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5 歌舞伎町(夏) **小説「先」**


シャワーを浴びまくるので
保湿のボディクリームは欠かせない。
ハンドクリームなんて塗っている暇すらない。


衣装は指定される時もあるけど基本自由。

私は大体、ダボダボのTシャツ。
Yシャツでもいいけどボタンがめんどくさい。

それに、このポンチョすぎず、私服すぎず、自分のサイズではないこの絶妙な大きさが、いかにも「私を守ってください」と言わんばかりだ。

可愛い=不完全で足りない部分がある
この全人類が持つ感性を私は知っている。

衣装も前戯だ。
我ながら着衣プレイの心得も持っている。

ゆかさんはボディケアに熱心だ。
だからいつもYシャツで、もはやボタンすらない。

ここの店に一緒に入ったあいちゃんは、脱ぎ着がしやすいからと、セーラー服を毎日着ていた。でも本当の理由は、学校に行ってないからだと思う。


日本はどうして、ダボダボ=女性的と考えるんだろうか。

子ども服や学生服がダボダボなのはまだわかる。すぐに身長が伸びるから経済的だ。
体型を隠すためのダボダボもわかる。
入院着がダボダボなのもわかる。

しかし、ファッション的可愛さを求めてのダボダボは、日本独特だと思う。

アメリカのエロ雑誌は、ダボダボ服の金髪美女なんて載ってない。ファッション誌に出てくるモデルさんもみんなサイズがあった服を着ている。
だから、サイズが合わない=可愛い=不完全で足りない=半人前=ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします、だと思ってしまう。

海外の方がサイズがいっぱいある。
なのに小学5年生の平均身長より低い私は、日本じゃ何を着ても不完全だ。

まぁ、だから、ご指導されたいってゆう性癖が、
本能レベルで刷り込まれたんだろうな。

まぁ、だから、こんなところで何やってるんだ!って誰かに怒られたいんだろうな。

まぁ、だから、今ここで、こんなことしてるんだろうな。


ご指導するなと言いつつも、
本当はご指導されたいんだろうな。
そういうプレイを私なら要求するんだろうな。

守って欲しいんだろうな。
結局守られて生きてるしな。

だから分かっててダボダボを着ちゃうんだろうな。
だから私も、なんだかんだ
男性に守って欲しい日本人女性なんだろうな。




お金には困っていなかった。家庭も普通だった。
何なら仕送りももらっていた。渡米資金も十分貯まっていた。

だけど、「まだまだ足りない」と自分と周りに言い聞かせ、
飛行機に乗る前日まで働き続けた。

この仕事は楽しかった。
女の子も男の子も、男性も女性も
多種多様な、いろんな世界のいろんな人に会えるから。
そして時に助けられるから。

急に飛ばなきゃいけない女の子の代わりに私がシフトに入ってあげたかった。
そうすることで、お店の供給と信頼を守りたかった。
そうすることで、男性スタッフが理不尽に怒鳴られるのを防ぎたかった。


世の中は助け合いだ。
未成年で、地位も経歴もなく、社会から半人前扱いでも
救えて、癒せて、守れる、社会に求められる最高の仕事だった。


社会のために自分を殺して働く男性たちを

愛したかった。癒したかった。肯定したかった。

愛したかった。癒したかった。肯定したかった。

だけど、ちゃんと癒されたいと思って風俗に来る人は少ないと思った。

こっちがいくら愛しても、「君ごときに癒されてたまるか」という、見下すような壁が皆にあった。
これは、どの女の子に対してもそうなんだろうか?
それとも、色気のかけらも全くない私に当たってしまったからそう思うのだろうか?

にも関わらず、スポーツマッサージに来たかのように、射精だけをわかりやすく求める人たちはもっと少なかった。てことは、射精以外にも期待していることがあるということだ。

だけど言わない、受け取れない、ってどういうことなんだろう。
男性はどんな世界で生きているんだろう?



まるで駄菓子屋で欲しいものをお母さんに言い出せなくて、モジモジしている子どものようだ。

それがいずれ「なんで察してくれないの!」の攻撃になって、
それがいずれ「どうして分かってくれないの?」の絶望になって、
それがいずれ「どうせ分かってもらえない」の諦めになって、
それがいずれ「分かろうとしないお前は最低だ」の軽蔑になる。


全部人のせいだ。自立していない。

だからそうなる前に言ってくれ、って思う。


日本人は手を挙げない。
自分の意見を言うのを我儘だと思う人もいる。
でも言わないと誰も叶えてくれない。
日本の外はそういう世界だ。

精神的自立は、駄菓子屋で欲しいものを自分で決めて自分で選んで、
自分で交渉して意見交換して妥協して、
それで得たお菓子が何であれ
それが今の自分の実力なんだと受け入れるところから始まっているように思う。




お店に来る男性は何を求めているんだろう?
出したいアンド癒されたい。
だけど言えない。プライドがある。
癒されてたまるか。
でも戻ってくる。
男性たちはどういう世界で生きているんだろう?


どういう風に愛してあげたらいいんだろう?
達成感を与えてあげたい。
女性を守ってくれるのは男性だ。
全ての男性を、私は愛してあげたい。

この部屋を出る時に、何か一つでもラクになって帰って欲しい。
売り上げもテクニックも、全くついてきてないから説得力ないけど、
こういったら嘘だと思われるかもしれないけれど、
誰の欲求も否定しないことが、私なりのプロ意識だった。
私の部屋に入った以上、相手のすべてを肯定したかった。



だけど、男性陣は
私からは愛を求めていなかった。

胸が大きくない
顔が可愛くない
スタイルが良くない
タイプじゃない

いくら尽くして愛して楽しませて全肯定しても
相手の分厚い壁にヒビの一つも残せやしない。




悲しいよ、もう、、、、



なんなのさ。




悲しいのはお互い様なのに。




だから今日も、引きずるくらいの
あなたより大きなTシャツを着る。



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6.歌舞伎町(冬)


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