第19話 お片付けの魔法
「この部屋やんとかならんのかいな?」
「何とかって?」
「そ・う・じ!掃除や!」
「え?」
自分で言うのもなんだが、私はキレイ好きな方だ。
なんだったらいつも散らかすのはルソ夫のほうで、私はそれを片付けてしている側だ。
「あなたに言われたくないけど、私いつもやってるよ?」
「そう言うと思ったわ」
そう言ってキッチン横のパントリーを開ける。
「これどうやねん」
「ぐぬぬ」
「この部屋も見た目はすごーくキレイやねんけどなぁ。こういうところから心の隙が垣間見えるねんなー」
「そんなこと言うなら、さっきのアイスのゴミをまず捨ててよ」
「ワシはええねん。可愛い妖精さんやから」
「んなわけないでしょー!!」
ダメだこりゃ。
*
藤佳は最近自己主張が出てきた。
遊んでいても自分のやりたい事が思ったようにできないと、おもちゃを投げたり床に叩きつけたりして大声をあげる。
この前は児童館でもミニカーが自分の思った方向に進まず、そんな事をして周りのお母さんたちから注目されてしまった。
階段に向かっておもちゃを投げるのも相変わらずだが、それ以外にも物を投げる場面がすごく増えてきた。
「ねぇルソ夫、どうしたらおもちゃとか投げなくなるのかな?」
「おっ!ええ質問やな。自分から聞いてくるのはええことやで」
普段あれだけ食べ物は無くなるし、面倒を見ているのだから、こんな時こそルソ夫を有効活用しなくてはいけないと思う。
「ほんなら、有難い教えを授けよう」
「はい」
「投げるのはええ事や。ようさん投げたらええ」
「いや、だから…」
全然質問の答えになってない。
ふざけているのかと思い、ちょっと強めに聞いてみた。
「真面目に聞いてるの!ちゃんと答えてくれる?」
「真剣やで?それが遊びやからええねん」
「それじゃあダメです。困ってるんです」
「ついこの前教えたやろ?願いを叶えようとしたったええねん。自分の中で投げてもええ物ってなんや?」
「んー、ボールかな?」
「ほんならボール買うてきたらええんやないか?」
「あぁ〜」
思わず手をポンと叩いた。
そういえば以前頂いた軽いボールが押入れに眠っているので、それを出してくる。
案の定藤佳はボールに夢中になった。
ボールを入れていた箱はあっという間に空になる。
とってもよく集中している。
私は急いで散らばったボールをかき集め藤佳に声をかける。
「ほら、どうぞ!もう一回やっていいよ」
藤佳も大喜びだ。
家の中でこんなにもキャッキャ言いながら遊ぶ姿は久しぶりで、私も思わず嬉しくなる。
「自分それいつまで続けるねん。」
「え?」
私は耳を疑った。
「いつまでって、藤佳がやりたいだけやらせてあげようと…」
「ほんまにそれでええねんな?」
「遊んであげるのダメなの?」
「あんたぐうたらしたいんちゃうんか?」
「そりゃあそうだけど」
「ほんなら、自分で片付けしてもらったらええんちゃうか?」
なーるほど!いや、そんな事が果たしてできるようになるのか?
「できる?」
「じゃあ全部のボールを投げ終わった後に、『ないない』とか『ないないするよー』って言いながら一緒に片付けしてみ?」
「それでできるようになる?」
「そりゃあ覚えるのが早い子はすぐにやるし、そうじゃなくても毎日やればできるようになるで」
「藤佳はどっちかなぁ?」
「それはやってみてやな」
「投げて終わりじゃなくて、片付けするのも遊びになるから繰り返し遊べるようになるし、ボール踏んで転ぶ危険も減るってわけや。一石二鳥やろ?」
「1人でずっと遊んでくれる。片付けも自分でやってくれる。それなら私も一石二鳥ですね。」
「ただし、片付けを教えるときはめっちゃ楽しそうにやるんやで?これも遊んでるんやと思ってもらうねん」
「ほうほう」
「まぁ完璧な片付けは無理やと思うけど、少しぐらいならできるわ。」
「よし藤佳!ないないするよ!」
「なーいない。がんばれ。なーいない。がんばれ」
「あっ!こら!ぽいじゃない。ちがーう。そっちじゃなーい」
「あっはっは!!これは藤佳ちゃんちょっと時間がかかりそうやな。根気よく続けるんやで」
「ひぇ〜。」
28.片付けは一緒に楽しそうにやる。
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