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あなたも苦手?脊髄くも膜下麻酔 医療者向け

以下の文章は架空の著者という設定で書かれた、医療の内容を含む文章です。本文の内容を臨床応用する場合には、各医療者の判断と責任の下で行ってください。記載をしている本当の著者及び、その関連団体は一切の責任を負いません。ご理解の上、よくできたフィクションとしてお楽しみください。

私も苦手なんですルンバール

様々な神経ブロックや区域麻酔法が臨床応用され、いろいろな使い勝手のよい全身麻酔のための薬剤や気道確保器具が出てきた今でも、ほんの数mlの局所麻酔薬で、痛みもなく手術ができてしまうルンバールはすごい。

手技そのものはシンプルで、指導医のもとで麻酔科専攻医が初めて行ったときでも、さらっとできてしまうことも多い。

しかし、

100例、1,000例、10,000例とルンバールを行っていくと、うまくいかないことがある。

この記事を読んでいる医師にも、ルンバールがうまくいかなかった経験があるだろう。

  • 何度も刺しても、骨にあたってしまう。

  • 靭帯を貫く感覚はあるのに、脳脊髄液が返ってこない。

  • 浮腫や皮下脂肪で棘突起が全く触れない。

  • 下腿にしか麻酔が効いてない。

  • 手術に必要な麻酔高が得られない。

  • めっちゃ片側にしか効いてない。(硬膜下くも膜外麻酔になった?)

  • 穿刺中に電撃痛

  • ペンシルポイントのイントロデューサー針から透明な液体が、、、

  • ペンシルポイントでもPDPH

エピより、ブロックよりルンバールが苦手で
何かと言い訳を見つけて全麻を選ぶ
そんな麻酔科専攻医、あるいは専門医や指導医もいるのでは?

私は、日本では産科麻酔のある施設でしか働いたことがない。そして今も1日に20名以上の赤ちゃんが生まれる病院で働いている。硬膜外麻酔分娩や帝王切開の麻酔を担当し、10名の赤ちゃんの誕生に関わる日もある。

今、私ほど産科麻酔を行っている日本人の麻酔科医を私は知らない。私もルンバールに苦手意識を持っていたが、少しずつ改善を続け、ようやく手技が安定してきた。

ここでは、私の日常診療で注意しているコツを書く。
もしあなたが、ルンバールに苦手意識があったり、最近ルンバールがうまくいかなかった経験をしたりした場合には、きっと役に立つだろう。あるいは、ルンバールが苦手な専攻医にどのように教えたらいいのか困っている指導医にも役立つかもしれない。

帝王切開のための脊髄くも膜下麻酔のコツ

  • 穿刺時の体位作り
    再現性が高いのは坐位だ。世界的には坐位での穿刺が一般的である。しかし、右下側臥位でも刺せた方がいい。

    世界中の様々な産科医、麻酔医、手術看護師と仕事をしてきたが、予定の帝王切開のルンバールは坐位で行い、陣痛があり側臥位になりたい妊婦には右下側臥位で行うという麻酔科医が多い。

    私も以前は高度な肥満以外は、側臥位で行っていたが、現在は坐位で行うように変更した。

    側臥位は、臀部や骨盤の大きさ、脊椎のねじれなどで体位にばらつきが出やすく、上にしている肩が前に倒れすぎて、背中を丸めた時に背中が床と垂直にならないことも多い。

    体位にばらつきがあるということは、毎回微妙に違う手技をしていることになって手技が安定しない。

    一方、坐位は背中を丸めてもらうこと以外には、あまり指示をしなくて済むし、脊椎のねじれも起きにくく、正中もわかりやすい。

    私は、エピもルンバールも左下側臥位から教わった。しかし、左下側臥位でのルンバールは、高比重ブピバカインを使うとどうしても左側の方が麻酔が良く効く。ルンバール後の子宮の左方転移のためにベッドを左方に傾ける場合には、より麻酔が左側に偏ることになる。側臥位で穿刺する場合には、右下での側臥位の方が、麻酔の左右差を減らすという意味では理がある。

    もちろん産科麻酔以外の、下肢手術や、帯状疱疹後神経痛や肋骨骨折、胸腔ドレーンのある患者などを考えると、ルンバールもエピも、坐位でも右下側臥位でも左下側臥位でも刺せた方が良い。

    あなたが麻酔科医に成り立てだったら、まず坐位と右下側臥位での穿刺に慣れ、その後に左下側臥位でもできるようにしたら良いと思う。私のように、左下側臥位から研修を始めてしまうのは遠回りだ。

