。
カバーできなくなったところにはECの会社が投資をして、ラストワンマイル(顧客に商品を届ける物流の最後の区間)を埋めたと。
小林:運送業と同じように日本でUberがダメなのは、電車とタクシーの既存のインフラが整いすぎているのと、利権が確立しているというのがあるでしょうね。
Uberで呼んだとしても高いタクシーが来るし、Uberで効率化する余地が小さい。急いで発展しすぎた弊害が日本にはあると思います。
川ノ上:そうですね。中国ではトップダウンで色んなものが進められていますし、テクノロジーで一気にデファクトにしてしまいましょうというのが都市単位で意思決定できます。
ドローン産業の事例
小林:さっきの地図、もう一回見せてもらえます?(スライドの地図を見ながら)深圳はここですね。川ノ上さんが2015年に深圳に行ったのはなぜですか?
川ノ上:ドローン産業の構造に関心を持ち、どんなプレーヤーがいるのか調べていた時に、今ではトップメーカーになったDJIの本社が深圳にあるということを、当時知ったんですね。
小林:ドローンきっかけで深圳に行って、深圳の可能性に魅力を感じたんですね。
川ノ上:そうです。当時はまだ深圳の情報は日本語になっていなかったので、現場を見ながら、若い人多いなとか、やたら活気あるなということを思いながら、何かここでできないかなというのでリサーチを始めたのが2015年、移住したのが2016年です。今は一年の90%くらいは深圳にいますね。
小林:エアロネクストって深圳に法人持ってるんですか?
川ノ上:今年の5月に作ったんです。
小林:エアロネクストさんってまだシリーズA(※)くらいですか?
(※シリーズA…企業がベンチャーキャピタルから最初の重要な出資を受ける段階を指す)
川ノ上:2018年6月でプレAですね。
小林:プレAで海外法人を作るって早いですね。
川ノ上:そうですね、ちょっと変わった戦略を取っているスタートアップで、重心制御技術を開発し、それを特許化しライセンスビジネスとして展開していく会社なんです。
重心制御をしているので機体がブレても真ん中の軸はブレない。わかりやすい事例だと、ラーメンのように液体があるような食物なども運べる。
運ぶっていうのは一つの機能でしかないんですけど、例えばここにロボットアームがついていて、何かものを掴むとか発射するとかスプレーを吹きつけるとか叩くといった事ができるんです。
これまでドローンにはカメラ、すなわち目がついていましたが、今度は腕をつけましょうというわけです。
ただ腕をつけて何か作業をする時には重心が変わるので、これを打ち出していくために”ドローン”から”フライングロボット”という概念に刷新し、新たな用途開発を目指し、機体フレームの原理試作の開発をしているスタートアップなんです。
(画像:株式会社エアロネクストのWebサイトより転載)
小林:なるほど。
川ノ上:DJIという会社が、空飛ぶカメラ、非常に安定的に飛べるカメラを作ったと。
エアロネクストは、ロボット領域の市場を作っていく。産業ロボットを空に飛ばす事で空中を経済化・ビジネス化していく会社です。
小林:結構、バッテリーが問題なんですよね?
川ノ上:そうです。バッテリーは用途によっては有線で送電する事例もありますし、新たな燃料電池など、様々なアプローチが試されている領域でもあります。エアバスも深圳でバッテリーの研究開発をしているようですし、その辺の動向にも注目はしています。
小林:エアロネクストさんとの出会いはどんな感じだったんですか?
