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苦手なの?胃カメラの鎮静 医療者向け

以下の文章は架空の著者という設定で書かれた、医療の内容を含む文章です。本文の内容を臨床応用する場合には、各医療者の判断と責任の下で行ってください。記載をしている本当の著者及び、その関連団体は一切の責任を負いません。ご理解の上、よくできたフィクションとしてお楽しみください。

麻酔科医は胃カメラの鎮静が苦手

日本で、麻酔科医が胃カメラの鎮静を担当することは少ない。胃カメラの鎮静は、内視鏡医が自ら投薬の指示を出して、周囲の看護師や検査技師とともに行っていることが、ほとんどだ。内視鏡医達が自分達で麻酔をすると困りそうな場合に、麻酔科に依頼をするという医療機関が多いが、おそらく全内視鏡件数の1%に満たない程度しか麻酔科依頼になっていない。

この、内視鏡医が内視鏡側のカメラも見ながら、患者の呼吸や循環状態を看視するのは、かなり大変なことだ。鎮静も麻酔の一つなのに、なぜ麻酔のプロである麻酔科医が担当していないのか。それは、簡単に言えば医療保険制度が影響している。

というわけで、日本の麻酔科専攻医は、胃カメラの鎮静をほとんど担しないまま専門医になる。全くやったことがないという専門医や指導医もいる。だから、たまに内視鏡チームから麻酔科依頼を受けると全身麻酔で挿管して行ってしまう。

全身麻酔と鎮静のどちらが、麻酔をかける麻酔科医にとってストレスになるかというと、鎮静である。これは、非医療者だけでなく、外科系の医師であっても誤解していることが多い。

それには理由がある。
現在の麻酔科医は自発呼吸を残しながら、全身麻酔やDeep Sedationを行うことが減った。これには、レミフェンタニル、ロクロニウム、スガマデクスの普及が影響している。また、病院経営でも本来は区域麻酔と鎮静で行える処置も、全身麻酔で行った方が保険点数が高く儲かる。保険制度の設計が、高い薬剤、高い麻酔方法の使用を病院側に促しているともとれる。

麻酔科医が胃カメラの鎮静を行った場合、胃カメラの鎮静では、内視鏡医と麻酔科医が気道を共有することになる。麻酔科医としては、自発呼吸を残したいので、なるべく浅い麻酔にしたい。一方で、内視鏡医としては、浅すぎる麻酔だと、患者の体動が大きくなって内視鏡検査の妨げになる。体動が大きくなって、プロポフォールやフェンタニルを安易に追加したものの、効果が発現する頃になって内視鏡操作による刺激がなくなって、過鎮静となり、呼吸が止まりSpO2が下がってくるなんてことも起こる。

鎮静と全身麻酔の違いは?

挿管されていると全身麻酔で、挿管されてないと鎮静と考えていた麻酔科医がいて驚いたことがある。「気道確保の仕方を変えると麻酔の深度がかわるの?」と聞き返した。
「小児の小手術は、フェイスマスク換気下での全身麻酔で行うことがあるよね。」
「ICUで挿管人工呼吸器管理するときに、鎮静するよね。」
などと説明しつつ、ASAの定義を読んでもらうと理解してもらえる。

以下参照

ASAの定義では、Deep Sedationの範囲が広すぎると感じている。
Moderate SedationよりのDeep SedationとGeneral AnesthesiaよりのDeep Sedationを分けた方が良いと思っている。胃カメラの鎮静は、General Anesthesia よりのDeep SedationとModerate Sedation側のDeep Sedationを使い分けて行えるとよい。
また、ASAの定義にもあるが、SedationとGeneral Anesthesiaは連続的であり、明確に境界分けできるわけではない。胃カメラの鎮静といっても一時的には全身麻酔といってもよい麻酔深度になっている場合がある。

