パワードリフト【大味の免罪符】
1988年にセガから発表されたビデオゲームです。
鈴木裕氏が「アフターバーナー」に次いでプロデュースした体感ゲーム最後の大ヒット作品となっています。
ナムコのポールポジションから始まったリアルレースゲームの流れは、同氏の作った「アウトラン」でひとつの転換期を迎えたと云えるでしょう。しかしタイムアタック的なゲーム性は脈々と受け継がれて来たスタンダードな流れであったと思います。
レースゲームとは短いプレイ時間の中で緻密にしてシビアな緊張感を味わうものであったと云っても過言ではないでしょう。
本作「パワードリフト」が呈示したゲーム性はそんな常識を覆す斬新でした。
その奇抜なコースレイアウトからも分かるように、レースゲームを遊園地の乗り物として楽しもうとする発明を盛り込んでいたのです。
それまでの1コンマ何秒と云うストイックな世界からの脱却を試みたとも云えるでしょう。
私が本作を初めて遊んだ時の感想は「大味」を過ぎませんでした。しかし、それまでのレースゲームからは感じた事のない直接的な「喜悦」も与えられました。
米国受けを狙っているような下品でふざけた表現も見受けられますが、体裁はレースゲームとして纏まっているので、もちろんタイムアタック的な楽しさも提供してくれます。
しかし、本作の特徴は「ただ遊んでいるだけで楽しい」と思わせるゲーム性にあると云えます。
莫大な量のスプライトを組み合わせて表現された斬新な設計のコースは、それこそ物量にものを云わせてプレイヤーへと猛スピードで迫って来ます。
プレイヤーは細かい事を考えずに身を任せて、ハンドルを大きく切り返しながらライバルを追いつ抜きつつするだけでいいのです。派手なグリップ音が高揚感をまた煽ってくれます。
これだけで十分に楽しめる内容なのです。それまでのレースゲームとは楽しさの向かうベクトルが違うのです。
現在で云えば、バーチャファイターに対する鉄拳のゲーム性と云えば分かり易いでしょうか。
このゲーム性は鈴木裕氏の計算で成立されているのを疑うまでもありませんね。
しかし大きな弊害も生んでしまいました。
本作以降と云うかほぼ同時期から、体感ゲームまたはコクピットゲームは大味で良しとする流れを作ってしまったのです。
確かに本作はそれで成功したひとつの例ではあるのですが、全ての大型筐体物が当初のインパクトだけを一般に向けた底の浅い短命なものとなってしまっては意味がありません。しかし、他メーカーはもとよりセガまでも大型筐体物のゲーム性を軽んじて以降これと云った大ヒット作を開発出来なくなってしまいました。これは現在にまで続いているパワードリフトの呪詛とも云えますね。
2005.03.08