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「サマーレコード」配信記念インタビュー

dhn - サマーレコード​

8月4日より「dhn」の2ndシングル「サマーレコード」が各音楽ストリーミングサービスより配信が開始され、8月29日よりYoutubeにてMVが公開された。

今回は「dhn」のボーカル、作詞・作曲を務める福田真由子さんにお話を伺った。

―曲ができた経緯を教えてください

この曲は元々授業で自分で何かしらのテーマを決めてそのテーマに沿って曲を作ってくださいっていう課題で作った曲なんですよね。
そのとき、まあ昨年の夏ですよね、夏だったのでまあ「夏」でいいかなみたいな気持ちで作り始めたんですよ。
そのとき私が鈴木瑛美子さんと亀田誠治さんの「フロントメモリー」っていう曲のカバーにハマっていて。こういう曲作りたい!っていうのが発端でしたね。

※フロントメモリー
「神聖かまってちゃん」の楽曲。鈴木瑛美子×亀田誠治によるカバーバージョンは東宝配給映画『恋は雨上がりのように』主題歌になった。

この「フロントメモリー」の好きなところは夏の曲なんですけど歌詞が夏に対してそんなに肯定的でないところなんですよね。特に「ガンバレないよガンバレないよ Yo, そんなんじゃいけないよ」って歌詞がいいなあって思っていて。
私は実は本当に夏が苦手で夏は毎日頭が痛くなってしまうんですね。だからこの「ガンバレないよガンバレないよ」っていうのは本当に夏に私がすごく思っていることで。特に昨年の夏は鬱の症状がでたりしていて本当に「ガンバレなかった」んです。だから凄くその歌詞が染みたんですよね。
でもただそのあとの「Yo, そんなんじゃいけないよ」っていうのも凄い染みましたね。そうだな、そんなんじゃいけないよなって思わせてくれるんです。でもそんなんじゃいけないといいながらもこの曲はやっぱり夏が苦手な人の味方でいてくれるよな気がして好きだなってすごく思ってました。今ももちろん思ってるんですけど。

その歌詞に加えて私がこの曲の中ですごく好きだなって思う部分はピアノなんですよね。
もともとこの曲は「神聖かまってちゃん」の曲なんですけど「神聖かまってちゃん」の曲は本当にピアノが素敵な曲が多いんです。唯一無二のエモーショナルなピアノの旋律が私はすごく好きで。

この曲の中の「あまり夏が得意そうじゃない歌詞」と「エモーショナルなピアノの旋律」が出会うことで私が夏に感じる「夏はどうも苦手なんだけどそれでも感じてしまう非日常的なトキメキ」が思い起こされたんですよね。それが本当に魅力的だと思ったのでそんな曲を作ろう!ってなったんです。

―福田さんは普段どんな手順で曲を作るんですか?

こういう曲作ろう!って決めてから作るときとなんとなく浮かんでくる時があります。今回は前者です。こういう曲作ろうって決めて作るときは参考にしたい曲を集めてプレイリストを作るんです。
ちなみに今回作成したプレイリストはこれです。

こうやってプレイリストを作って1週間ぐらいずっとこのプレイリストを聴くんです。そうするとなんとなく頭がそのプレイリストのモードになってそんな感じの曲が浮かぶようになるんですよね。

―福田さんは曲を作るときは曲先行で作りますか?歌詞先行で作りますか?

これアーティストがすごくよくきかれる質問だと思うんですけど私の場合なんていうかどっちともいえないって感じなんですよね。今回の「サマーレコード」で1番最初にできたのはAメロの「澄み渡った空眺めたら」の部分だったと思うんですけど、まずこの歌詞とメロディーが同時に浮かんできてそこからどんどん続きを作っていったって感じですね。メロディーとここにこの単語をいれたいっていうのだけ決まっててそれをどうやって繋ぐかみたいな感じで作っていくことも多いです。

―今回の楽曲の歌詞についての詳細をお聞かせください。

そうですね、歌詞作成の出発点は「フロントメモリー」のような夏がモチーフなんだけど夏に対しての前向きでないイメージも盛り込みたいっていうところでしたね。私の中でなんとなく「夏」っていうのは輪郭がぼやけるってイメージがあるのでそれを取り入れたいという思いもありました。最終的にそれは「ぼやけた街につつまれて」という歌詞になりました。

