キャリアわずか半年でVCT Championsの舞台へ挑戦するXdll「年齢で比較されない実力を示したい」
「年齢は意識します。『16歳だから』じゃなくて、どんな年齢の選手とでも比較されるくらいちゃんと実力があることを示したいんです」
力強い言葉で心持ちを語る青年は、ZETA DIVISION(以下、ZETA)に一時的に加入しているXdll(エックスディル)だ。
ZETAは日本代表として、8月31日からトルコ・イスタンブールで開幕する『VALORANT』競技シーンのシーズンを締めくくる国際大会「VALORANT Champions Tour(VCT) 2022 Champions」に出場する。今季ZETAのメインロスターとして活躍してきたTENNNが病気療養のため欠場する可能性が生じ、補強という形でSCARZから期限付きで移籍加入してきたのがXdllだ。
今や世界中から注目を集めるZETAへの加入発表はもちろん、16歳という若さも大いに注目を浴びるXdll。しかしわずか1年前、彼はプロを夢見るひとりの若者だった。
16歳で思いがけず開けたプロゲーマーへの道
Xdllがゲームに親しむようになったのは小学生の頃。父親が買ってくれたゲーム機で遊ぶようになり、カジュアルなゲームから徐々に対戦ゲームの魅力に惹かれていった。中学生になると『フォートナイト』に熱中するようになり、新たな環境を求めてPCでのプレイも始めた。
「でも、当時は全くプロゲーマーになるとかは考えていなかったですね。『フォートナイト』はあんまり強くなかったので」
当時をそう振り返って笑ったXdll。小学校は水泳、中学校では卓球とフィジカルスポーツにも挑戦したが、頂点を目指して情熱を注いではいなかった。だが友人に誘われて『VALORANT』を始めると、プロ選手の眩しさに魅了された。
「大会を見ていると『かっこいいな、自分もああなりたいな』と感じて、去年の後半くらいからプロゲーマーを目指すようになりました。周りの人も『お前ならプロになれるよ』と言ってくれていたんですけど、自分では本当にプロになれるのか不安でしたね」
そんな不安な「プロ志望」の生活はあっという間に終わりを迎えた。2022年シーズンの開幕を前にBLUE BEESが実施したトライアウトに合格したのだ。プロを目指すと心に決めてからわずか数ヶ月、本人ですら「すごく急でしたね」と驚くほど突然の出来事でXdllは晴れてプロになった。
だが、当初は競技シーンのレベルの高さに圧倒された。
「友達と大会に出たことは何度かあったんですが、その時は本当に遊びの延長みたいな感覚でした。競技の世界に飛び込んでみると周囲に全くついていけなかったんです。『こんなに差があるのか』と、正直自分の認識の甘さにがっくりしましたね」
プロの壁を感じたXdllだったが、それでも彼は挫折しなかった。「ゲームが好きだ」という気持ちと上達を実感できる喜びが、彼を練習へと駆り立てた。
「練習が嫌だとか辛いとか思ったことは全くないんです。自分の調子が悪いと落ち込むことはありますが、それもその日だけ。半年間プロを続けてきて上達している手応えはあるので、以前感じた差も埋まってきていると思います」
通信制高校に通いながらフルタイムでプロゲーマーとしての活動をこなすのは負担も大きいが、それでも「自分のやりたいことだから」と課題も練習も休まずこなしてきた。出席が必要な日と大会の日程が重なっていた時には、自ら学校へ直訴して出場にこぎつけたこともあった。
今では家族も熱心にサポートしてくれているが、プロを目指すと決めた直後は「両親は反対するかもしれない」と考え、プロ契約の寸前まで秘密にしていたという。
「契約書にサインをする段階で初めて『こういうことになったから』って話をしたんです。ちゃんとした書類があったのが良かったのか『すごいじゃん!』って、すぐに受け入れてもらえましたね」
どこかいたずらっぽく笑って話したXdllは今年12月で17歳。これと決めたら実行してみせる。"プロゲーマーXdll" 躍進の根底には、そんな意志の強さが垣間見える。
10秒で決断した期限付き移籍
2022年の国内公式大会「VCT Challengers Japan」をBLUE BEESの一員として戦い抜き、確かな爪痕を残したXdll。高いセンスと将来性、そしてチャレンジ精神が評価され、彼のもとにZETAから短期加入のオファーが届いた。
「対戦相手ながら言葉にならないくらい凄いチームだと思って見ていたので、話を聞いた時は本当に嬉しかったです。オファーを受け入れる決断まで、10秒もかかりませんでした」
