嘘吐き
くだらない嘘ばかりつく人だから今も私は。
「せかいいちおおきなおしろにすませてあげる」
と言っていた5歳のあなた。
15年後にふたりで借りた家は12畳のワンルームだった。
「石油王に私はなる!」
どこかで聞いたようなセリフを真似してよく言っていたけど、毎回外れる宝くじにいちいち大きなリアクションでまたなれなかったあ!って頭を抱えて笑っていた。宝くじで石油王にはなれないのに馬鹿だなあって。でもそこが好きだった。
「ずっと私が大事にする」
それだけは本当だった。
ねえ、どんな我儘も笑って「君の為だからね」と許してくれたからいつだって甘えてばかりいられたの。
小さい時からずっと当たり前のように私をそう生きさせておいてなんで今私はひとりなの。
「ダイエットしようかなって、最近歳かなあ太ってきてさ」
食欲がないだけだということに気付いた時には
「気圧の変化に弱くなっちゃってさあ」
ぜんぶぜんぶ嘘だとこの時にわかっていたなら
こんなにずっと、本当にずっと一緒だったから
あの時よりもずっと今の方がこんなに愛されていたと気付いてしまう
実家が大変で帰れないからと洗濯機に貼られた使い方のメモ。
2日経ってきた連絡は、"ごめんね、まだしばらく帰れそうにない"
しばらくって一体いつまでだろうと思ったのは随分前。
毎日私に何気ないメッセージを送ってくれていたけど、だんだんとそれは減っていった。
大変なのはあなた自身なんでしょと言いたかったけど言えなかった。
騙されたふりをしたのは早くに病院に連れていけなかった私の罪悪感と情けなさからだ。
現実を見るのが怖くて会いにも行けない。
こんなにもずっと、本当にずっと大切にしてもらっていたのに。
自分の愚かさと弱さに心底嫌気がさす。
弱った彼女が受け入れられないのではない。
そこまでになるまで私が何も出来なかったことを目のあたりにしてこの先まともに生きていける気がしなかった。
きっと仕事に行けなくなるし、ご飯も食べられなくなる。
彼女が帰ってこなくてもきっと元気に彼女が生きている、いつか帰って来て「えらかったね」と頭を撫でてくれる。そう思い込まなければ頑張れなかった。
本当にごめんなさい。こんなにも情けない私で。
愛に正解があるなら私はきっと不正解だろう。
他の誰も目に入らないくらい毎日あなたでいっぱいなのに、毎日会いたい気持ちばかり募っていくのに。
それと同じだけ受け入れたくない現実も募っていった。
このままではいけない。彼女に救われた分私だって___________
そう思い続けても何も出来なかった私の1日はまた夜に包まれて終わっていく。