掌編「水槽のうんこ」@爪毛の挑戦状
蝉が少しおとなくしなった。夕方の縁側は、過ごしやすくていい。
床の間のほうに寝返りをうつと、埃が積もった逆さまの金魚鉢が目に入った。
逆さまの金魚鉢は埃よけで、中身は純金の塊だ。わが家では、金魚鉢を被せた金塊を床の間に置いているのだ。
かなり無防備だが、わが家に侵入するなら人より狐や鹿や猪のほうが可能性が高いので金塊が置いてあったところで無問題だ。
裏山の畑から出たこの金塊は、鑑定に出したら1億円の値がついたが、そのまま手元に置いている。もう、何年になるだろう。
これが出た畑は家からいちばん遠い畑で、じいちゃんが若い頃に拓いたものだった。
もしかしたら、じいちゃんはこれが埋まっていると知った上で、そのままにしていたのかも知れない。
金魚鉢の中身を見ていると、むかし流行ったガシャポンを思い出す。レアな金色を求めて放課後の駄菓子屋が賑わっていたっけ。
ふと、小さい箱が目に入った。近寄って手に取ると、煙草だった。
じいちゃんが作業中によく吸っていたものだ。味わい深い箱のデザインは、時代を感じさせた。
台所からチャッカマンを探してきて、箱から1本取り出し点けてみた。
懐かしい匂いだ。じいちゃんと一緒に作業をした記憶が蘇る。
ぼんやり思い出に浸っていると、呼ばれた。
「パパー?ご飯だって。あ、ママがチャッカマン探してたよ」
「あぁ、ごめん。すぐ行くよ」
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