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第4話 妖精のすみか

あれからルソ夫の言う通りに遊んでいる藤佳の観察を始めた。

藤佳は突然持っていたおもちゃをポイっと投げることがあって、これが彼の言ってた遊びが終わる瞬間みたいだ。

どうやらうちの子は遊び飽きるとかなりの確率でおもちゃを投げるらしい。

なんて発見もあって、じっと見ていると5分10分経っている事もある。

子どもの遊びを見るのって意外と楽しい。

そうやってのんびり過ごしていると、もう16時になっていた。
そろそろ夕飯を作るか。

立ち上がってご飯を作り始めるこの瞬間が1番エネルギーを使う。

「ぎゃーーー」

「藤佳!ご飯作るだけだよ」

立ち上がると泣き出す藤佳をなだめ、気合を入れて夕飯の準備を始める。

「えーっと、出汁パック出汁パック」

「おう、びっくりした。……元気してるか?」

キッチンの吊り戸棚を開けると、なんとルソ夫がいた。

「何してんの!?」

「いやいや。アンタ、チョコノパイ事件からアイスもお菓子も隠したやろ?どこにもあらへんやないかい」

「あのねぇ、それ『僕が勝手にチョコノパイ食べました』って言ってるのと同じだからね」

「僕ちゃう。ワシや」

「そこじゃないっ!!」

人の話を全然理解してない。

というか恐らく聞いてない。

「いいからとりあえず出てきて」

ルソ夫を戸棚から引っ張り出す。

「そもそもどうやってこんな高いところに入ったわけ?」

「あれ、見たことなかったか?ワシここまでなら飛べるねん」

そう言うとルソ夫の足はふわっと地面を離れ、キッチンの天井を……ギリギリ触れないようだ。

だいたい地面から足まで2メートルぐらいだろうか。

「妖精って飛ぶのに高さ制限あるんだね」

「せやで。ワシ羽無いからここまでやねん」

妖精界も色々とルールがあるらしい。

「飛ぶというか浮くだよ」

「そんな感じやな。だからほら!冷蔵庫の1番上の扉もこの通り!」

「だからわざわざ開けるな!そもそも勝手に戸棚漁らないでよ」

すぐ調子に乗るのはルソ夫の悪い癖だと思う。

「ちょっと覗くぐらい別にええやん」

「覗くというか棚の中に入っちゃってるでしょ!」

ふと心配になった私は背伸びして戸棚の奥で何をしていたのか見てみた。

「あっ!何これ!?」

戸棚の中にはルソ夫にピッタリサイズの布団が敷かれている。

「今日からここワシの部屋にしよう思うねん」

「キッチンに布団なんて、そんなほこりっぽいもの持って来ないでよ!」

「そない怒らんといてくれ。なんか分からんけどここ、すごい心地ええねん」

「居心地とかどうでもいーの!」

なんか戸棚が広く感じると思えば、荷物だけでなく棚板ごと無くなっている。

「ねぇ。ここにあった物は?」

「それならこっちや」

ルソ夫が指差すのは隣の吊り戸棚。

慌ててその隣を開けてみると、言う通り中身は全部移動されていた。

ぐっちゃぐちゃに押し込まれていて、そこそこ綺麗好きの私には耐え難い散らかり様だ。

「あぁぁぁ何してくれてんのー」

自由に動ける子どもほど怖いものはないと感じる。

藤佳もルソ夫ぐらい自由に動けたらこんな事になってしまうのだろうか?

「もぉー、大体ねぇ……」

「バンっ!カランコロン」

リビングから何かが落ちたような音が聞こえる。

急いで藤佳の様子を見に行くと、投げたと思われるガラガラが1つ。

「なんだ。おもちゃを投げた音か」

そういえばオムツを替えないまま夕飯の準備を始めてしまった。

かれこれ1時間以上藤佳のオムツを見ていないことになる。

オムツの事は一昨日言われたばっかりなのに、もう忘れるなんてダメだな。

そう思って次の遊び始める前に、オムツを替えようと藤佳を後ろから抱きかかえる。

「うわぁ!誘拐や!」

キッチンの方からその様子を見ていたルソ夫が突然叫びだす。

「何言ってんの。静かにしてよ」

「黙って連れていくとか誘拐犯やん」

なんだかルソ夫が色々話したそうなので、私は床に藤佳をひとまず下ろした。

「なに?」

「あのなぁ、アンタ藤佳ちゃんのこと所詮は赤ん坊や思てるやろ?」

「急になに!?そんな訳ないでしょ?大事な娘です」

「そうか?じゃあ『オムツ替えたろ』って黙って自分の意思を一方的に押し付けるのはどうなんや?」

人の話もろくに聞かないくせに、どの口で相手の気持ちが何だの言えるんだ。

というのは、心の中に閉まっておく。

「どうやったら押し付けじゃなくなる?」

「それは今から何するか藤佳ちゃんに伝える事やな」

「言っても分からないんじゃない?」

「そんな事あらへんで。そうやなぁ、例えばアンタがご飯作ったりトイレ行ったりする時藤佳ちゃん泣くやろ?」

「あ〜あれね、そうなんだよ。結構困っててさ」

キッチンに移動した時もそうだったが、最近の藤佳は私がいなくなるだけで。いや、立ち上がるだけで泣き出す。

可哀想だと思うが、仕方ないものだと自分に言い聞かせ、あえて何もしないようにしてきた。

「『伝える事』が大事やねん『伝える事』が。これも毎回行く前に『ちっち行ってくるね』『ご飯作ってくるね』って言うとくだけで、そのうち泣かんなるで」

「ちっちって大人が(笑)」

「何がおもろいねん」

またルソ夫の眉間にシワが寄る。

怒るとすぐに分かる子だ。

「ごめんごめん(笑)ということは『どこに行くのー?』って泣いてるってこと?」

「そういうこと!それはオムツ替えもそうやし、挨拶とは別にコミュニケーションを取らなあかんのや」

「分かるもんなんだね。意外!」

「せやで。子どもや言うて舐めたらあっかっん〜」

「ふざけるとこじゃないでしょ」

「いやぁ〜誘拐事件解決!めでたしめでたし」

「未遂ですよーだ」

「そう言えば、オムツ替えで昨日から藤佳ちゃん一回も泣いてへんのちゃうか?」

「そうなの!遊びの終わりが分かったの!」

「ええやん。最近少しずつ勘が良くなってきたんとちゃうか?やっぱり天才は違うわぁ」

「まぁこんなもんでしょ!」

「ほんでお菓子はどこにいったんや?」

「どうせそんな事だろうと思った。私のこと褒めたらお菓子にアイスが出てくると思った??」

「そ、そんな事あらへんって」

「すごい食べ散らかすし、この前は掃除大変だったんだからね」

「それワシちゃうもん」

「しばらくは無いでーす」

「そんなぁ!」


5.今からやる事を言葉で伝える。

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