川ノ上:もともと毎年6月に深圳で行われるドローンエクスポに合わせて2016年からドローン産業ツアーを企画し、運営していたのですが、去年の回に社長が参加して、この会社はメーカーではないので技術がマッチするドローンメーカーを探していて、エクスポに出展しているメーカーのプロダクトを見る中で、戦略上深圳という環境がハマり、私の蓄積したネットワークの活用を含めて、挑戦しよう、ということになりました。
中国でのここまでの展開としては、深圳の2社のドローンメーカーと戦略提携をし、内1社とは試作機体を作りました。以後、これらの企業含め各方面から潜在ユースケースを集め、コア技術であり、特許ポートフォリオを固めている「4D GRAVITY®︎」という重心制御技術を使うことで実現できるソリューションを検討し、深圳という恵まれたサプライチェーンを活用し原理試作を作っていく展開を考えています。その延長線上には当然、中国での知見も使いながら特許のライセンス化を進め、グローバルでのライセンスビジネス化を目指します。
(右が4D GRAVITY®️を使ったドローン。荷物が空中で水平に安定する)
小林:なるほど。
川ノ上:使用用途としては360度空撮や物流・宅配・点検などがあります。
VTOL(VerticalTake-OffandLandingの略:垂直離着陸)機という、燃費に優れた固定翼とプロペラを組み合わせた機体も作っています。
垂直に上がって、固定翼で飛んで、垂直に降りてくるっていう滑走路が必要ないタイプです。
(画像:ピンポイントランディング対応VTOL物流ドローン「Next VTOL®︎」)
小林:大きめって事ですね。これはラーメンとか熱い中華料理のデリバリーに向くって感じですかね。
川ノ上:理論上はその通りですが、どこまで中華料理デリバリーに需要があるかはわかりませんが。。笑
ニーズが比較的顕在化しているユースケースもあります。
例えば橋梁(きょうりょう)点検とかだと、上側にカメラがついてるんですね。
そしてカメラのついた棒を差し込んで中の状況をチェックします。
(画像:「Next INDUSTRY®︎」 橋梁点検カスタム)
川ノ上:こういうのって下側にカメラがついているとドローンが入っていけない。
小林:確かに。しかも橋とかって風が強そうですよね。
川ノ上:そうなんです。だから揺れる環境の中でいかに安定させるかっていうので、こういった「Next INDUSTRY®」という点検用のロボットも作っています。
小林:こういう重心を固定して羽を動かす感じのドローンはここにしかないんですか?
川ノ上:現状はないですね。
小林:独占?
川ノ上:そうですね。で、それを特許にして、中国のメーカーと協業して、彼らの持ってるクライアントでこれまでの業務では解決できなかったものがあるんだったら試してみませんか?というアプローチも中国では進めていくつもりです。
小林:その時に…、中国ってすぐパクるじゃないですか、まだパクられてないんですか?
川ノ上:戦略としては、パクられるくらいの知名度と活用フィールドの掘り起こしが重要だ、という考えで、まずは市場を作りに行かねば、という感じです。
というのは、産業用ドローンという市場がまだ大きくないんですよ。
ライセンスを買う側からすると、市場がないものに対してライセンス買ってドローン作ってもそもそもクライアントいないじゃんって話になっちゃう。
むしろ、市場がある前提で、ライセンスを買ってもらう必要がある。
買ってもらう先って別に中国企業である必要はなくて、主要なマーケットっておそらく北米かヨーロッパになるはずなんです。
その時にデファクトスタンダードになっていればいい、という考え方。
むしろ、どんどんドローン産業先進国である中国で広められる展開を期待しています。もちろん特許戦略は重要ですけども。
小林:そこに『4D GRAVITY®︎』が入ってるっていう状況になればいいと。
川ノ上:そうです。IntelとかARMとか、パソコンのCPUを設計してその設計情報を世界中の企業にライセンス提供している会社がありますが、ああいう位置付けになれると一番いいですよね。
小林:ドローンのハードウェアは作ってないんですか?
川ノ上:ハードウェアは試作品までしか作ってないです。商用で量産する場合には戦略パートナーと協業していきます。
小林:物流や点検などの他にドローンを応用できる技術産業ってあるんですか?