    坐位の体位作りのコツ

    ・手術台を平らにする。
    ・自分が実演して良い体位と悪い体位を見せる。
    ・ライトが、背中に斜めから当たらないようにする。(斜めから光が当たると筋肉や棘突起の盛り上がりの影で正中を誤認する。)
    ・背骨が捻れていないか確認する。
    ・左右に身体が傾いていないか確認する。
    ・背中を丸めるのに頑張らせない。(頑張って背中を丸めた状態だと、傍脊柱筋群が硬くなって棘間がわかりにくくなることがある。また、疲れてきて体位を維持できずに姿勢が変わってしまうことがある。)

  • 超音波を用いた穿刺位置の確認
    私はほぼ全例、超音波を用いて穿刺位置を確認している。プローべはコンベックスを使用している海外の論文が多いが、普通の体型のアジア人妊婦はリニアでよい。むしろリニアの方が、超音波ビームの方向を確認しやすいし、浅い組織の描出にも優れている。基本的にはリニアで、体格によってはコンベックスも用いている。水平断では、棘突起と横突起までが描出できれよいし、矢状断では椎体後面が描出されていれば十分な深さなので、コンベックスを使用するときも、Depthの設定やFocusの位置をなるべく浅めにする。
    妊婦の場合、視診や触診でヤコビー線がわかりににくいこともある。その時には、頭尾側にエコーの長軸を当て、仙骨から椎体を数えていく。L3/4での穿刺を第一選択にしている。もっとも、ヤコビー線でもエコーで仙骨から数えても、椎骨のレベルを数え間違えることがある。仙骨化腰椎や腰椎化仙骨の場合はなおのことである。このような場合もあるので、エコーで仙骨から数えてL3/4/5あたりで穿刺すると、S1/2やL1/2で穿刺してしまう可能性を下げられる。肋骨や横突起を数えて胸椎側から数える方法もあるが、胸椎化腰椎や腰椎化胸椎の場合もあれば、片側は肋骨だが、対側は横突起のみの人もいる。北陸地方に「あばらが一本足りない=おおらか」という方言があるそうだが、ルンバールの穿刺という面では、特殊な患者以外では厳密に椎骨のレベルを数える意義あまりない。椎体のレベル確認はあばらが一本足りないくらいおおらかでもよいことは、日常診療において、長らくヤコビー線から椎骨のレベルを確認してきた歴史が示している。

    超音波では、頭尾側方向にエコーを当て、棘間を確認し正中をまたぐように左右に1点ずつマークする。次に、水平方法にプローべを置いて棘突起がある位置を2椎体以上マークする。必要に応じて超音波の深さは適宜変更する。頭尾側方向の2点と水平方向の2点を結ぶ線が交わる点が穿刺位置になる。エコーで後部硬膜までの距離を計測することもできる。

    超音波で穿刺位置を確認すると、穿刺回数の減少に役立つという報告が多数ある。どんなにベテランの先生でも、たまにグサグサグサグサグサグサと穿刺して、なかなかルンバールが決まらないことを何度も目撃してきた。日本には2つ非常に強い麻酔科医局が君臨してきた。筆者はその両方の医局の先生方と一緒に仕事をしたことがある。大医局の百戦錬磨のベテラン麻酔科指導医でもなかなかルンバールが決まらない様子を何度も何度も目撃してきた。超音波での穿刺位置確認は慣れてくると2分ほどでできる。下記に紹介するハイブリッド法だと1分かからない。結果的にはペンシルポイント針とそのイントロデューサー針を何度も刺すよりもすんなりと穿刺が決まり、トータルで考えると短い時間で済む。まして、あなたが私のようにルンバールが苦手ならば、「そのうちどうにかなる」という穿刺方法から脱却しよう!

    ここから先は次の内容を書いていく。

  • 超音波での穿刺位置確認の問題

  • ハイブリッド法を用いた穿刺位置の確認

  • 局所浸潤麻酔

  • イントロデューサー針の穿刺

  • ペンシルポイント針の穿刺

  • 脳脊髄液の確認とくも膜下腔への薬剤投与

  • 硬膜外麻酔分娩からの帝王切開

  • 超音波での穿刺位置確認の問題 

超音波での穿刺位置を確認するときも注意すべきことがある。まずは、エコーゼリーだ。エコーゼリーによって超音波プローベが滑りやすいと画面を見るといった軽微な動作でもプローベが動いてしまう。


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