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シバラ問題 〜なぜ指導医のいうことはバラバラなのか〜

初期研修医や専攻医(まとめて研修医)をしていると様々な指導医の下で、仕事を学びながら覚えていく。指導医という資格を持っていなくても、便宜上、指導医と呼ばれている。症例によって、時期によっても指導医は変わる。

研修医時代の大きなストレスの一つに、指導医のいうことがバラバラであることが挙げられる。これを、「シバラ」といい、さらに派生語もある。これは、医師の仕事でなくても、指導者がつくような職場、学校、スポーツグラブなどでもみられる。

シバラ: 指導医毎にいうことがバラバラ
シバラの道: シバラが高頻度で起こる診療科で研修中
シバラ地獄: シバラで指導医に厳しい指導を受けまくる
シバラデプる: それで抑うつ状態になる

MT et alの研究によると、シバラは手技を伴う診療科で発生しやすく、特に指導医と研修医が1対1の状態になる麻酔科や外科系で起こりやすいという。

なぜシバラが発生するのか

シバラが発生しやすい状況は以下の通りだ。
・指導医側が研修を受けた流派がバラバラ
・手技がある診療科
・指導医の数が多い
・指導医間の関係が悪い
・指導医が処遇に不満をもっている
・確立された方法がない領域
・確率されたエビデンスがない領域
・研修医同士の関係が良くない

確立されたエビデンスがあるような領域だと、指導医毎に差がでずシバラにならない。しかし、医学的に論争中の領域や、そもそも論争にさえあがっていないような領域ではシバラがでる。左胃動脈を結紮するときに、必ず4回結ぶ外科医もいれば、3回結ぶ外科医もいる。このときに、4回結ぶ指導医の下で、外科研修医が3回しか結ばなければ、
指導医は「ん?」っとなる。

その指導医の過去の経験(成功や失敗)、体格、その指導医のトレーニング環境によってやり方が変わってくる。なので、シバラの方が自然なのだ。

指導医側の責任

指導医は研修医の監督義務がある。研修医の未熟さによって発生してしまうような医療事故や合併症は未然に防がなくてはならない。研修医が自分とは違うやり方や指導したやり方と違うことをした場合に、
「この研修医は、今後も自分の指導を無視するかもしれない。」
「指導を聞かない研修医かもしれない。」
と当然監督の目が厳しくなる。

また、研修医が自分のやり方でうまくいかない場合にも、そのやり方でおこるトラブルに対するトラブルシューティングもよくわかっているのだが、自分とは違うやり方によるトラブルには、状況の把握や対応に手間取ることがある。なので、指導医は基本的には自分がやっているやり方や思考過程を踏襲することを期待している。

指導医同士の関係も影響

もっとも、精神的に未熟な指導医というのは、自分が普段からよく思っていない別の指導医のやり方を研修医がしたときに、きつく当たることもある。特にその指導医の医療を信頼していないときは、
「そんなやり方、誰に教わったんだ怒」
といって、研修医越しにその指導医を批判する。

研修医側の心構え

まずシバラは起こり得るものだと知ることが大事だ。
そして、その日、その患者の指導医のやり方でやる。
つまり、5人の指導医がみな別のやり方をしていたら、その指導医に合わせて5通りのやり方でやる。そして少しずつ信頼を得ていくことが大切だ。そのために、研修医同士や少し先輩の医師に、指導医毎の手技や考え方の違い、指導医間の人間関係なども聞いておくとよい。

そして、5通りすべてのやり方ができるようになったのちに、指導医がつかなくなり独り立ちするときに、患者毎に適した選択をすればよい。

気をつけなければならないのは、「こわい」、「声のでかい」指導医のやり方のみを身に付けてしまうことである。その指導医のやり方が、自分や将来の患者に適しているのかは、研修医のときには判断できない。

経験上、指導医資格をもつ医師によって完全に意見が分かれるような事案は、その時点においての医学的な判断としては、どちらもまちがっていない可能性が高い。どちらか一方を信じすぎることなく、結論を出すのは保留にして、両方の意見を身に着けておくのがよい。そして、なぜ、考え方の違いがでているのか、その背景を学ぶといいだろう。

研修医にとって困るシバラは、医師としての将来を考えると、実はとても貴重だ。研修を進めていくうちに、シバラによって指導医から指導されていくことも次第に減っていってしまう。もし、今、シバラ地獄に陥っているあなたもシバラデプるにならないように、コーピングしてなんとかしのいでほしい。

きっとその経験がシバラパラダイスへとつながるから。



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