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11.小学4年生 **小説「先」**
冬休み間近の夜。
お風呂やらご飯やらで、リビングに誰もいなくなった一瞬を狙い、
パジャマのポケットに入れておいた、サンタさんへの最後の手紙を急いで取り出し、
クリスマスツリーの枝が重なってる部分にそっと置いた。
サンタへの手紙をクリスマスツリーに置く
いつどのタイミングで、このマイ風習が始まったのか全く覚えていない。教わったわけでも、やろうと決めたわけでもないのに、気づいたら毎年やっていた。
最初はおそらく七夕の短冊みたいなノリで、欲しいプレゼントを短冊に書いて吊るしたんだと思う。
それがいつしか大きめの紙になり、折りたたむようになり、封筒に入れるようになったんだろう。
わざとプレゼントの文字を1文字1文字部屋中に散らして『パズルだよ。全部見つけてね』とした年もあれば、
大量のダミー封筒を置いて『本物はどーれ?』と、紙だらけのツリーにしてしまい、やりすぎだと家族から怒られた年もあった。
面白くないなぁ。
私がサンタなら絶対爆笑するけどなぁ。
学年が上がるにつれて、生きることが複雑になっていき、クリスマスまで待てずにノートに下書きするようになった。
悲しいことも、辛いことも、嬉しいことも、
大発見も、描く理想も、恥ずかしいくらいの幸せも、
相手がサンタとか関係なく、春夏秋冬、手紙のネタとして、
秘密の交換日記のように下書きし続けた。
そして今年も、エピソードを厳選し、便箋2枚にまとめた。
いや。まとめてはいない。なんならノートと全く違うことを書いている。
ドロドロとホワホワとイジイジを取り除いた、家での「いつもの」私だ。
まぁサンタも、
ノートと同じこと読んでもしかたないしね。
だから、今年で最後にしようと思った。
この手紙の私は、ノートの私と違うから。
手紙に宛てたサンタクロースと、
ノートに宛てたサンタクロースが、
私の中ではもう別人になってしまったから。
そして、いつもと同じように
手紙の結びに欲しいプレゼントの事を書き、封筒に入れた。
そして、サンタへの手紙だけど
誰でも開封できるように、シール1つで軽く封をする。
今年は読んでもらえるだろうか?
手紙の分、軽くなったパジャマのズボンを引きずりながら
何もしてないですよアピールで、音を立てずに寝室に戻った。
サンタさんからのプレゼントは、ほぼ毎年お菓子だった。
たまーにおもちゃ付きお菓子になるけど。
お菓子のセンスにはムラがあった。外国の凝ったお菓子の時もあれば、長靴のケースに入ったクリスマスお菓子セットの時もあれば、ポッキー1箱だったこともある。
どんなプレゼントを書こうとも、どんな内容の手紙を書こうとも、希望のおもちゃはもらえなかった。
そして、希望のおもちゃがもらえないということは、
手紙も読んでもらえていないということだと思った。
本当に読まれていないのか、読んでいるけど読んだ形跡を隠しているのか、
どっちなのかを探ろうとして、読んだら分かるような仕掛けを施したこともあった。
便箋を複雑に折り、一度開けると元通りに折れなくしたり。
封筒を持ち上げると、下に轢いてある糸が枝から滑り落ちて鈴が鳴るようにしたり。
シールだけの封とみせかけ、上の方はガチガチに糊付していたり。
他にもあらゆる策を講じたけれど、
超人サンタクロースは、私が仕掛けた
どのトラップも潜り抜けた。
あんなに面白くない家族が、
サンタへの遊び心に無反応な家族が、
この分かりやすいツリーの仕掛けにクリエイティブに返さない家族が、
私のガチのシークレットトラップを無傷で通れるとは到底思えない。
もし私がサンタなら、わざとひっかかるんだけどな、、、
クリエイティブじゃなくても
「来たよ」だけでもいいんだけどな、、、
文字が書けなくても読めなくても、手紙という概念がなくても、
わざとトラップにかかったり、
わざとパズルを間違えて、へんてこりんなプレゼントを置いて行ったり、
わざとダミーの封筒に大量に引っかかって、破られた紙片で『ギブアップ』と書かれていたり、
部屋中ぐしゃぐしゃになってたり、
糊付に苦戦してたり、
鈴が落ちてたり、
そういうプレゼントでむしろよかったんだけどな。
でもそれが、生涯一度もかなうことがなかった。
だから、サンタさんもきっと忙しいんだろうな、と思った。
だからこれで最後にした。
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サンタさんへ。もう今年で卒業します。
サンタさんからは『ほしいものは ねて待つのではなく
自力で手に入れる』ということを学びました。
ありがとうございました。
これからは見守るだけで だいじょうぶです。
だから最後に 電子手帳をください。
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クリスマスの朝。いつもより早めに起きた。
枕元には、初めてお菓子じゃなくて、おもちゃが置かれていた。
しかも、手紙に書いたとおりの電子手帳だった。
しかもメーカーも色も、私の指定通りだった。
これが望み通りにいった時の喜びなんだと嚙み締めた。
そして大興奮でツリーのある場所にダッシュした。
手紙の位置が変わっていない。おかしい。
シールも剥がした形跡がない。おかしい。
便箋をめくったらわかる印も、ズレていない、
ってことは私が入れてから誰も抜いてない。
未開封だ。うそだ。
透視?まさか、、、
カッコ良すぎる!
最後に一発だけかます、イケメンサンタだ!!
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そしてこの風習は、
大人になってからも続いている。
「サンタは気配を消して手紙を透視する」としてくれたことで、大人になってもイケメンサンタをこうして1人で楽しむことができている。
乙女の扱い方をよく知っているサンタからの
一生もののプレゼント。
私が強く生きれるようにと、
年月かけて与えてくれた財産。
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12.小学3年生