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非日常的表現 #2

今の季節になると必ず、テレビやラジオの天気予報や交通情報で聞くフレーズ。
「夕方から深夜にかけて都心部でも大雪が予想されます。トラックなど立往生する恐れがありますのでご注意ください。」
これを聞く度に「ん!?」って思うのである。

京都五条大橋の上で牛若丸と呼ばれていた若き源義経と戦ったあの巨漢で怪力の武蔵坊弁慶。以来、義経の最も信頼する部下となった弁慶。彼に由来する言葉や逸話は沢山あって、例えば、さすがの弁慶でも打たれれば涙を流すということから向う脛のことを「弁慶の泣き所」と呼んだり、歌舞伎の演目としても有名な「勧進帳」では、義経と共に東北に逃れる途中で関守に通行を許可してもらうため、持っていたタダの巻物をさも勧進帳のようにスラスラと読み上げ、通行を許可された(後世では、関守は実はニセの勧進帳だと判りつつも忠義に厚く堂々とした弁慶の立ち振る舞いに心を打たれ通行を許可したということになった)ことや、弁慶の最期の死に様を表わした「立往生」などである。

立往生とは弁慶が多数の敵から主君を守るため、自ら義経の矢面に立ち盾となったため、無数の矢に射抜かれ仁王立ちのまま絶命した、という逸話から生まれた言葉である。いくら長刀を杖にして立っていたとしても息絶えた瞬間に体の力は抜けるはずなので間違いなく後世の作り話ではあるが、弁慶の忠誠心を表わす最も有名な話である。

高速道路などで夏用タイヤを履いていて、坂を登れなくなったトラックは明らかに運転手の不注意である。スタッドレスを履いていたり、チェーンを巻いていたとしてもスタックしたトラックは立ってはいない。にも拘わらず「立往生」と表現するのは弁慶に対してあまりにも失礼だと思うのである。



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