掌編「うんこ鬼」@爪毛の挑戦状
肥溜めに入るのは慣れていたが、人を入れるのは初めてだった。
がっちり抱えて逆さまに刺した。悲鳴のようなものを上げていたがどうにもならないと悟ったのか大人しくなった。
肥溜めに頭を刺しているこいつは、鳴き声がうるさかったとの理由でうちの鶏をすべて殺した。
悲しいかな、さっきまで一緒に飲んでいた幼馴染みだった。
抱えていた手を離す。
肥溜めから少し距離をとって腰を下ろし、突き出た脚を眺める。
溜め息がでた。
●●●
何が起こっているか分からなかった。
物凄い力で押さえつけられ身動きがとれず、途中で暴れるのを止めた。
さっきまでの自分の行動を後悔した。苦しい。俺はこのまま死ぬんだろうか。
茫然としていると急に身体が解放された感覚。死にたくない、と思ってしまった。臭くて冷たいこの沼から抜け出したい。
さっき鶏の首を折った手で、臭いドロドロを必死に掻き回す。
目が開けられない。強烈な臭いの汁が纏わりついて鼻も口も麻痺している。
やっと上と下の判別がついたと思ったら口からゲロがでた。
振り回していた手が、固いものに触れた。木材らしかったので必死に掴んだ。
沼から出られたようだ。しかし何も見えないし、不思議と臭いも感じない。またゲロがでた。
ポケットにチャリ、と重い感触。何かがポケットに入れられた。ヤバイ。また捕まる。
とりあえずここから離れよう。今度捕まったら、おそらく本当に死ぬ ──。
●●●
見ていたら自力で這い出たので、落とし物の鍵をポケットに入れてやったらフラフラと離れていった。
おそらく何らかの後遺症が残るだろうが、天網恢恢疎にして漏らさず。
それにしても這い出てくれてよかった。あのまま死んだら処理しなくちゃならない。
とりあえず風呂に入って縁側で飲み直すか。
(718文字)