第14話 ゆらゆらしているお母さん
我が家のリビングにはコンビカーが置いている。
パンがモチーフの国民的アニメ、あんまんマンのコンビカーだ。
藤佳が乗って一生懸命漕ごうとするのだが、後ろに下がることしかできないのがとっても可愛い。
見ていて飽きない楽しさだ。
そんな事もあって、少し前から背もたれを持って手押し車にして遊ぶ姿もでてきた。
結構軽いので藤佳でも少しぐらいなら持ち上げられる。
手押し車にしながらガンガン床に叩きつけるおかげで、リビングの床はあちらこちらでデコボコだ。
でも夕飯作りが忙しい私は床にガンガンやっていようが何をしていようが、1人で遊んでくれているだけでありがたい。
*
ふと気付くとやけに静かになっている。
こういうのは大抵いたずらをしている時だ。
「藤佳。何してるの?」
そう言った瞬間だった。
「わぁー!藤佳ぁー!」
急いで駆け寄って藤佳を抱き抱える。
「あっぶなーい!!」
ケガしなくて本当に良かった。
藤佳はコンビカーの上に立ち上がっていた。
「ひやっとさせないでよ」
私の気持ちとは裏腹に藤佳はケラケラと笑っている。
「そうか、立ちたいんだね?じゃあお母さんが押さえてるから乗ってもいいよ」
そう言うと私はコンビカーが動かないようにしっかりと持った。
藤佳は背もたれを手すりにしてあっという間に立ち上がる。
階段とは違って膝をつけずに上ることができるらしい。
バランスを崩さずに片足を大きくあげられるようになっていた事には驚きだ。
藤佳はよほど嬉しかったのか、上ったり下りたり何度も繰り返して遊んでいた。
*
チラッと時計を見ると、コンビカーを抑えてから5分も経っていた。
「あっ。火止めなきゃ」
そう思った私は急いでキッチンの方に走っていった。
ところが、藤佳は私がいなくなったのにコンビカーの上に立とうとする。
「危ないってば。もうおしまいね」
そう言って上に立つのを止めるが、私の手を振り払って上ろうとする。
ちょっと強く言ってみる。
「危ないってば。おしまい」
「ギャーー!」
ひっくり返って泣く藤佳。
キッチンからは「ジュー」という吹きこぼれた音も聞こえてくる。
「あぁーもうダメー!ルソ夫!ルソ夫!!」
私が必死に呼ぶと、珍しく隣の部屋から走って来てくれた。
「どうしてんな?」
「藤佳がここに乗るんだけど私がいないから危なくてやめてって言うのに全然聞かないからどうしようってなっててだけど火が消せなくて…」
「ちょっと待て待て!落ち着くんや」
「あぁーだからぁー」
「ひとまず火止めたらええねんな?」
「そうそうそう!」
ルソ夫はすぐにキッチンへ走って向かった。
「まったく、ワシお手伝いさんちゃうで」
*
「ごめんごめん。助かったよ〜」
「ほんまにワシおらんなったらどうすんねん」
「えへへ〜」
「何であんな事になってんな?」
「それは色々な事があったんですよ〜」
「順番に聞いていこか」
「えーっとね、まず私が料理してたら藤佳がコンビカーの上に立ってたの。で、しばらく肉を煮込んでる時間があったから、そこでコンビカーを押さえてあげてたの」
「安全に上れるように?」
「そう!それで火を止める時間になったんだけど、上るのが終わりにできなくて離れられなくなった結果あんな感じになっちゃった」
「上に立ちたい藤佳ちゃんの気持ちを優先させたってんな?」
「うん!」
「えらいっ!!」
「そんな。親として当然の事をしただけなのに!」
「でもな、今回は失敗や」
「え?なんでよ?」
「アンタがやった事はこういう事やな?『私が横におったら上ってもええよ。おらん時はあかんよ』と」
「そうだけど」
「これは藤佳ちゃんには…」
「難しいよね?やっぱりそうかぁ」
「せやな。藤佳ちゃんからしたら、やっていい時とアカン時の区別が分からへんからな」
「私がいる時だけ、なんて分からないか」
「いつでも上ってオッケーにするか、何時たりとも上ってはいけないか。どっちかに統一した方がええな」
「いつでも上ってオッケーはケガするでしょ」
「せやから、この場合は何時たりとも上って遊ぶのは禁止や」
「そりゃそうよね」
「あとはアンタの中で統一しとっても、夫婦で統一されてないとまた同じ事になるからな」
「うちの旦那、すぐに藤佳のこと甘やかして何でも言う事聞いちゃうんだから。この前なんか藤佳に『ちょうだい』されて、アイスキャンディペロペロ舐めさせてたからね?」
「まぁそう言うのは夫婦で話してくれ」
「まったく。帰ったらちゃんと言い聞かせてやる!」
「ケンカはやめてな。ワシ溶けたくないで。巻き込まれるのはゴメンやからな」
「だーいじょうぶ大丈夫!心配しないで」
「ほんまかいな。心臓ドキドキするわ」
21.遊び方は常にオッケーか、常に禁止かで統一する
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