第11話 イライラする日
ルソ夫が戸棚で生活するのが、とうとう我慢できなくなってきた。
ということで、ついにキッチン掃除を決行する。
藤佳は長時間放置できないので、悪いが掃除が終わるまではおんぶ紐で過ごしてもらおう。
まずはルソ夫の住み着いた吊り戸棚のドアを開ける。
「わぁ!何やねん」
私が無言で布団?を取り出すと、その上に座っていたルソ夫はクルンと一回転し、私の肩にぶつかってから床に転がった。
「うげ!」
すかさず私はデイソンのコードレス掃除機で棚を掃除していく。
「ちょっと!やめや!やめ!」
「……」
「アンタ何すんねん!お菓子隠す次はなんや!」
私からは何も話さずに作業を続ける。
「アンタとうとう頭おかしなったんやな!?ええわ、真っ向から勝負したる!」
「うるさーい!!」
今まで溜まっていた怒りを全部解き放ってやった。
「あっ。ちょっと。自分。あのな……まぁ待てってー」
*
ここぞとばかり思い切って綺麗に片付けてやる。
「分かった分かった。悪かったって」
「分かったならキッチンから出て行きなさい」
今日はルソ夫なんかに負けない。そう自分に言い聞かせた。
「引っ越すから許してくれ」
「何が??」
「もうキッチンでは寝泊りしません」
「じゃあ……いいでしょう」
やった!勝った。今日は私の勝ちだ。
「じゃあ今日からはここ」
「えー、ベビーベッド!?」
そう。こことは藤佳がつかまり立ちを始めるまで寝ていたベッドだ。
今はただの荷物置きになっていたが、ここに来て役に立つとは思わなかった。
「赤ちゃん扱いせんといてほしいなぁ」
「赤ちゃんで合ってるでしょ?」
「うーん……じゃあその代わり静かにしてな」
そう話すとルソ夫はベビーベッドに横になって、何語か分からない絵本を読み始めた。
こんな風にいつも過ごしていたのか。
*
この一件でスイッチが入った私は、次々と家事をこなしていく。
掃除に洗濯に食事のストック作りまで、あっという間に終わらせていった。
「はい。藤佳もオムツ履くよ。はい、やる!」
育児もキビキビだ。
「アンタな?」
急にルソ夫が起き上がって私に話しかけてくる。
「なに?」
「えらい意気込んどるなぁ。今日はスマイルがあらへんで。スマイルが」
「こんな日があってもいいでしょ?」
「まぁそう怒らんと。藤佳ちゃんには笑顔で!なっ!?」
「もー!静かにそこにいてよ」
さっきの件もあって、いちいち声をかけられるのがイラッとくる。
「藤佳ちゃんはロボットちゃうねん。人間ってのは笑顔でこそ愛情が伝わるねん」
「それで?」
「コミュニケーションあっての子育てや。作業ちゃうからな。だから1番大事なんはここ。相手を思う気持ちや」
そう話しながらルソ夫は自分の胸を思い切り叩いた。
「そんないっつも頑張らんでええねんて。そろそろ終わりにして、肩の力抜いて気楽に藤佳と遊んでみいな」
「え〜」
「一緒におることを楽しむんや。ほんなら自然と笑顔になるやろ?」
「藤佳ちゃんに笑顔で『あなたの事が好きですよー』って伝えるんや」
「なんか恥ずかしいよ」
「まずは肩の力を抜くところからやな。
はい!リラックスして〜」
ルソ夫が後ろから私の肩を前後に揺らす。
「そんな一生懸命やなくてええねん。適度に適度に」
なんだかルソ夫がいい奴に思えてきてしまった。
私はさっきの掃除が申し訳なくなってきた。
今度アイスでも買ってきてあげるか。
なんだか優しい私になれた気がした。
17. 頑張り過ぎず、いつも笑顔で接する
頂きましたサポートは事業の運営に使わせていただきます。