現状打破のための「IT武器化思考」パート2
●はじめに
「現状打破のための『IT武器化思考』~中小企業が生き残るために~」をお読みいただいたかたから、
「もっと具体的に『IT武器化思考』を説明してほしい」
という声を多くよせていただきました。
今回は、具体的な事例をまじえて、実際に企業がIT武器化思考をとりいれて「現状打破」していく過程をご紹介しています。
また、本書では「IT武器化思考」という考え方ををより身近に感じていただくために、
艱難辛苦を経てついに編み出された〈『IT武器化思考』誕生秘話〉についても明らかにしました。
「現状打破のための『IT武器化思考』~中小企業が生き残るために~」同様、この続編につきましても、貴殿の、IT武器力向上のヒントにしていただければ幸いです。
進まない中小企業のIT化
政府が「一億総活躍社会の実現」を掲げて、「働き方改革実行計画」をまとめあげたのが平成29年3月。以来、残業の上限規制、高度プロフェッショナル制度創設、有給休暇取得促進等、さまざまな施策が話題になっています。
ITの利活用もその中の最重要課題の一つですが、中小企業、特に100名以下の小企業においては、まったくといっていいほどIT活用が進んでいないのが現状です。
『中小企業白書2016年版』によると、その理由として挙げられている理由の上位は、
第一位「ITを導入できる人材がいない」
第二位「導入効果が分からない、評価できない」
第三位「コストが負担できない」
ここから見えてくるのは、IT投資の必要性は認めつつも、ITを導入・運用できる人材がおらず、またITの導入によりどのような効果を得られるかが分からず、さらにコストも負担できない、と苦悩する企業の姿です。
一方、すでにITを導入している企業も、状況は明るいものではありません。導入後に挙げられている課題は、
第一位「情報セキュリティ等のリスク対応が必要」
第二位「社員のIT活用能力が不足している」
第三位「IT人材が不足している」
第四位「IT関連のコスト負担が大きい」
第五位「IT導入の効果算定が困難」
第六位「経営者のIT活用能力が不足している」
と、導入はしたものの、経営者・社員ともに
「実のところ、ITで何をしたらいいのか、何ができるのかわからない」
と悩む姿が統計から浮かび上がってきます。
多くの中小企業は、少子高齢化に伴う人手不足や、後継者不在による廃業の危機に直面しています。企業がこうした困難を乗り越えて、十年先、二十年先まで生き残るためには、IT導入を進めていくと同時に、自社に最適な形で活用し、運用していくことが不可欠です。
そのためにまず、IT導入によってどのような問題が解決されるのか、その具体例を見ていきましょう。
在庫管理のシステム化によって業績が改善したA社の場合
小売業や製造業、介護施設や医療現場など、中小企業の現場の共通の課題として、在庫管理があげられます。在庫がなければ製造業はすぐに生産に入れないし、小売業であれば品切れによって販売機会が失われます。施設や病院では欠品が直接事故につながりかねません。
そのため、どうしても必要に備えて、多め多めに発注しがちになってしまう、という課題を抱えています。
部品メーカーであるA社も、まさにそうでした。原材料が不足し生産ラインが止まることを怖れて、多めに発注するのが常態化。気が付けば必要以上に多くの資材をストックするようになっていました。
一方、経営の観点から見ると、在庫を過剰に抱えることは、自由に使えるお金が在庫となって固定化することにほかなりません。つまり、在庫がキャッシュフローを悪化させ、経営を圧迫していくことになるのです。
つまり、在庫に対するとらえ方が、現場と経営者の間では180度異なるということです。
A社の場合、昔ながらの手書き台帳で在庫管理を行っていましたが、それはあくまでも形式上のものでした。実際には、管理部門や製造部門、品質管理部門、資材部門等の各部署間で、それぞれに在庫に対する意識が異なり、正確な在庫数の把握もできていませんでした。
ましてや、実際に在庫の無駄がどれほどあるのか、適正な発注量、在庫量はどれくらいか、効果的な発注のタイミングはいつか、等の情報が会社全体で共有されていませんでした。各部門の担当者が各々長年の経験と勘にたよって発注業務を行っていたのです。
「このままではいけない。なんとかしないと」
A社の工場長は倉庫に積み上げられた在庫の山を見上げて、IT導入を決意しました。
まず手始めに、現状を正しく把握し、部署間の意識のずれを是正するために、在庫管理システムの導入を行いました。
在庫自体の数量をデジタル化することによって、数の「見える化」が可能となります。
組織全体で在庫を正確に把握し、在庫と発注をセットでとらえるという意識が、会社全体に生まれました。
さらに受注や出荷、発注と仕入といった個々のデータをシステムに入力して管理することによって、各部門が協調してより効率的な運営を考えるようになったのです。