既に実績あるチームに途中合流して1ヶ月ほどで世界大会に出場することが、どれほどハードルの高いチャレンジかは想像に難くない。それもXdllにとっては初めての世界大会で、オフライン会場での試合も初めてだ。だが、若武者はあくまで前向きなマインドを崩さない。
「大会が近づくと緊張もするんですが、ワクワクする気持ちの方が強いですね。『自分は勝てないんじゃないか』と思うほど強いチームと対戦するときも、むしろ『やってやる』って気持ちになって緊張しないんですよ。この大会でも、その状態になれば良いなって思います」
ZETAは8月頭からポーランドでブートキャンプを実施し、海外の強豪チームと練習を重ねている。憧れの存在でもあるZETAメンバーとの共闘にも少しずつ慣れ、日々の成長を実感しながら貴重な時間を過ごしている。
そんなXdllの趣味のひとつに野球観戦がある。尊敬する人物として、自分が生まれた頃から海外で活躍を続けてきたイチロー氏の名前を挙げ、その「プロフェッショナルとしての姿勢」に強い刺激を受けたという。遠くポーランドの地からも、地元・広島のプロ野球チームの試合結果は欠かさずチェックしている。
「(広島東洋)カープを応援するようになったのは中学生の頃からですね。初めて球場へ観戦に行ったら『すごいし、かっこいいな!』って思わず好きになって、それからずっとファンです。球場の雰囲気もすごいんですよ」
ただ、Xdllの思い出に残る「試合観戦」はカープの試合だけではない。今年6月にさいたまスーパーアリーナで開催された「2022 VCT Challengers Japan Stage2 Playoff Finals」は、プロとして忘れられない体験になった。
「現地で観戦したんですが、会場が暑くなるくらい観客の皆さんが盛り上がっていて、今でも印象に残っています。でも『自分がこの場に立っていたかもしれない。そのチャンスがあったんだ』と思うと、感動と同じくらいに悔しくて仕方なかったです」
新天地としてSCARZへの移籍も決まり、悔しさを晴らすためにも既に来季へと照準を向けるはずだったXdllに、思わぬ形でリベンジの機会が舞い込んできた。それも「Champions」という最高の舞台だ。
「出るからには全力で、1位を目指す気持ちです」
2月に初めてプロとして大会に出場してからたった半年、驚きのキャリアで世界最高峰の舞台に挑むXdll。がむしゃらにぶつかっていく覚悟は、すでに出来上がっている。
年齢を言い訳にしたくない
今のXdllには、どうしても「16歳」という年齢がついてまわる。実際にチームでの活動はどうしても年の離れたメンバー構成になりがちで、年齢が近ければ強く言い合えるような場面でも「強く言わないようにしてくれているのかも」と、気遣いを感じる瞬間もあった。
だからこそ「『まだ16歳だから仕方ない』と、年齢で許されるようなプレイはしたくない」と、Xdllは語気を強める。プロとしての覚悟とプライドは、その話しぶりや考え方からも伝わってくる。
「プロになってから自分は変わったと感じます。どんなプレーでも『考える』ことを意識していて、ゲームに対してもゲームの中でも考え方が変化しましたね。練習以外では、パフォーマンスが落ちるのが嫌なので2試合ほどプレイしたら必ず休憩を挟むことを大事にしています」
今回のZETA加入は限定的なものだが、来季以降もプロとして長いキャリアを歩んでいくことが期待されるXdll。その眼前には無限の可能性が広がっている。
「年齢によるパフォーマンスの限界にぶつからない限り、可能なら何年でも選手を続けたいと思っています。あと、配信も頑張りたいですね。あんまり喋るのは得意ではない方だと思うんですが、やっぱりゲームが好きなので」
彼を突き動かすのは、ゲームが、そして『VALORANT』が好きだという情熱だ。「こんなに夢中になれるものは今までなかった」と話すほどに、持てる限りの全力で『VALORANT』に向き合っている。
「VCT 2022 Champions」の全出場選手中で最年少。
プロとして共にキャリアを積んできたメンバーについて語る際は「皆優しくて、面倒を見てくれるお兄ちゃんみたいな感じ」と、少しだけ16歳らしい一面も覗かせた「最強の末っ子」が、世界の舞台へと挑む。
(取材・文 ハル飯田)
ZETA DIVISIONが日本代表として出場する公式国際大会「VALORANT Champions Tour 2022 Champions」は、8月31日(日本時間)からTwitchとYouTubeにて配信予定。