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第9話 寝ない子誰だ?

最近私は悩んでいる。

今も藤佳と布団の上でにらめっこの真っ最中だ。

「結局寝ないでここまできちゃったけど……どうするのっ!?」

以前の藤佳はどんなに長くても4時間ぐらい起きていると最低30分の昼寝をしていた。

ところが、1歳の誕生日を迎えた頃から急に昼寝をしなくなってしまったのだ。

藤佳の昼寝時間は私が唯一ゆっくり過ごせる自分の時間。

撮り溜めたドラマに録画したお笑い番組、それからケータイに昼寝。

この幸せのひと時が無くなるのは耐え難い。

「はぁ〜、藤佳。眠くないの?」

私と藤佳のやり取りを聞き、ソファでテレビを見ていたルソ夫が何となしに私の顔を確認する。

そして視線をテレビに戻した。
と思ったら、また私の顔を見た。

「どうしたん。なんか今日いつもより老けてるで」

「老けてる!?」

私の体に稲妻が走る。

すぐに分かった。
これは怒りの稲妻だ。

「なんで『疲れた顔してるね』とかオブラートに包んで言えないの!?」

老けてるなんて言われて驚き、つい大きな声を出してしまう。

ルソ夫もびっくりした様子でこっちをじっと見ながら固まっていた。

「な、なんかごめんな。言葉選び間違えたわ」

「……分かったから。もういいよ」

おそらくルソ夫には私が機嫌を斜めにしてしまったように見えているだろう。

そんな態度をとる一方で、私の心の中には既にもう怒った感情はなかった。

ルソ夫が謝った!
その気になればちゃんと謝れる子だったのか。

心の中はそんな驚きでいっぱいだった。

そうこう考えていると、ルソ夫は申し訳なさそうに話し出した。

「で、なんか困ってるん?」

「『で』じゃないよー。最近藤佳が昼寝してくれなくってさ」

「それで?」

「私も休憩できないの〜」

「寝えへんのかいな」

「うん」

「睡眠は個人差大きいからな。寝起き1つとっても良い悪いあるやろ?」

「大人だってそうだもんね」

「そう。だから困ったことに、寝えへん子は全然寝えへんねんなぁ。それにしても何でそんなに休憩したいねんな?」

毎日ゴロゴロしてテレビを見てるだけの人に言われたくはない。

「当然でしょ?私は昼寝がしたいの。夜だって1回夜泣きされると1,2時間とか時間取られるんだからね。そこから睡眠不足になってずーっと引きずるんだから」

「そうやなぁ。昼寝せえへん、夜泣きが辛い。睡眠問題は山積みやな」

「まったくよ」

「でもな、昼寝は簡単や。体動かして疲れさせたらコロッと寝るからな。どうや?最近何して遊ぶん?」

「ああー。確かに最近は公園でも砂場ばっかりやってて、あんまり動いてないかも」

「ボール遊びなんかオススメやで」

「なんで?」

「ボールは一生懸命追いかけてくれるからな。走るのに持ってこいやで」

「そっか。じゃあ明日はボール持って公園に行ってみるよ」

「あとは…」

「夜泣きの方は?」

「あぁ。夜泣きはなぁ、ちょっと難しいからなぁ。まぁ簡単に言うたら、パニックになって訳分からんなって泣いてる思うとええで」

「あっ!それ感じた事ある!何話しかけてもダメだもんね」

「話しても聞いてないどころか、話しかけてるのがアンタやっていうのも気付いてないこともあるで」

「あのいつもと違う泣き声が耐えられないんだよね」

「そう!だから夜泣きは1回起こしてしまうんが1番や」

「いやいや、全然起きないからこっちは困ってるんでしょう」

「なんや偉そうやな……1回電気をつけて完全に起こしてしまうとか、そのぐらいせな起きひんで」

「そこまでやって、その後寝るの?」

「寝る」

「うそー?」

「あとはなぁ……ほんまはアンタの主人が協力してくれたらええねんけどなぁ」

それは多分無理だと思う。
でも話だけは聞いておこう。

そのうち手伝ってくれることを願って。

「うん……それは期待できないけど、一応その話も聞いておくよ」

「よっしゃ。『じゃあお父さんと寝ようか?』言うて1回抱き上げてもらうねん。ほんならどうなると思う?」

「寝る時は私じゃないとダメだから、大泣きするよね」

「そう。その後に『じゃあお母さんと寝ようか』言うてアンタが抱いたるねん。これでほぼ100%泣き止むな」

「なんで?」

「母親の再認識や」

なんだそれ。

と答えると話が長くなりそうだったので、流して聞いておく。

「ふーん、なるほどねぇ」

「とにかく環境を変えながら起こして、泣き止ませてみるんやな。まぁ次夜泣きがあったらやってみ」

ルソ夫は自信に溢れているが、そんなに簡単にできるのだろうか?

「なんか子どもの睡眠って不思議だよね。」

「そうやな、お母さんのお腹の中に戻ったような感覚なんかなぁ?」

「そう言えばルソ夫っていつもゴロゴロしてるけど、寝てるところって見たことないね。いつ寝てるの?」

「いつもゴロゴロって……まぁええわ。妖精さんって寝んでええねん。絵本でもなんでもええけど、妖精さんが寝てるところって見たことないやろ?」

「確かにないかも」

「絵本って意外とそういうしきたりみたいなんがちゃんと守られてることが多いねんな」

「伝説の生き物の生態なんてしきたりって言わないよ」

「誰が伝説やねん。目の前におるやないかい」

「あなたみたいな変なのが妖精であってたまるか!」

「おっ、やるんか?全面戦争やで?」

「今日の夕飯が終わったらデザート用意してたんだけどなぁ。いらないか!」

「いや、たぶんワシが悪かったと思うわ。すまんな」

「なんだ!ちゃんと謝れるんじゃない!」

「そらワシだって悪いと思た時はちゃんとするわ」

「よしよし。でもデザートの話はウソなの。ごめんね」

「やっぱり全面戦争や!!!」


12.日中は運動させる
13.夜泣きは1度起こしてみる

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