第3話 洗濯の途中で邪魔するな!
「ちょっとこっち来てくれるかー?」
リビングからルソ夫の声が聞こえてくる。
「ちょっと待っててー」
こっちは洗濯物を畳み始めたばっかりで忙しいのだ。
それなのにルソ夫がリビングで騒ぎ立てる。
「あかんあかん今やないと!ワシ急いでんねん」
「もぉー、何なのよ」
毎日をダラダラと暇そうに過ごすルソ夫からは急いでいる姿なんて考えられない。
それでも仕方なく洗濯物を畳む手を止め、リビングへ向かう。
「洗濯畳んでたのにー!なに?どうした?」
リビングではルソ夫がソファで横になってテレビを見ている。
案の定、急いでいる様子は全くない。
ルソ夫は私の姿を見ると体を起こし、ソファに座った。
「待っとったで。どうや?ワシが来て1週間たったけど、なんか変わってきたか?」
「何でそんな事今聞くのよ!?」
「今どうしても気になってしもてなぁ」
「はぁ」
まともに信じて来た私がいけなかった。
だけどせっかく手を止めてリビングまできたので、仕方なく話を続ける。
「でもねー、なんか藤佳のことを可愛いって思う気持ちが強くなったかも?」
「ふふん」
俺のおかげだと言わんばかりに嬉しそうに鼻を鳴らす。
「ええ事やな。ワシの言うことちゃんと続けるんやで」
「ずいぶん上から目線だけどね」
時々でいいからこうやって褒めてもらえると、それだけでグンとやる気がアップする。
「子育てが身に付いてる感はかなりあるよね」
「ええことや。どんどん勉強するんやで」
「うん!それで次はどんな事を教えてくれるの?」
「……」
「で、どうしたらいいの?」
「……あのな?教えるのはタダやないんやで?」
「え?お金とるの!?」
「別にお金が欲しいわけやあらへん。でも、もう無料のお試しキャンペーン期間は終了や」
「お金じゃなかったら何?」
「そんな深く考えんでええねんで。ちょっと腹が減ってもうただけやから」
「キャンペーン終了ってそれいま気分で決めたでしょ。というか、この前私のチョコノパイ食べたな?」
「し、知らんな。藤佳ちゃんが食べたんとちゃうか?」
「んなわけあるか!!」
子どもの事をよく知ってるくせによくもテキトーな事を言うもんだ。
「お腹空いてるなら藤佳のフォローアップミルクでも飲んでなよ」
「いや、そない赤ん坊みたいなもんはワシ好きやないねん。ちょっと冷蔵庫の中見せてくれるか?」
そう言うと人の家の冷蔵庫を躊躇なく手をかける。
見た目は子ども、知識は大人。
でも礼儀がないのはやっぱり子どもだ。
1番下の段は冷凍庫になっていて、身長の低いルソ夫でも簡単に開けられた。
「これなにー?」
そう言いながらガサガサと取り出してきたのは、私が大事に取っておいたハーゲンダッチュのカップだ。
「これ?アイスだけど」
「ええやん。なんかこれ美味しそうやな。ええわー。一口でええから食べてみたいわ」
「い、いいよ」
「あれ?自分えらい不服そうやけどどうしたん。もろてええんやな?」
「どうぞ…」
私が答えるとすぐに引き出しからスプーンを取ってくる。
「なんでスプーンの場所知ってんのよ」
きっとあちこちの戸棚を漁っていた時に見たのを覚えていたのだろう。
ルソ夫は私の言葉を無視してフタを開け、まずは一口食べてみる。
「何やこれ。頬っぺた落ちる旨さやで」
「なんか古い表現だね?久しぶりにそんなの聞いたよ」
そのまま残りを一気に頬張ったかと思うと、ものの十数秒で全部食べてしまった。
「最高やな」
「そりゃお高いですもの」
「ええやん。ごっつい色んなこと教えたるわ」
気分でコロコロ変わるなんてずいぶんと都合のいい妖精だ。
「それで次は何をしたらいいの?」
「そうやな。この子のオムツ替えたるんやな」
「え?それだけ?」
「そうや」
詐欺だ。私はそう思った。
「酷くない?そんなの毎日してますけど」
さすがに私もムッとして食ってかかる。
それに対してルソ夫は冷静に話し続ける。
「今も濡れてるで。オムツの放置も悪いぐうたらや」
また出た決まり文句。
「濡れたオムツってめちゃめちゃ気持ち悪いねんで。特に冬は体も冷えるしなぁ」
「分かったよ。でも聞いて?藤佳はオムツ替えが嫌いみたいで、替えようとするとよく泣いて怒るの。だからついつい『あとで』って思っちゃって…」
「それ、遊んでる途中にオムツ替えようとするからちゃうか?邪魔されて怒ってるんやろ?」
「遊んでる途中?」
「アンタかてさっき洗濯物畳んでる途中で呼ばれて『ちょっとぉ』言うてプリプリ怒ってたやないかい。一緒や」
「バカにしてるでしょ?」
「してないっ!!」
ニヤニヤすんな。
「おもちゃ手放すまでちゃんと待たなあかんで」
「そしたら遊びは終わりなの?」
今考えてみたが、藤佳が普段遊んでいる様子をそこまでよく見たことはない。
だからおもちゃをどうしてるとかまではよく分からない。
「次から遊ぶ姿よう見とってみい。興味がなくなった途端に腕プラーンとしておもちゃ落とすから」
「その瞬間を狙ってオムツ替えとかご飯とか、やりたい事に誘えばいいのね?」
「そうや。遊んでるのに空気読まんと連れて行かれたら怒るやろ?」
「……もしかしてだけど、それ言うために洗濯畳む中わざわざ呼んだの?」
「そんなわけあるかいな。あっ!はよ料理始めな夕食遅なるで!ワシも忙しいからまたな!」
そう言うとルソ夫はリビングを飛び出してどこかへ行ってしまった。
「あっ、こら!ごまかさないで!!」
3.子どもの遊びを壊さない
4.オムツはこまめに見る
頂きましたサポートは事業の運営に使わせていただきます。