母と娘の系譜

5月になってしまった。5月といえば母の日である。母の日となると思い出す出来事が2つある。

その1

今からうん年前の事である。私は大阪で一人暮らしをしている祖母に母が送る母の日のプレゼントの吟味を頼まれて高島屋にいた。

「母の日のプレゼントの送付はまだ大丈夫ですか?」
「大丈夫です。どちらへ送られますか?」
「大阪です。母から祖母に送るプレゼントを選ぶよう頼まれまして。お財布あたりの手頃なものを送ろうかと」
「そうですか。お祖母様はどういったお色がお好きですか?」
「ピンクと紫なんです」
という会話の後の店員の目がキラリと光り、彼女はニコニコ笑ってショッキングピンクの折り財布を得意気に差し出した。
「これなど如何でしょう。色もピンクですし、こちらのメーカーなら品質も折り紙つきです」
「確かに有名なメーカーですね……それにしてもスゴくピンクですね」と若干引いた私に彼女はトドメと言わんばかりのドヤ顔で続けた。

「加えて、この、中のド派手なペーズリー模様が大阪のおばちゃんのハートをくすぐります!」

彼女の渾身のプレゼンは非常に印象的であったが、その財布は予算をはるかにオーバーしていたので、購入を見送ったのだった。

その翌年、私はバーゲンコーナーでこの財布と再会した。大阪でない地元ではこのお財布はおばちゃんのハートをくすぐらなかったらしい。お値段的に手頃であったので、近々こちらを訪れる祖母へのプレゼントに購入したのだった。

さて。プレゼントはお昼を母と私と妹と祖母の四人で食べた後に手渡した。祖母は包みを「ありがとう」とそっけなく言って鞄の中にしまったきりであった。あら?と思いつつお昼を食べて祖母と別れたのであった。

その数日後の事である。呆れ顔の母から祖母からプレゼントのお礼の電話があったことを聞いた。
母が「みもらんのことだから安物買ったんでしょう」と言ったところ、祖母は「何言うとんの!有名メーカーのちゃんとした財布できっと高かったと思うよ?じゃあ、ちゃんと伝えといて。じゃあね」と怒ったように言って電話を切ったらしい。

「そんなに気に入ったなら本人に直接お礼言えばいいのに」

というのが母の感想であった。
まぁ、そうだねと思いつつ、バーゲンとバレずに気に気に入ってくれたなら良かったわ、と思って自室に向かったのだった。

その2

妹の誕生日プレゼントを探しているときに英国展の文字が目に入った。妹は英国好きだからここでプレゼントを買おうと英国展に向かった。そこで英国製シルバーチャームなるものが目に入った。以前書いたが妹はテディベア大好きである。シルバーチャームの中にはテディベアのチャームがあったので、私は妹のプレゼントにすべく購入した。その際、ついでに、母の日のプレゼントとして母に犬のチャームも購入した。妹はチャームに狂喜乱舞したが、母は冷静だった。気に入らなかったか、と思ったが特に何も言わなかった。

そして数年後。私が一人暮らしを始めて間もなく、その電話はかかってきたのだった。

「みもらん、ゴメン。ゴメン」とワアワア泣く母に事情を聞くと私があげた犬のチャームをなくしたとのことだった。小銭入れに一緒に入れ、大事にしてたそうだ。そんなに気に入ってたのか、と驚いたが、チャームはお守りでもあるので、きっと何かの身代わりになったのだろう、気にしなくても、と言って電話を切った。

その後、妹が遊びに来た時にとあるお寺の門前町でガラスのチャームのお守りを見つけた。値段も手頃だったので母へのお土産に、と買って妹に渡した。これについて母からは何もコメントは無かった。

それからしばらく後のことである。また英国展が開催されていた。そこで、私は母に以前買ったチャームと全く同じチャームに遭遇した。ワアワア泣いてかけてきた電話を思い出し、買おうとも思ったが、あれは身代わり、と宥めたのに同じチャームを買うのも、と思い、妹に相談の電話をかけた。
「どうしたもんかね」という私に「そっとしといた方がいいと思う」と妹。「姉ちゃんから貰ったチャームなくしたのがトラウマらしくて。姉ちゃんが買ったガラスのチャーム、小銭入れに両面テープで貼り付けてるんだもん」
「え?気に入ってたの?あれ?何も言わないから気に入らなかったかと思ってた」
「いや。気に入って大事にしてるよ」

「そんなに気に入ってくれたなら、本人に言ってくれたらいいのに」

と言った私に妹は「そういう人じゃん、お母さんは」と言って電話を切った。

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母の日、というと私はこの2つのエピソードを思い出す。母の日のプレゼントにここまで同じ対応をするとは。遺伝とは恐ろしいものである。
特に私は母と性格が非常に似ているらしい。私はプレゼントは素直に喜ぶ性格と自負しているが、周囲からみたらそうでもないのかもしれないと思うと色々考えてしまうのである。

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