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第21話 天才への道のり

うちの子って周りの子よりも色んなことできるかも。
って思う事が結構ある。

最近感じたのは、大人の話をとってもよく理解している事だ。

今朝は「藤佳、これテレビのところに置いといて」とリモコンを渡したら、何一つ間違えずにやってくれた。

児童館で同じ月齢の子なんかを見ていても、ここまで分かる子はいなさそうだ。

1歳になる前にかなり言葉は出ていたし、もしかしたら天才なのかもと思うことだってある。

そんな私に、藤佳のできる事をさらに伸ばすチャンスがやってきた。

「幼児教育」というやつだ。

藤佳が生まれてから知った事だが、子育てパパママのためのイベントって結構色々ある。

ほとんどが無料で開催され、企業が集まってはこぞって試供品やサンプルを配っている。

まぁその試供品が目当てで私は行くのだが、食品関係から保険屋さん、写真なんかまで色々と揃っている。

その中で私の目に止まったのが、「幼児教育」という言葉だった。

そのブースには色んなおもちゃが並べられていて、その奥にはメガネをかけた賢そうな人たちがいた。

先生だろうか?
一言でいうなら、語尾はザマスって感じだ。

ブース前でしばらく眺めていると、すかさずその中の1人が私に話しかけてくる。

「あら、可愛い赤ちゃんね。お名前は?」

「藤佳って言います」

「こういう幼児教育とかって興味ある?」

「うーん、無くはない。って感じですね。でもこの子まだ小さいので。どのぐらいからできるんですか?」

「小さくても関係ないわよ?この子はもう…1歳になったぐらいかな?小さい頃から鍛えておいて悪い事ないのよ。例えばこのおもちゃなんかは楽しく遊びながら指先を鍛えられるし、私たちが……」

ついこの前ルソ夫も言ってた指先だ!

間違いない。この人たちは本物だ!