スクリーニング目的の消化管内視鏡のための鎮静

スクリーニングの胃カメラのための鎮静といえばプロポフォールとフェンタニルだ。もちろん、レミフェンタニル、デクスメデトミジンを使う手もあるが、プロポフォールにオピオイドを組み合わせるのが、欧でも米でも、アジア諸国でもスタンダードだ。ペチジンとミダゾラムを第一選択で使っているという施設を、私は日本国外では見たことがない。鎮静する場合、患者が辛くないので、わざわざ細くて視野が狭く、ポートからの処置も限定的になり、鼻血がでることもある経鼻内視鏡も必要ない。

プロポフォールとフェンタニルをどのように使ったらいいのだろうか?そのためには、内視鏡操作手順を知り、麻酔深度を調整する必要がある。

胃カメラの場合、
1, 内視鏡が咽頭腔から食道入口部を通過するとき
2, 幽門部、十二指腸の球部、角、乳頭を観察するとき
が患者への刺激が強い。

これらのタイミングでは麻酔を深める。
胃内や食道の観察ではさほど深い麻酔深度はいらないが、それでも咽頭にはスコープがあるので、オエオエしないように嘔吐反射を抑えるくらいの麻酔深度は必要である。

理想的な内視鏡時の鎮静とは?

患者に苦痛がない。
検査の妨げになるような体動がない。
低酸素血症にならない。
自発呼吸が保たれている。
覚醒が速やかである。検査後早く帰宅できる。
血行動態が安定している。
気道への介入が最小限である。
有害反射が抑制されている。
鎮静に伴う合併症が少ない。
などが挙げられる。

つまり、患者は不快な思いをしたという記憶がなく、内視鏡操作中にオエオエしたり、咳き込んだり、手足を動かしたりすることがなく、用手的な気道確保のみで、呼吸も循環も安全な範囲で管理され、許容できる軽微な合併症のみで重大な合併症は起きず、検査後早く日常生活に戻れるのがよい。しかも、幅広い患者に汎用性があり、麻酔管理を行う人によってばらつきが出ず、薬剤や医療材料が一般的なものだとなおよい。

手術の全身麻酔とは基本原則が異なる

プロポフォールは鎮静薬で、オピオイドは鎮静作用もあるものの、鎮痛薬に分類される。手術を全身麻酔で管理しているときに、侵害受容刺激が強まり鎮痛が不十分だと判断したら、鎮痛薬を増量する。具体的には、TIVAで全身麻酔をしていたら、レミフェンタニルを増量したり、他のオピオイドを追加投与したりする。

しかし、

陽圧換気が難しい胃カメラの鎮静中に、オピオイドを増量し、自発呼吸が抑制されすぎてしまうと、たちまち低酸素血症を起こすことになる。

なので、胃カメラの鎮静中に侵害受容刺激が強まり、血圧や脈拍数の増加、自発呼吸が増加、さらには体動が出たときに追加すべきなのは、フェンタニルではなく、プロポフォールの方がよい。

痛がっているのに、鎮痛薬ではなく鎮静薬を増やす。これは先ほどの全身麻酔とは別のアプローチになる。

具体的なプロポフォールとフェンタニルの投与量が載ってない問題

成書や文献を当たっても、投与量が幅で書いてあるだけで、実臨床でどのくらい投与すればいいのかは、なかなか探せない。フェンタニルを多くすれば、プロポフォールは少なくてもよいし、プロポフォールをたくさん用いれば、フェンタニルは投与しなくても体動を起こさずに胃カメラの鎮静を終えることもできなくはない。

麻酔科医以外がプロポフォールを用いて鎮静をする施設も増えてきたが、そのための投与方法のマニュアルを麻酔科医に作成依頼しても、麻酔科医自身が胃カメラの鎮静の経験がなく、どの程度プロポフォールを投与していいのかわからないこともある。それが日本の実情だ。

なので、筆者は、国外に出て、実際の臨床の現場で、自分が胃カメラの鎮静を担当しながら、学ぶ道を選んだ。今も年間1000件の胃カメラ大腸カメラの鎮静を担当し、日本の麻酔科医の中では圧倒的な経験値を積んだ。

この私の経験が、麻酔科学会のe-Learningの1講習よりも安く学べると考えると格安だ。あなたは、私が経験した小さな成功と大きな失敗をせずに、明日の患者の役に立てるのだから。

術前診察

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