川ノ上:基本的な考え方はロボットを浮かせるって発想なんで、これを使って何かロボットを浮かしたいというものがあればそこに向けて試作品を作り、それがビジネスになるのであれば商用化する検討を深圳を使ってやっていきます。
さらにフライングロボットの延長線のモデルとして、まだコンセプトモデルですけど、エアモビリティの1号機を10月のCEATECで発表しました。
1/3のスケールで、まだまだ改良が必要なんですけども、これも4D GRAVITY®️で、プロペラ部分が動いて人が乗るコックピット部分は動かないと。
観覧車のゴンドラが空に飛んでいくような体験ができるモビリティというコンセプトを打ち出しています。
これはもう少し法律的な整備が必要なので、2023年くらいを目処に準備を進めています。
小林:ドローンって、いかに水平と言えども、離陸して進む時に傾くわけで、あれって乗ってると結構な傾斜ですもんね。
それが観覧車のように動いたってずっと水平が保てるわけですもんね。
川ノ上:そうです。わかりやすいのは、蕎麦屋のオカモチみたいなものです。
オカモチの部分をドローンに積んだと思ってもらえればわかりやすいかもしれません。
杭州と中国のユニコーン企業について
小林:会場の参加者の中に、中国の新興都市が気になっているという方がいらっしゃいましたよね。
深圳は深圳で追いつつ、他の都市で、ここを取り上げておかないとっていう都市はありますか?
川ノ上:例えば、杭州ですかね。ここにはAlibabaの本社があります。
上海から一時間くらいの場所です。
ここも都市の観点からみて面白くて、城市大脳(シティブレイン)っていうマネジメントシステムをAlibabaが作っています。
交通とかあらゆるものをコンピュータで制御するスマートシティみたいな構想ですよね、それをAlibabaが主導してやっているわけです。
で、Alibabaの本社にいくと、自然と都市が融合したような、機能がメッシュのようにつながった都市構想を持っているのが外観からも伺えます。
小林:昨日かな、テンセントが深圳に島を買いましたよね。1,300億円で。
川ノ上:ああそうですね、あのスケールです。
杭州もスタートアップが盛んで、ドリームタウンっていう場所にこういうスタートアップを集めた場所があります。
あとユニコーン(※)の数でいうと深圳よりも多かったりするんです。
深圳は全体の11%ですが、杭州は3割くらいあるんです。
(※ユニコーン…一般的には設立10年未満で10億USD以上(日本円で1070億円程度)の企業価値を上回る未公開企業を指す)
(画像引用:Prayer Garden)
小林:北京も多いですね。
川ノ上:北京も多いです。北京は41%です。
小林:深圳も多いイメージでしたけど。
川ノ上:実はまだ北京の方が多いですね。
小林:ちなみに余談ですが、中国で「こうしゅう」というと”広い広州”と”杭(くい)の杭州”と二つあるのでみなさん覚えておいた方がいいですよ。
川ノ上:わかりづらいので、僕はよく広州(こうしゅう)と杭州(くいしゅう)って呼び方をします(笑)。
小林:ちなみにユニコーンって今中国に全部で何社くらいあるんですかね。
川ノ上:どうなんでしょう、定義によって違いますが、CB INSIGHTSだと100は行ってると思うんですけど。
(※CB INSIGHTSによれば、2019年の中国のユニコーン企業は101社。胡潤研究院によれば206社)
川ノ上:中国って都市によって全然違っていて、北京人と上海人では性格も全然違うし、おそらく東京人と大阪人以上に違うんですよね。
“中国”って一括りにするとふわふわした概念になっちゃうので、やっぱり都市別に見た方がいいですよね。
参加者:今日お話しいただいたような、中国に関する正しい情報というか、現実をありのままに伝えるような英語や日本語のオススメのサイトなどあれば教えてください。
川ノ上:スタートアップの情報だと36kr.jpっていうサイトがオススメです。
ここは日経新聞と提携していて、2ヶ月前にNASDAQに上場しました。
スタートアップを全方位的に取り上げているメディアです。
あと、日本人が運営しているGlo Tech Trendsっていうサイトがあります。
無人化とかフィンテックとかキャッシュレス社会とか、テクノロジーごとに記事が分類されているのでわかりやすい。日本人目線での切り口があると思います。
小林:なるほど。ありがとうございます。めまぐるしく変わる中国、深セン、こういう情報網は重要ですね。まだまだお聞きしたいところですが、時間が来ましたので、これにて終章したいと思います。ありがとうございました。