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第5話 初めての遠出!

明後日はいとこの結婚式なので、今日のうちに新幹線で兵庫県まで移動する。

宿泊先は式の会場まで近い夫の祖父母の家になる。

ちなみに夫は仕事の都合で明日の夜に合流する予定だ。

藤佳が生まれた時、親族には写真を送っただけなので、今回が初対面になる。

「藤佳。色んな人に会うね。ドキドキするね」

なーんて話しかけてみるが、分かるはずもない。

むしろ私の方が藤佳と初の長距離移動でドキドキしているんじゃないか。

朝のうちに旅行の準備を済ませ、昼食を食べて少し休憩してから出発する。

しばらくは家でのご飯もさよならだ。

兵庫県まで新幹線に乗るのは2時間半。

新幹線に乗る前と降りた後の時間を含めればプラス1時間といったところだ。



新幹線に乗り込むと、通路を挟んで反対側に座っていたおばさま方から声をかけてもらった。

「かわいいねぇ」

藤佳もなんだか満足気だ。

絵本やおもちゃで1時間ほど遊び、藤佳だけ早めに夕食にする。

藤佳が食べているとまたおばさま方が話しかけてくれて、昔の子育てなんかを話してくれた。

「今時のベビーフードってそんなんなのね。本当によく出来ているわねぇ。私たちの頃は……」

おばさま方の頃はベビーフードなんてなかったみたいだ。

なので、毎回おにぎりを握って持っていってたらしい。

でも、スマホでベビーフードを調べると、昔から缶とか瓶とかではあったのはあったみたいだ。

ただ、知らないところを見るとその頃はまだベビーフードが浸透していなかったのだろう。

ベビーフード1つとっても昔と比べると随分便利になったもんだ。

子育てしにくいと言われる今の時代でも、良かったと思うことは山ほどある。



「美味しかったね。ごちそうさまでした!」
あっという間に食べ終わり、残り時間との戦いが始まる。

食べてる間は静かだが、食べ終えてしまえばそうもいかない。

どうやって過ごそうかと昨日のうちからあれこれ考えていたが、奇跡的にウトウトし始める。

寝ろ!寝るんだ!

車内が静かなこともあって、私のお腹にぺったりと寄り掛からせるとだんだんまぶたが閉じていく。

寝て!お願い!

願いが届いたのか、上手く寝かせる事ができた!

そのまま膝の上で寝かせ、私はケータイを触って過ごす。



新大阪駅に到着。

「はぁ〜、着いたぁ!」

藤佳がいて体勢を変えられずに腰が痛かったが、起きてギャン泣きされるよりかはずっとマシだ。

今日泊まる家まではあと少し。



日が沈む頃に今日の宿泊先の家に着いた。

藤佳のひいおじいちゃんとひいおばあちゃん、それから親戚のおばさんが暖かく迎えてくれた。

みんなが藤佳と遊んでくれる。

家に入ってすぐはものすごい人見知りしていたが、おばあちゃんが「これ食べ」とイチゴをくれると、すぐに懐いてしまった。

抱っこされても嫌がらない。

「食べ物の力ってすごいですね」

「ほんまやねぇ〜」

なんだか最近馴染みのある関西弁だ。

みんなが藤佳にかまってくれるから、本当に楽チン。

トイレ一つ行くのにも苦労する普段とは全く違う。

おじいちゃんから「座りいな」と言われ、私はソファでテレビを見る。

その間もおじいちゃんとおばあちゃんに持ってきたボールで遊んでもらっている。

突然藤佳がボールを横に捨て、おばあちゃんの方へ歩き出す。

何するんだろうと見ていると、藤佳は両手を伸ばして「っこ!」って叫んだ。

抱っこ!?

そんな事はない。
偶然だろうと思って私は無視していた。

ところが、おじいちゃんとおばあちゃんは「すごいなぁ!抱っこやって!上手やなぁ」とたくさん褒めてくれた。

すると、「っこ!」「っこ!」と手を伸ばしてしつこいぐらい何度も抱っこを求めた。

この一言を覚えた事で、その日は1日中誰かしらに抱っこしてもらって過ごしていた。



私たちの部屋は2階の奥。

おじいちゃんおばあちゃんの協力もあって、いつもと同じ時間に藤佳をお風呂に入れて寝かせることができた。

藤佳が眠りについてようやく1人の時間が訪れる。

ほっと一息つくと、突然隣から声が聞こえてきた。

「ふーん。こんな事があるねんなぁ」

腕を組んだルソ夫が藤佳のことをしみじみと見ている。

「えぇ…なんでこんなところにいるの!?」

「アンタがワシに何も言わんと出かけようとするから、こっそりついて来たんやんか。新幹線乗った辺りでいや〜な予感はしたけど、えらい遠いところまで来てしもたで」

「今日1日ずっとすぐ隣にいたの?」

「いつ驚かしたろか思て見とってんけど、タイミングあらへんでなぁ」

この子は何をやっているんだか。

「あっ。じゃあさっき藤佳が『だっこ』って言ったの聞いてた??」

「あれなぁ。ワシもびっくりしたで」

「普段はそんなに喋らないのに、あんな何回も繰り返すなんてビックリだよね」

「違うやん。褒めてもらって嬉しかったから繰り返したんちゃうか?」

「そんな事ある?」

「現にあれからずっと喋ってたやろ?」

「そうだけど」

「褒める事は何よりの原動力っちゅうこっちゃな」

考えてみれば、私も褒めてられて伸びるタイプだ。

「叱られて伸びるタイプはどうしたらいいの?」

「そんなんもっと色んな事が分かるようになってからや。赤ちゃんのうちは全員が褒められて伸びるんやで」

「へぇ〜」

「藤佳ちゃんもアンタの子ってだけあって出来のええ子や。アンタももっと褒めたらなあかん」

「たくさん褒めたらいいの?」

「自分がすごいなと思ったら素直に褒めたらええねん。『だっこ。』言うたんだってすごいやろ?1歳やで?」

「そうだけど、それがすごいかなんて分からないよ」

「『褒める』言うことは『認める』言うことやからな。『おっ!』って思った事やったら何でもええねん」

「う〜ん」

「めんどくさい奴っちゃなぁ。ほんなら毎日『かわいい』言うてあげたらええやないか。こんなにも可愛い子やのに」

「それならいけそう!まずは1日5回言うのを目指して頑張らないと!」

「それはええ事や。ほんでいつ家に帰れるんや?」

「まだまだ。今日から4泊するよ」

「……えっ」

6.毎日たくさん褒める
7.できた事を認める

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