4 西新宿 ＊＊小説「先」＊＊
出勤日の朝9時、店に行ったら突然店がなくなっていた。
摘発されたってことだ。
そこで初めて無許可の店だったことを知る。
前にいた新大久保の店では、店の女の子から「摘発きた。近くにいちゃダメ」と出勤直前にショートメールが来たこともあった。次の角を曲がればお店のあるマンションの入り口だったから、本当に間一髪だった。
様子を見たかったけど、こういう状況ではそれすらも危険だという過去の経験談を別のお店の女の子から聞いたことがあった。
常識知らずで社会をうまく渡れない私にとって、この世界の女の子はみんな知恵の泉を持つ大秀才たちだった。
様子を見に行きたい好奇心を押し殺し、駅前まで急いで引き返した。
思えばあの時、連絡先を交換していなければ、私はあの時、マンションの入り口で捕まっていただろう。
その店は待機部屋がない店で、女の子同士に接点を持たせないポリシーだった。情報交換をして、もっと待遇の良い他店に人材が流出するのを防ぐためだ。
だけど先月、３Ｐ希望のお客様きっかけで、初めて同じ店の女の子と知り合い、祝杯をあげようと帰り道にドーナツ屋さんでお茶して以来、すっかり仲良くなった。そのあとも何回かお茶したし、映画も一緒に見に行った。
さきちゃんさん。店が変わっても５年も指名し続けた旦那さんと来年結婚して、旅館の女将さんになるって言っていた。
もし、さきちゃんさんがメールしてくれなかったら、、、
さきちゃんさんはどこからメールしてきてくれたんだろうか、、、
無事なのだろうか、、、旦那さんには会えたのだろうか、、、
店がなくなったときの感情は独特だ。
長期の撮影だと安心して、そこにずっと立て込んでいた撮影セットが第三者によって勝手にバラされ、勝手に原状復帰されていた、の感覚に近いかもしれない。
すっかり普通のビルに戻った元店舗を後にして、
とりあえず駅前まで引き返すと、同じ店で働くあいちゃんを偶然見つけた。
中学からずーっとこの世界にいるあいちゃんは、この状況にめちゃくちゃ冷静だった。それどころか、あの店やっぱり早かったねーとお局のような小言をいいながら、手元でサクサクと営業メールをさばくのを止めなかった。
あいちゃんは前に私に教えてくれた。
捕まった時は、「違法と知らずに働いていました」と言えば私たち女の子は帰してもらえるよ、と。
でも男性陣はどうなるのだろう？
西新宿の店長は、どうなったのだろうか？
知ってて雇っても知らずに雇っても、
雇ったことに変わりない、と法律だとそう映ってしまうのかな、、、
男性のほうが大変だ。
しかも、私たちの場合、未成年だ。
いくら私が働きたくて働いていると言ったところで、法律だと「男性によって働かされていた」という見方になるのだろう。
そして、そこを利用する女の子ももちろん出会ってきたし、
それを分かった上で雇う店長のような男性達ももちろん見てきた。
だけど、あいちゃんのように身寄りがなかったり、虐待から逃げてたり、
捕まったら一番危険な住所や家族に帰されるから必死で逃げる、身分を偽る。
その受け皿を担う男性もいるんだろう。
男性って大変だ。すごい。
女性を危険にさらすのも男性なら、守ってくれるのも男性だ。
日本ってつくづく男社会だな。
パチンコ好きの副店長、ちゃんと生きてるかな？
私パチンコやったことないのに「パチンコで確変出しました」って見え張って嘘ついて、
どうやって出したの？って聞くから「画面に『確変』って文字が出ました」って知ったかぶりの嘘ついたのに、
今考えると絶対嘘なのに、
よく笑わなかったな、副店長。
それどころか完全に私に話を合わせてたもんな。
優しすぎだろ。
副店長、すごくイケメンですごく優しかったけど
すごくオーラが薄かった。
店長からいじめられていると聞いたこともある。
お店の女の子たちから言い寄られていると聞いたこともある。
そして、そのうち何人かに実際に体を売って、報酬を得て、
それでそこそこ稼いでいると聞いたこともある。
数ヶ月前、
店長がしょぼんとして私の部屋に入ってきて、
副店長と1番人気の女の子、両方とも連絡つかなくなったんだけど、何か知らない？と聞きにきたことがある。
そして私が、
「私が一番関係ないってことくらい店長も分かってますよね」と返すと、店長は
「そのくらい手掛かりがないんだなってクルミちゃんも分かっただろ？」と返してきた。
男性って大変だ。
先生、私も、です。
男性達に守られ生かされました。
身の守り方を教えてもらいました。
未成年だからと救われました。
男性の方が不利なはずなのに。
ごめんなさいはこっちです。
それだけ伝えたかったです。
一言一句、伝えたいこと、同じです。
やりたいこと、理想、ずっと同じです。
手伝います。
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５．歌舞伎町（夏）