第8話 私の子育ては正解?
いつものように朝1番に起きた藤佳は布団で暴れ回っている。
私は寝起きで固まっている体を伸ばしながら挨拶をした。
「あーーーあ、藤佳おはよう。」
時計を見てみるともう8時だ。
その割には暗い。
カーテンを開けると雲で覆われた空が目に入った。
日差しが入らなかったことで、藤佳はいつもより長く寝ていたようだ。
「今日は天気よくないね。雨は降ってないから児童館でも行こうか!」
リビングで朝食を済ませると、ゆっくり寝た分いつもより早めに準備して散歩に出た。
*
久しぶりに児童館までやって来た。
なんだか雨が降りそうで不安になってしまったので、ベビーカーの中は雨カバーやら傘やらでパンパンだ。
荷物いっぱいのベビーカーを押して児童館に入ると、藤佳をベビーカーから降ろし、靴を脱がせた。
すると、靴を脱いだ途端に私の方は一切見ず、1人で部屋の奥まで歩いて行ってしまった。
驚きだ。
しばらく離れたところから様子を見ることにした。
私が近くにいなくても自分で遊びたいおもちゃを出し、1人で座って遊んでいる。
「前は一緒じゃないと遊べなかったのにね」
私は小さな声でつぶやいた。
こんなところからも藤佳の成長は感じられるなんて、なんだか嬉しくなった。
私たちが来た時には既に2組の親子が遊んでいて、私たちに続いて3組の親子も遊びに来た。
意識しているわけではないが、周りの親子のやり取りに目がいってしまう。
他の親子はどんな雰囲気なのかな?
なーんて気になってきてついつい見てしまうのだ。
あー。何も言わないで抱っこして連れ去っちゃった。
誘拐犯やってるよ。
あーあー。帰るからって遊んでるのにおもちゃ取り上げちゃったよ。
一度気になると無視できないのが私の性格で、そっちばかり気になり、1人で遊ぶ藤佳はそっちのけになってしまった。
「ルソ夫だったらあの人たちの事を散々に言っているだろうなぁ」
ついつい周りのお母さんたちに対して声が溢れてしまう。
そんな私のところにボールを2つ、両手に持って藤佳が近寄って来た。
「だあだあだあ」
まるで一緒に遊ぼうと話しているかのようだ。
「ごめんごめん。ボールしようか?」
藤佳の声を聞いて我に返った私は、立ち上がって藤佳とボールで遊ぶことにした。
*
「ただいまー!」
「おう、今日はゆっくり出かけとったな。雨は大丈夫なんかいな」
「天気なら大丈夫なんだけど」
私は帰るなりルソ夫に児童館での話をせずにはいられなかった。
「あのね、今日ね……」
*
「……それでみんなダメだなぁと思ってたら気になっちゃってね」
「それ、あるあるかもしれんな」
「そうなのかな?」
「自分ができるようになると周りがアカンように見えるねん。でもな、アンタもワシと初めて会うた時は同じ事しとったで」
「それはそうかもしれないけど」
そう言われてしまうと言葉に詰まる。
「でもちょっとずつ分かってきたからそう感じるようになってきた訳やろ?せやから、それだけ知識として頭に入れておくっちゅう事は大事なんやな」
「そうだね!知ってるだけでも違うんだなって思ったよ」
「でもな、人のやり方を言い出したらキリがないねん」
「そんな事言われても気になるものは気にな…」
「じゃあ、なんでその人がその子どもにそうしたんか聞いてみたんか?」
「そんな!そこまでしないよ」
「みんな自分に考えがあって子育てしてんねん。もしかしたら、そうするしかなかったかもしれへんやろ?」
「いや?そんな事はなかったと思うけど?」
「『うちはうち。よそはよそ』昔よう言われたやろ?それでええねん。子育ても一緒や」
なんだか久しぶりに聞いた。
懐かしい響きの言葉だ。
「逆にアンタかて『それ変やで』言われるかもしれんしな」
小さい頃、私は人が持っているものを何でもすぐに欲しがる子だった。
だから私が欲しい欲しいとねだると、うちの母親からよく”うちはうち。よそはよそ”と怒られていた。
そう言えばそんな事があったな。
この懐かしい感覚は……
「……おい。聞いとるか?」
「えっ??」
「なにボケーッとしとんねん」
「あ。ごめんなさい」
「ええか?案外小さい頃に言われた事って、大人になっても役に立つねんな。”人は人、自分は自分”でいったらええねん」
「気にしないようにするしかないか」
「そういうこと。今まで教えたった事もそうやし、これから教える事もみんなそうや。アンタがやってるのは一つの方法。色んなやり方があるんや」
「はい」
「しっかり頭に入れとくんやで」
そう言うと、ルソ夫はキッチンの戸棚に入っていった。
「まだそこで寝泊りしてたの!?」
「アカンかったか?」
戸棚の扉越しにこもった声が聞こえてくる。
何とかして戸棚からは出て行ってもらいたいな。
11.子育てに流派あり。うちはうち。よそはよそ。
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