第6話 いちごが美味しい結婚式
いとこの結婚式も昨日無事に終わった。
藤佳は披露宴の途中にベビーカーで昼寝したこともあって、終始機嫌良く参加できた。
最後に出てきたケーキのいちごをみんなから寄付してもらい、山積みになったそれを嬉しそうにパクパク食べていた。
いちごは特別好きみたいだ。
それにみんなから「可愛い可愛い」言ってもらって、かなりご満悦のようだった。
結婚式の2次会もなかなか楽しかったらしいが、藤佳を長い時間連れ回すわけには行かないので、披露宴が終わるとすぐに帰って休んだ。
何事もなく参加できて本当に良かったと安心する。
というわけで、今日は11時の新幹線に乗って東京へと戻る。
さて、問題は帰りの新幹線。
まだ私にはこの大きなミッションが残されているのだ。
行きはご飯を食べてから何とか寝てくれた藤佳だが、帰りも同じように…とはいかないだろう。
行きと違って主人も一緒だが、過度な期待はできない。
*
新幹線に乗り込むと、行きと同じように藤佳だけ先に昼食にした。
藤佳さえ寝てくれたら私たちは優雅なランチタイムを過ごせる。
相変わらず食べている最中はとっても静かで、騒ぎ出した時のイライラなんて嘘のように可愛く感じる。
家の食事みたいにゆっくり食べてくれると助かるが、ベビーフードはなぜかいつもよりペースが早くなる。
「よく食べるねー」
隣で藤佳の食べる姿を見ていた主人も思わず口にした。
「そうだねぇ」
まさか、私の料理より美味しい?
違う違う、きっと味付けが濃いんだな。
いつもと違う環境で食べるご飯が楽しいのか?
それはあるかも。
いや、そもそも外では全部私が食べさせてるから早いのか!
気休めかもしれないが、ちゃんとした理由が見つかって良かった。
*
ご飯を食べ終えた藤佳は、また行きと同じようにウトウトし始めた。
ラッキー!
まぶたが重ーくなってくる。
隣の主人にも今は音を立てるなと言わんばかりに目で合図を送る。
この調子。あと少しで寝そうだ!
けど、人生そう上手くいかない。
「おえっしょん!!!」
こんな時に限っておじさんがふざけたくしゃみをする。
私たちの前に座っているおじさんだ。
「うぎゃあーーー!」
恐れていた事態になってしまった。
こんな時に限って….…
背もたれで見えないおじさんを心の中で睨みながらも、諦めて藤佳を泣き止ますことに専念する。
ウトウト中に大きな音を聞くとびっくりしてしまうのはよくあることだ。
家だと私のくしゃみでいつも泣いている。
膝に乗せて抱っこしたり揺すったりしてみるが、一向に泣き止む気配はない。
周りからの視線に耐えられず、主人に一声かけてから藤佳を抱いてデッキに移動する。
ちなみに、移動しながらくしゃみの主を見るとおばさんだった。
デッキに出ても藤佳は泣き続けた。
デッキをウロウロ歩き回ったり外を眺めさせたりしてみるがダメだ。
「最終手段!」とポケットに手を入れる。
じゃじゃーん!
スマホを見せて落ち着かせることにした。
画面をつけて渡すだけで一瞬にして泣き止む。
「なんでこんな簡単に泣き止むのよ。そりゃスマホ育児もみんなやるよね」
「なんや?アンタにしては珍しいな」
スマホを覗き込むようにしてルソ夫が現れた。
「急に出てこないでよ」
「え?なんやって?声が小っちゃくて聞こえへん」
「電車の中なのにいつもみたいに話せるわけないでしょ?」
「はいはい、ごめんごめん」
悪いと思っていないなら謝らなくていい。
「本当はダメだよね」
「なにが?」
「これ、スマホ」
「あぁ。別に使い方だけ気い付けたらええんちゃうか?」
ルソ夫から返ってきたのは予想してもいなかった答えだった。
「もうこの時代、スマホとかタブレットとかパソコンとか必須やろ?」
「それはそうだと思うけど。1歳児でもオッケーなの?」
「だから3つだけ。”距離と内容と時間”に注意するんやな」
「ほう」
「距離は目と画面の距離や。大人でも集中してるととんでもない近さで画面見とるで。スマホは渡したら目が近なるから、アンタが持って見せるんやな」
「ふんふん。なるほど。」
「時間は分かるやろ?長くても30分〜1時間ぐらいに抑えるのが理想や」
「そうだよね〜」
「最後の内容が1番大事や。YouTubeでムカキンとか見せてもしゃあないやろ。デズニー系とかオススメやな」
「デズニー?なんで?」
「話したら長くなるからまた今度やな」
「そう言えば、私も子どもの頃そういうのは見せてもらってたな」
「ええお父さんお母さんやった言うことやな?」
「まぁ感謝はしてるけど……」
「でも今は違法アップロードされてるものもいっぱいあるからな。アカンで。ちゃんと正規の手続きを通して見るんや。ワシ今ええ事言うたで」
「はーい」
「分かったら気い付けて使うんやで」
「『スマホなんて絶対ダメやろ』とか言われると思ってたからなんか意外だったよ」
「今はネットリテラシーも身に付けなあかんし、小さい頃からパソコンとかスマホの正しい使い方を教えていくことも大切なんかもな」
「ネットリラ……うん?まぁルールは守って使うようにするね」
「バンっ!!」
「え?」
驚いて音が聞こえた床を見ると私のスマホがあった。
ルソ夫と話しているうちに藤佳の手から落ちたようだ。
「きゃーー落としたー」
「あー、渡したらアカンって今言うたばっかりやんか」
「藤佳ぁ〜」
ルソ夫が藤佳の顔を覗き込む。
「あ!寝てるわ。静かに静かに」
「えぇ!?」
「なんや良かったやないか。このまま品川駅まで寝てくれたらええな」
「なんか思ってた感じと違うなぁ……」
「ええやんか。寝てくれたんやから結果オーライや」
8.スマホはルールを決めて使う
頂きましたサポートは事業の運営に使わせていただきます。