個人的に今回の歌詞はすごく秀逸に出来たんじゃないかなという気持ちです。「くだらない日々の愛しさを重ねた今を抱きしめた」という冒頭も曲の始まり方としてすごく綺麗だと思っています。
歌詞を書いたのは昨年ですから正直なところ、当初どういう意図でこの歌詞を書いたかを明確に思い出せないんですけど「コロナ禍」であったことが色濃く現れているということはよく覚えています。
曲ができたときは、それまで全てオンラインだった大学の授業が少しずつ対面授業へと移行してきたという時期でした。そして、久々に登校するというとき、自宅から駅まで自転車を走らせていたらこの曲が浮かんだんですよね。すごく晴れた日でした。

「くだらない日々の愛しさ」、これが正直なところ何を意図したのかしっかりと思い出せないんです。今推測するならコロナ禍以前の日々のことなのかなとか、今まで培ってきたことや積み重ねてきた経験や努力がようやく実りだしてきたという実感のことかなとか思っています。でももしかしたら特に意味を込めたってことでは無いのかもと思ったりもしますね。というのも私が最近歌詞を書くときによくやるのが自分の中にも正解を作らないってことなんです。私は昔から結構既存曲の歌詞を分析することが好きでこの歌詞は一体どういう意味なんだって物凄く考えたりしてたんですけど、作り手として割と長い歳月を過ごしていくうちに自分の中にも解釈の答えがなくても受け取り手が想像してくれるんじゃないかという、ある種ズルを覚えたんですね(笑)
まあズルといってもやっぱり歌詞は音楽があってこそなので旋律にあっていて雰囲気が良くて語感が良くてってなったら細かく意味を詰めるのもナンセンスだっていう思いもあります。

「ここから今日も歩き出せる」から楽器が急に増えるのもすごく気に入っているところです。この歌詞にはコロナ禍でずっと自宅にいたけれど外出も少しずつできるようになってきたという当時の状況と鬱状態から回復してそれ以前より成長して前に進んでいけるなという思いを表しています。

自画自賛ばかりで恥ずかしいのですが、間奏明けのAメロは歌詞としてすごくよくできたなと思っています。具体的に言うと「澄み渡った空眺めたら」という綺麗な描写の後に「生ぬるい風吸い込んで」というあんまり綺麗じゃない描写があって、そのあと「魔法のような感覚を」というキラキラした感じの歌詞が来て「汗ばむ肌に感じてる」というあまり綺麗じゃない歌詞になるという風になっているんです。個人的にこれが「夏」だなと思うんですね。「夏」っていうのは夢の中みたいに語られることが多いと思うんですが実際には暑いし、夏バテするし、熱中症になるし正直ろくな季節じゃないじゃないですか(笑)
だからこの綺麗な表現と綺麗じゃない表現を交互に出すことでそういうのを表現できたかなって思います。

そのあとのBメロも本当に気に入っています。
「炭酸水の喉越しと茹だるような暑さが今僕の中で混ざりあって」という歌詞は最初の方に思いついて絶対に使いたいと思ったんです。だってなんかオシャレじゃないですかね?私はオシャレだと思います(笑)

サビの「夏の嘲笑」についてなんですがこれは完全に最初は語感重視で採用しました。あとあと考えてみるとこれは杏沙子さんの「恋の予防接種」の歌詞の「熱の上昇」っていう言葉が私の頭の中で変換されていたものみたいなんですよね。
でも、ニュアンスとしてもすごく良いような気がしています。

昨年、コロナ禍の当初はなんとなく時が止まってしまったみたいな気分でした。だから段々と外に出られるようになったとき、いつのまにか夏になってたという印象があったんですよね。そのとき思ったのが私たちがどんな状況であろうと季節は巡っていくんだなってことなんです。
私の中で「夏の嘲笑」というフレーズが「夏」という季節が私たちに「今の状況がどんなに苦しくてしんどくてもそれは季節の移り変わりの前でちっぽけなことなんだから夏に身を任せて楽しんでしまえばいいのに」と嘲笑ってるイメージに結びついたんですよね。

Cメロも言いたいのは大体そういうことで、我々人類が感染症というすごく大きな壁にぶち当たっていても季節というか時というかこの地球はそんなことお構いなしなんだな、私たちは無力だなって思いを込めましたね。

―この企画は最初から録音することが前提だったんですか?