A社ではこうして在庫管理システムの導入によって、キャッシュフローが改善し、経営状態を安定化させることができました。
当初、A社の現場はもちろん、経営者も、ITの必要性は認めつつも、導入には及び腰でした。ベテラン従業員の中には、システム化によって、これまでの仕事のやり方が変わってしまうのではないか、自分が変化に対応できるか、と危惧する者もいました。
しかしそれは杞憂でした。A社がIT化に成功した裏には、BAISOKUだけの「IT武器化思考」があったからです。
BAISOKUの「IT武器化思考」が生まれた背景
もともとBAISOKUは、業務のシステム化の際は、会社の全体最適化を図るべきである。そのためには、業務の流れを会社全体でとらえた、一つのシームレスな仕組みをつくるべきである、と考えていました。
しかし、そのやり方を追求すればするほど、一般的にいうところの汎用性のあるシステム、効率のよいシステムはできるものの、実際に使う人からは「自分の業務に最適なやり方ができない(今までのやり方がよかった)」「使い勝手がよくないと感じられる」、という率直な意見を聞くことが多くなりました。
つまり、「全体最適化」という仕組みと、「個人の実際の業務」の間に微妙な乖離が見られることがわかったのです。
こうなると、無駄のないシンプルなシステムであればあるほど、経営者からみると「せっかくシステムを導入したのになぜ使えないの?」と、「使えない人が悪い」ことになってしまいかねません。
そのギャップを埋めて、実際に「使い勝手のよいシステム」にするためには、個別に膨大な量の微調整が必要でした。これは、開発する側にとって、多くの時間と工数(作業)を負担することを意味します。
BAISOKUとしては、シンプルで無駄のないシステムを納めることを理想としているのに、現実的には個別最適、部分最適に調整をせざるを得ない。この大きな矛盾と葛藤する日々でした。
そんなある日、「そうか!これでいいのか!」と、はた、と思い当たったことがあります。システムを使うのはあくまでも「個人」だということです。
全体最適=会社で一つ、というシステムをつくろうとすればするほど、一方で個別最適化が必要になっていたのです。
そこで、発想の大転換を行い、個人の頭の中にある仕事の特殊性に焦点をあてて、それを仕組化すれば、他の人も同じように仕事ができるようになるのではないかと考えました。
個人の仕事を「武器化」して、他の人も使えるようになれば、結果として全体最適のシステムになる。個別最適と全体最適は相反するものではなく、個別最適の「武器」が全体最適の武器にもなるという、逆転の発想でした。
ここに行きつくまでにたいへんな遠回りをして、ようやく得た気づきでした。
従業員数に限りのある中小企業では、一人の担当者が長年同じ業務を担当することが多く、個人が仕事を抱え込んでしまいがちになります。経験を重ねることで、自分なりの仕事のやり方が確立される反面、何年も同じ仕事を続けることで、変化や進化がしづらい、という弊害も生まれてきます。
また、会社全体としての効率や生産性という視点は、当事者にはなかなか持つことがむずかしいものです。
そこでBAISOKUは、その人の業務の「特殊性」に着目し、最初からその業務の担当者用に「特殊な仕組み」をつくればいいのではないか? と考えたのです。
起点はあくまでも個人の頭(脳みそ)の中。その人の仕事のやり方と、その人が頭の中に抱えているデータを、外に出して仕組化すればいいのではないか、と。
そうして、今度はその仕組みを、他のメンバーでも使えるようにすればいい、それを会社全体でも使えるようにすれば、結果的に全体最適化が可能になる、と考えました。
全体を最適化し、個人がそれに合わせるのではなく、個人に焦点を当てたものを全体化するという逆転の発想に至ったのです。これがIT武器化思考の原点です。
会社にはさまざまな人がいます。ある業務のスペシャリストもいれば、一人で何役もこなしている人も、またITリテラシーが高い人もいれば低い人もいます。どれだけ完成度の高いシステムを作ったとしても、そこで働く人が使いにくさを感じ、システムを敬遠してしまえば意味がありません。
ゴールはあくまでも全体最適であっても、会社はそこで働く人が主役です。
そこで働く人の知識や情報を、「仕組み」として頭の中から外に出してやれば、ほかの人も使えるし、個人の負担も軽減されるようになります。
そうして個人に合わせて作った仕組みの一つひとつを積み上げて、全体に広げていくのが全体最適だということに気づいたのです。
徹底して個人に合わせたシステムをつくることによって、逆に汎用性を持ったシステムが生まれてくる、というわけです。
一人ひとりに合わせてつくったITシステムは、その人にとってのオーダーメイドの武器となります。仕事を武器化して外出しすることで、仕事のキャパシティに余裕が生まれ、新たな仕事ができるようになります。
