掌編「道に落ちていた1分」@爪毛の挑戦状
「もしもし」
もしもし、わたし。いま少し話せる?
「ああ、うん。少しだけなら」
ありがとう。なんか声、聞きたくて。
「そっか」
出発は何時なの?
「7時半くらいかな。あっちで引越業者のトラックと待ち合わせてるから、早めに出ておこうと思って」
そうなんだ、君らしいね。間に合えば、見送りに行くよ。
「ふふっ。無理しないで。早起きは苦手だろ?」
そうだね、ふふ。
(ビーッ…)
あ。電話、急に切れたらごめんね。
「どこかへ出てるのかい」
家にいるとそわそわしちゃって。手ぶらで散歩に出たら10円見つけてさ。
「暗いから気をつけて帰るんだよ」
うん、ありがとう。
「落ち着いたら、はがき送るよ」
うん、楽しみにしてる。元気でね。
「君もね」
ねえ、す…(ッー ッー ッー…)
(315文字)
私はテレフォンカード派でした。