いいえ。最初は録音する企画とかは全くなくて全部打ち込みで作ってたんです。この曲を作るきっかけになった授業はDTM実習という打ち込みの授業でしたしね。しかもそのときはまだ編曲とかもほぼやったことなくて、完全に手探りでイメージだけで作っていきました。でもこういう編成なので録音がしたいなとは当初から思っていました。なので今回シンガーソングライター講座という授業で録音企画をやるということが決まったとき真っ先にこの曲にしようと思ったんです。

―録音企画自体は福田さんにとっては2回目なんですよね?

はい。厳密に言うとバンドでの録音企画はという感じですが。
私にとって初めてのバンド録音企画は「Note」という曲でした。ただそのときは私とは別にアレンジャーさんがいたので編曲について私が責任を持つというのは今回の「サマーレコード」が初めてでした。
今回も参加されているドラムの佐藤くん、ベースの武田くん、ギターの伊藤くんとはこのとき初めて一緒に演奏をしたんです。

佐藤くん、伊藤くんとは録音企画の他に2度一緒にライブに出演させて頂きました。そのうち1回は武田くんも一緒でした。武田くんにはライブだけではなくオリジナルミュージカルを作る企画でもお世話になりました。といった感じでこの3人は昨年度から相当お世話になっている人達なんです。本人たちも専属とか言ってくれていて嬉しかったですね(笑)

その武田くんが出演してくれたミュージカルの企画でバイオリンを弾いてくれていたのが今回も参加してくれている佐々木さんなんです。佐々木さんは私が佐藤くん、伊藤くん、武田くんと一緒に出演した配信ライブも見ていてくれて今回の話を持ちかけたときは大変喜んで引き受けてくれました。

そんな感じでドラム、ベース、ギター、バイオリンは決まりました。その後佐藤くんにピアノの相澤くんを、佐々木さんにビオラの川勝くんを紹介していただきました。チェロの三田さんは私と同じ授業をとっていたので声をかけさせていただき、参加していただきました。

―録音はどのように進めて行ったのですか?

まず私が昨年作ったデモ音源を修正するところから始めました。修正したデモ音源、楽譜を演奏者の方に配り最初にリハーサルを行いました。

私は自身の編曲にあまり自信が無いということや一緒にやってくれる演奏者の方々の各パートのアレンジスキルが高いこともありデモ通りでなく自由にアレンジして良いと促すようにしています。
ドラムの佐藤くんは普段ラテン音楽をよく演奏している方なのでリハーサルのとき、アウトロが少しラテン風味にしていました。私はそれをきいたときこれは絶対に私の中からは生まれてこない面白いアレンジだなと思い採用しました。誰かと音楽を作るということの良さはこういうことだと思っています。

リハーサルについては今思うと反省点が多いです。リハーサルのときに録音企画でありライブではないということで曲のアレンジについてあまりしっかりと詰めなかったということです。まあどうにかなるだろうではダメだったと録音をし始めたときに気付きました。次回以降気をつけたいです。

リハーサルのあとはまずドラム、ベース→ピアノ→エレキギター→ボーカル→ビオラ→バイオリン→チェロ→アコースティックギターの順でレコーディングしました。

先程申し上げた通り、今回は私がアレンジについて責任をもって行う録音企画としては初めてだったのでレコーディングは様々な困難がありました。

先程アウトロでドラムをラテン風にしたといったのですがこれによって他のパートの動きを再考しなければならなくなったのです。
ドラムをラテン風にしたいという気持ちはあったけれどストリングスの動きは変えたくないという気持ちがあったのでどのようにバランスをとるかということを考えなければならなかったのです。この点がリハーサルの反省点であげたことです。

結果的に大体のパートはラテンに寄るとストリングスと調和しなくなってしまうのでラテン風のドラムをききながらもラテンには引っ張られないようにという感じになりました。難しかったと思うのですがみなさん素晴らしい演奏者の方々なのでこなしていただけました。大変感謝です。

