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大人の頭の形について

東京日本橋クリニックで水曜外来を担当している広川です。

私たちは常日頃、乳児の頭の形についてご相談を受け、ヘルメットによる矯正治療を行っていますが、時々ご両親から「私の頭の形もちょっと見てもらえませんか?」と言われることがあります。
私の専門は脳神経外科なので、もちろん成人の脳外科疾患についても診療していますが、正直なところ大人の脳外科の疾患で頭の形を扱うということはあまりありません。
そのため、以前はこういった質問を受けると一瞬戸惑うこともありました。
もちろんご相談を受けたからには、しっかりと頭蓋形態を確認させていただき、乳児期の向き癖による位置性斜頭症の痕跡がないかどうか判断し、お伝えしています。

小児では脳の成長が頭蓋骨によって規定されるため、頭蓋骨の形態に異常をきたす疾患というのは、脳の発達そのものに影響してしまいます。
そのため、頭蓋縫合早期癒合症といった頭蓋形態に関連する病気が手術対象になっています。
しかし、成人の脳はすでに発達、発育を終えており、外傷や骨腫瘍などによる損傷や圧迫を別にすれば頭蓋骨の形そのものが脳に及ぼす影響というのは基本的にはないと考えられています。
そのため、我々脳神経外科医も大人の頭の形については普段そこまで意識することはなく、手術の時などに「少し斜頭があるな。小さい頃に向き癖があったのかな。」と考えるくらいです。

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ところが、最近読んだ論文で成人の脳血管障害が頭蓋形態に関連しているという論文を見つけました。
この論文では日本人を対象に20歳以上で頭部CTを施行した症例で計測を行い、頭蓋形態の異常がないかどうか調べています。
その結果、もやもや病で斜頭の傾向が認められたと書かれていました。
もやもや病は比較的若年で発症し、頭蓋内の主要な血管の一部が進行性に狭し、脳梗塞や脳出血を起こす病気です。
もやもや病では頭蓋内の血管が狭窄して脳の血流が少なくなるため、頭蓋の外を走る血管(例えば顔面や脳を包む膜、骨などを栄養する血管)の血流が増加するため、血流の左右差によって頭蓋骨の厚さや形態が変わってしまい歪みが生じるのではないかと、論文の考察では述べられています。
またこの論文では、1990年代以降と、1920年代〜1950年代に生まれた人では後頭部の扁平傾向(いわゆる絶壁)が多くみられたと書かれています。日本では伝統的に畳の上に仰向けで薄めの布団に寝かせていたため、1950年代までは後頭部が平坦になりやすかったそうですが、1960年代からはベビーカーや赤ちゃん用の柔らかいマットレスが普及し、頭蓋形態が改善しました。しかし、1990年代に入って乳幼児突然症候群を避けるために、仰向け寝が強く推奨され、再び後頭部の平坦化が起きやすくなったようです。

大人の頭の形に関しては脳の血管の病気との関連や、生まれた年代による違いも影響することを知り、とても印象に残ったので今回ご紹介をさせていただきました。
赤ちゃんの頭のかたちのご相談の際に、もしもご家族の頭の形についても気になったら外来で気軽に尋ねてみてください。
参考文献
Nagaishi M, et al. Sci Rep. 2021.Sep 2;11(1):17616.

東京クリニック 医師 広川 大輔


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