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0、1 プロローグ  **小説「先(さき)」**






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静まり返った普通の道路。
誰もいない。

私は嬉しかった。



ずっとずっと、待っていたことを思い出した。



そして、なぜ
今まで忘れていたのかも、全部思い出した。


“Ishiyama Emma_19xit” 今回の100kmマラソン並走で、小説の世界と通じたことが2つありました。大作を書きます。本当に楽しかった。幸せでした。

@Ishiyamadaiki  Instagram




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1  プロローグ

「では、スタートまで、せーの!
 5、4、3、2、1!」

赤い幕と平台が並ぶ小さめのステージ。
ピストルの乾いた音が夏の夜に響いた。

「スタートー!」
「いけー!だいきー!」
「今、踊るようにスタートしました!」

スタジオの賑やかな拍手、現場の温かい声援、
多くの視聴者の期待と興奮を伝えるアナウンサーの実況を縫うように、

番組Tシャツを着たチャラ男芸人が、腕を器用に曲げ、冠番組のポーズをきめながらリズミカルに走り抜ける。
その後ろでもう一人のチャラ男が、空高く腕を振ってエールを送っている。


その一部始終を、SNSに流れてきた文字列で想像した。
夜8時の笹塚駅前。週末だからか人はそこそこ多かった。

SNS上では全国のファンが、この歴史的な瞬間を大興奮で観ているというのに、
駅前の交差点にいる現実世界の人たちは、そのことにすら全く気付いていないようだった。
画面の中と外のギャップは、時にすごくありがたい。


しかし、それにしては国民に観られてなさすぎだ!
いっそ、番組Tシャツを着て、「チャリティ番組放送中!」の看板を持って走ったほうがよかっただろうか、と考えながら、
邪魔にならないよう、迷惑にならないよう、
家路につく人々を縫うように、忍者のように静かに走り抜けた。


私は、「entrance」というお笑いコンビの石山大樹のファンである。

神様の格好をした芸人3人がMCを務める深夜番組で彼らのことを知り、数々のお笑い番組で彼らのネタを見て、
夏のゴールデン鬼ごっこ番組で少女と一緒に走る姿に胸キュンし、

教育格差について語ったネット記事によくぞ言ってくれたと強く共感し、
「ここまで私の意見を代弁してくれた人は初めてだ。私はこの人を生涯推さねばならぬ」と政治家の後援会に入るような気持ちで腹をくくり、

心中するつもりで人生初のファンクラブに入り、そこから人生で初めての推し活がスタートした。


連日、起床直後から寝る寸前までネットにラジオにテレビに雑誌に、彼らが人生を削って生み出す作品のすべてを懸命に消費する。さらにSNSを開いて取りこぼしている情報はないかを調べ、ファンのみんなの生存を確認する。

移動中や作業中に彼らの活躍を左耳で聞き流すのが私のスタイル。一通りリスニングを終えてSNSでみんなの感想を読むときに、ヘアスタイルや衣装のコーディネート、食レポしたスイーツの見た目、ゲストさんのお顔を確認する。


仕事は順調である。どこにも属せず、だれからも求められない時代を経て、今、こうして「私」でいるだけで、仕事が入ってくる今の状況が本当に奇跡でありがたい。

忙しすぎて、もう何人目とのミーティングなのか、どこの誰さんなのか、自分が顧客側なのか提供側なのか、よくわからなくなって、推しの漫才に出てくるおじいちゃんのように「私は今誰としゃべっていますか?」と聞くこともある。


それでも社会の一部として、みんなといっしょに生きられていることが、本当に奇跡だ。

そして、それを私以上に体現してくれている
私の推し、石山大樹は
地球上で一番輝いている。
そんな推しに照らされて、私は本当に幸せだ。



そんな推しと、私はいっしょに走りたいと思った。
どうしてそう思ったのかは、自分でもよくわからない。

ただ、「1人でやるなんてズルい!」という、好きと嫌いでチャンプルされた強い感情で、胸のあたりがギュイーーンとすごい勢いで締まり、

心臓とはまた違う、でも確かに胸の真ん中あたりの何かがゴゴゴゴゴゴゴゴゴと、これまた聞いたこともないような醜い激しい音で鳴ったことは、今でも鮮明に覚えている。

あれは、ランナー発表の結果が気になって、廊下でこっそりスマホを開いた途端に、石山大樹のインスタ更新の通知バナーが出てページを開いた、あの一瞬だ。

何が起こったのかわからなかった。でも、「ズルい!!いっしょに走る!!絶対走る!いっしょに成長する!!」と強く心に誓ったら、途端に安心して腰が抜けて、何とも言えない穏やかさで床にへたり込んでいた。


自分でも、どういう種類の感情なのか、
どうしてそう思うのか、よく分からなかった。

とりあえず、いっしょに走っても良いよ、って言われたみたいだから、
とりあえず、いっしょに走ってもいいんだな、と思った。


そうして今に至る。3ヶ月の自主練を経て、
私はいま、誰にも言わずに走っている。

夜に溶け込み、使命を隠し、
まるで石山大樹の影武者だ。
そんな自分に酔いしれてる。

どんなに辛くても、不思議と口角が上がるのを止められない。

ただ、今この瞬間、いっしょに走っていることが、楽しくて幸せで仕方がなかった。踊りだしたくてしょうがなかった。


(こんな変なファン、どう思われるのかな。)


小説の考察、空港の絵馬、
そして、鷺ノ宮のハートの水溜り。
ロマンティストにも程がある。



だけどまさか、あのハートの水溜りを同じくハートだと言っていた人物がいたなんて、


そしてまさか、その人物が
のちの私の推しになるなんて、

鷺ノ宮に住んでいたあの頃は
きっと夢にも思わなかっただろう。

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2 鷺ノ宮

🏃以下を読んでおくと、より楽しめます🍗
🟠100km並走に関する記事①②
🟠並走報告書(Instagram ストーリー)





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