これは、会社の収益を上げるだけでなく、その人自身の仕事のステージを高める、ひいては賃金を上げることにまでつながります。
一般的にITの導入というと、会社全体を最適化するシステムを導入し、会社で一つのシームレスな仕組みを作ってそれを従業員に使わせる、という流れが主流です。
しかし、BAISOKUは個人の業務を仕組化し、ほかの人も使えるようにする、さらには会社全体でも使えるようにして、結果的にシームレスな仕組みで全体最適化を図れるようになる、という方向で、IT化・システム化を行っていきます。
この従来とはまったく逆の発想を、私たちはIT武器化思考と名付けたのです。
次頁の「図解・IT武器化思考」で、今まで述べてきたIT武器化思考をイラストで説明しています。ご参照ください。
単なるIT化ではないIT武器化思考
では、IT武器化思考が、現場では実際にどのように実現されているか、実際に導入した医療関係施設であるB社の事例を見ていきましょう。
従業員の年齢が比較的高いB社。ベテランスタッフのほとんどは、パソコンアレルギーで、顧客対応記録や、業務報告、シフト別の申し送り連絡など、あらゆる業務の記録が、手書で台帳に記入することで行われていました。
顧客管理名簿の数だけでも膨大な量で、電話がなるたびに、倉庫へ走っていって、そこからお目当てのファイルを見つけるまでがひと苦労、という状態でした。
システム化にあたって、どのプロジェクトでもそうですが、私たちは、まず「豊富な経験と知識」が頭の中に蓄積されている業務担当者の方々からお話をうかがいます。
みなさん、身体で業務を覚えているので、「言葉」で理路整然と業務をご説明いただくことは至難の業。そこで、実際にやっている仕事を一つひとつ、伝えられる範囲で聴いていきます。
担当者からヒアリングしたことをつなぎ合わせて全体の業務の流れを構築し、まずは「こんな感じ」という試作版をつくります。
「パソコンアレルギー」を起こさないように、今の業務の流れをそのまま、紙をパソコンの画面に置き換えるイメージで、システムを開発していきました。
こうしてできた試作品を、実際に使っていただきながら改良を重ねることで、担当者自身に使いやすいシステムに仕上げていくのです。
三か月後には、紙に記入するように入力でき、しかも必要な時には、検索するだけでその場で情報を呼び出すことができるシステムが完成。B社のスタッフは、事務所と倉庫の往復から解放されました。
業務をデジタル化することの意味は、単純に紙の記録をデータベース化して閲覧性を高めることだけにとどまりません。
個人の頭のなかにあった貴重なデータや知識、豊富な経験をシステムにインプットすることによって、それを会社全体で共有でき、ほかのスタッフのデータや知識と組み合わせることが可能になります。
さらにそれらのデータを分析することで、近い将来に起こりえる事象の予測を立てることができ、事前に対策を練ることも可能になります。
B社では、システム化で事務作業の時間を約3割減らすことができました。その時間を、対外的な宣伝・営業に振り向けることで、売上がアップ。また、蓄積されたデータで販売予測を行い、それをもとに、新しいサービスを立ち上げることができました。
一般的にシステム開発というと、「販売管理システム」、「在庫管理システム」、「営業支援システム」といったように、個別に業務の機能単位に開発します。しかしIT武器化思考は、そこで働く「人」に焦点を当て、その人に最適なIT武器をつくるという考え方なのです。
IT武器によって働く人一人ひとりをパワーアップさせ、会社全体を「少数精鋭部隊」に変貌させることで、人手不足を解消し、働き方改革を実現し、生産性を飛躍させ、利益率を向上させていく。それがBAISOKUの願いです。
●あとがき
人手が足りない、売上が上がらない、IT化に向けて投資しようにも資金がない・・・、
中小企業を取り巻く厳しい情勢の下、どの企業の経営者も何とか現状打破しなければ、と頭を悩ませています。
一方、業務の現場では、能力の高い特定の従業員に仕事が集中し、全体化できないために、結果的にそこが売上や利益のボトルネックになっている、という中小企業特有の問題を抱えています。そのことが時短の妨げにもなり、働き方改革が進まない真の原因でもあるのです。そうした状態を放置したまま、どれだけ現状打破のための戦略を打ち出したとしても、現状維持以上のことはできません。
私たちBAISOKUは、「個人用のIT武器化」という発想が中小企業の課題である、と考えます。IT武器化思考なら、人手不足、働き方改革を解決し、生産性を飛躍させ、PDCAサイクルを継続的に改善し、利益システム化を実現することができます。これこそが、現状打破のための戦略だと考えています。
株式会社BAISOKU 代表取締役 吉沢 和雄
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