また、今回のレコーディングで私が難しいと感じたことはどこまでリテイクをするかということです。
テイクを重ねれば重ねるほど演奏者も私も疲弊してしまうのであまりリテイクはしたくないというのが本音です。しかしだからといってどんな演奏でもOKを出すというわけにはいかないのでリテイクするかどうかの見極めが非常に重要でした。具体的に言うとそれはリテイクすれば出来るようになることなのか、録音後にエディットすれば済むことなのか、そもそも私の求めるテイクが果たして良いものなのか、演奏者はどう感じているのかなどを考えるのが難しかったです。ただ、それらの経験の中で私のコンポーザーとしての対応力はかなり鍛えられたと思います。レコーディングの場で即座に代替案のアレンジを考えられるようになったのは大いなる成長でした。もちろんレコーディング前に気付き、修正できることが望ましいのですが。

今回レコーディング、ミックス、マスタリングをしてくれた君嶋くんは経験も豊富で非常に優れたエンジニアです。レコーディングでのディレクションは私にとってとてもチャレンジングなものでしたが君嶋くんのサポートがあったからどうにかやり遂げることができたなと感じています。君嶋くんは普段エンジニアとしてそれほど楽曲に口を出すことはしないが今回は授業内の共同企画ということで意見を述べてくれたとのことでした。君嶋くんのアドバイス無しにこのような作品はできなかったと思うので授業でこの作品に取り組めて本当に良かったと思います。

私が個人的に今回のみならず誰かと楽曲を制作する上で意識しているのはリハーサルやレコーディングの場の雰囲気です。特に今回は明るい曲ですし、演奏者に楽しんでリハーサルやレコーディングに参加していただきたいという思いがありました。まあ、単純に私が張り詰めた雰囲気は苦手ということもあります。いずれにせよ雰囲気を明るくするということには一生懸命務めました。演奏者の方々に次回も参加したいと思ってもらえるようにという意図もありましたね。

今回は大学内の授業での企画ということで演奏者の方に報酬はお支払いしていないため私の中には演奏をしていただいているという思いが強固にありました。もちろんその姿勢は忘れてはならないのだけど、演奏者の方々が楽しんで参加してくださっている姿を見たり、参加してよかったとおっしゃっているのをきいたり、この曲が好きだといってくれるときに胸の使えが取れる思いがしました。それと同時にこんなに幸せなことは無いなと感じました。

歌詞の中に出てくる「叶わない夢にも思い馳せて」や「終わらない夢の狭間で強気になんてなれない」の「夢」というのは「シンガーソングライターになる」という夢です。私は小学生のときからシンガーソングライターになりたいという夢を持っていました。しかし、おそらく私は大学に入るまで明確にその夢を口にしたことはありませんでした。
なぜなら叶うわけがないと他人に一蹴されるのを恐れていたからです。大学に入って自身の曲をライブで演奏させていただいたときにシンガーソングライターになりたいといってもいいんじゃないかという希望を見出したのです。それでも昨年は自身の曲を聴いていただいた方にこんなレベルでプロになろうなんて無理だと言われることもありました。だから昨年の私はその夢を「叶わない夢」「終わらない夢」としたのです。しかし、今録音企画としてこの作品が出来上がった今は自惚れかもしれませんが私は胸を張ってシンガーソングライターになりたいと言えるとのだと思うのです。
もっと言えばこの楽曲の完成はある種、夢が叶ったとも言えると思うのです。こんなに素晴らしい方々に囲まれて、自分の曲がこんなに素晴らしい形になるということは幼い自分が恋焦がれていた姿そのものだと思うのです。

「叶わない夢」、「終わらない夢」を歌ったこの曲によって自身の夢が叶うということがやはりこの曲を私にとって思い入れ深い物にした一番の理由なのです。

―最後に福田さんの今後の計画について教えてください。

この「サマーレコード」は現在音楽ストリーミング配信サービス等での配信が始まりましたが今後MV発表や制作過程のドキュメンタリー制作を企画しています。新曲発表についても明確ではないですが希望として計画しているので是非ご期待ください!


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