そう感じた私は3日後の体験レッスンに行くことにした。

家から徒歩20分で行ける大きな駅のすぐ近くに教室があった。

関東全域で展開されているチェーンみたいだが、うちからはそこが1番近いらしい。

「当日は町田という者が担当ですので、宜しくお願い致します。では、当日お待ちしておりますねー」

しっかり予約も済ませた。
どんな事をやるのか楽しみで胸が踊る。



「ルソ夫が言ってた事と全く同じような話もしてたし、私あの人信じていいと思うんだよね!」

「うーん…」

ルソ夫は予想外にイマイチな反応だった。

「なんで?『アンタええの見つけてきたやーん」とかならないの?」

「幼児教育自体は悪くないと思うんやけどな」

「えー。なになに?」

「こういうのって興味のないこと無理矢理やらせるわけやろ?」

「でもそこはプロなんだし、興味を持たせてくれるでしょ」

「でも週1の30分やで?」

なんか納得のいかなそうな顔をしている。

「何が気になるの?」

「じゃあワシから話させてもらうで。だいたいこの手のやつって、一つのおもちゃを30秒とか1分ぐらいしか触らせてもらわれへんねん」

「そうなの?」

「前も話したように、子どもは興味持ったものに自分から関わりに行くことで、色んな感覚を身につけていくねん」

「でも、無理矢理でもやらせることで少しずつできるようになるんじゃないの?」

「小学生ぐらいになったら多少はな?でも藤佳ちゃんぐらいの小さい子は興味ない事なんかなんぼやってもまぁ〜〜身につかへん」

「そっか。難しいんだね」

「それにそういうところって漢字で名前を覚えさせようとするとか、よう分からんこと結構あるねん。年齢に合ってない事なんか興味持つはずもないで」

「でもどんな感じか分からないから体験だけは行ってみようかな」

「そもそも藤佳ちゃんにそんな期待したらアカンで。他の子と変わらん普通の赤ちゃんや」

「そんな事はないと思います。通ってみてどうなるかもしれないし!」

「アカンアカン。そういう期待するのは良くない」

「なんでよ!現に色々できるのはルソ夫も見てきたでしょ?」

「ロボットちゃうからアンタの思い通りには絶対に育たへんわ。子どもは押し付けるんじゃなくて導いてあげるのが1番や」

「うーん」

「それにそもそも結構な月謝かかるやろ。月1万以上なんかざらやで。パンフレット見せてみ?」

「でもここは違うよ?」

「はよ」

ルソ夫とパンフレットの睨めっこが始まった。

「これだって月12,000円かかるやないかい。」

「え?なんで?」

「何言うてんねん。ここ見てみいや」

「…うわ、ほんとだ」

「3200円ってこれ初回から3ヶ月間だけやん」

「なーんだ、そんな感じか。じゃあ体験に行ってみてルソ夫の話がホントかどうか確かめてくるよ」



そんなわけで、3日経った。

実際に教室に行ってみる日だ。

藤佳の1歳からのクラスは、うちの子含めて5人。

思っていたよりも規模の小さいものだった。

先生は1人。

時間までは遊んで待ち、先生の登場とともに教室が始まる。

「はーい、みなさーん!こーんにーちはー!まずは今使っていたおもちゃをお片付けしましょう。お父さんお母さんも中央にあるカゴにお子さんと一緒にお片付けしてくださいねー!」

「歌いながらやりましょう。せーの、おーかたーづけー♩おーかたーづけー♩」

「さぁ、今日は英語からやりますよー」

先生はそういうと、A3用紙ほどの大きさのパネルに、でかでかと書かれたアルファベットを見せていく。

「はいお父さんお母さんも一緒に真似してくださいね。A!『A!』B!『B!』C!…」

次は歌、次は数字と5分ほどパネルを見ながら先生の発音を真似して繰り返す。

「次はパズルをやりたいと思います。それではこちらの机と椅子に座ってくださーい」

そう言って座るように促されたのは、小学生ならぬ赤ちゃん用の学習机!っぽいもの。

1歳3ヶ月の藤佳がピッタリと座れる大きさだ。
こんなものが存在しているなんて知らなかった。

その上に木でできた9ピースのパズルが置かれる。
隣に座っている4人にも全く同じものが配られていた。

「それでは、私取ったピースと同じものをお母さんたちも取ってあげて下さい」

言われるまま同じようにやる。

「1人ではできないと思うので、しばらくやったらお母さんたちが上から手を添えてはめてあげてくださいね」

ん?これはどういう意味があるのだろう?
なんだかそんなふうに感じてしまった。

「さぁそしたら今使ったパズルをお片づけしましょう。はい片付けするよー」

ところが、ここで問題が発生する。
藤佳がパズルを一向に手放してくれない。

「ごめんね。お片付けなんだって。まだやりたかったんだよね?」

そんな話をしていると先生がこちらに近寄ってきた。

「どうしたんですか?」

「まだパズルをやりたいみたいで離してくれなくて」

「あらそうなの!藤佳ちゃん。もうお片付けの時間だから今はこれで遊ぶのはいけないよ」

「ほら、お母さんも一緒に!『今はもうダメよ』って教えてあげて!」



「ただいまー」

「お、帰ってきたな。どうやってん?」

「やっぱりルソ夫の言う通りだった。次から次へと色んなものを押しつけているだけで、罪悪感でいっぱいになっちゃったよ」

「やっぱりそうやったんか」

「藤佳はパズルで遊びたかったのに、30秒位で取り上げて「ダメだよ』なんて言ってんの。普通にドン引きだったよ」

「せやろ?ワシ保育士に近い考えやけど、幼児教育系は保育士とそもそも考え方が真反対やからな」

「でもなんか勉強になった気がする。お金なんか使わなくても家でできることってたくさんあるよね」

「それに気付いたなら大したもんやで」

「ありがとう!入会しなくてよかったよ。とりあえず浮いたお金で何買うかきめなきゃ!」

「何でそうなるねん」


30.子どもに期待し過ぎない
31.年齢に合ったこと(遊び)をする

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