掌編「二重人格ごっこ(紫)」@毎週ショートショートnote
今朝も無事、岸辺に繋がれたようだった。
目が覚めると、間もなく午前5時。
シャツのボタンを留め眼鏡をかけ、そろりとベッドから出て、壁の大きな鏡をみる。かなり飲んだはずなので、やはり浮腫んでいる。
曖昧な記憶を反芻しながら、マスクで鼻と口を覆い、部屋を出る。
早朝の駅前はとても静かで、タクシーはすぐにつかまった。
「おつかれさまです」
「おう、おつかれ」
昼休み直前、すれ違ったので何食わぬ顔で挨拶を交わした。彼はそのまま社長室へ入っていった。
社長にスカウトされ支所長として中途入社した営業のやり手。20ほど年上。奥さんが美人とか、バツイチとか色々な話が聞こえるが、詳しくは知らない。
いつからか彼は、本社へ出張に来る度に宿泊先の部屋番号を私に渡すようになった。
彼との時間は、本当に現実なのか?
毎度分からなくなるのは、酒のせいか、夜のせいか、それとも私の本能か。
ワインを携え鳴らす呼び鈴は、昼を離れ、夜へ漕ぎ出す合図。
月下、私たちは岸辺を離れる。
(415文字)
読んでいただき、ありがとうございます!
今回のお題は、いくつか話が浮かんだのでそれぞれイメージカラーを付けてみました。みなさんは、何色をイメージしましたか?(唐突な問いかけ)
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