貧血いろいろ
患者さんに時々見せていただく血液検査結果。なかなか改善しない貧血に悩む方も多くいらっしゃいます。
患者プロフィール
Hさん 男性 88歳
10年以上前に肺がん、大腸がん、胃がんの手術を受けている。昨年腸閉塞を起こして入院。小腸の一部を切除した。元々糖尿病があったが腸閉塞の術後は食欲が衰えたことに加えて食べるとすぐに下痢をするため体重が激減し、糖尿病の薬は最小限になっている。重度の貧血が続いている為、がんの再発を疑い、胃と大腸の内視鏡を行ったところである。
処方内容 アムロジピン(5)・アジルサルタン(20)配合錠、ビソプロロール塩酸塩錠1.25mg 、ビルダグリプチン50mg、ドキサゾシン塩酸塩1mg 朝食後、クエン酸第一鉄ナトリウム錠100mg 朝夕食後
検査値 WBC 3000 , RBC 3180000 ,Hb 8.7 ,Hct 27.3 , Plt 169000 ,MCV 85 , MCH27.4
指導内容
S:先日胃と大腸の内視鏡をやった。がんは無かった。相変わらず食べるとすぐに下痢になってしまい、食べられないし、貧血も改善されないままだ。
O:重度の貧血が続くため癌を疑い検査したが問題なし。胃、大腸、小腸を切除しており、鉄の吸収が悪く、貧血を起こしていると考えられる。また、ビタミンB12を適度に補給することも役立つかもしれない。
A:貧血が過去の手術の影響の可能性があることを説明した上で、食事の摂取状況について聞きとり、アドバイスする。魚介類や牛肉などの動物性食品の摂取状況を聞き取り、血液を作るために必要であることを説明する。具体的にはビタミンB12を含む、蛤、牡蠣、牛肉などの摂取状況の確認と積極的摂取の勧め、難しい場合はサプリメントなどを提案。
P:胃や腸を切除すると血液の材料である鉄の吸収が悪くなります。少しでも吸収を良くするために、ビタミンCを多く含むものを一緒に取ること、また、貧血を改善するためにビタミンB12を多く含む牛肉や貝類を取るように心がけてください。下痢を起こしにくくするためには胃腸への急激な負担を避けて、1日4回から5回に分けて食事を取るようにしてみて下さい。
基礎知識メモ 貧血について
貧血は1、赤血球が十分作られない(産生障害) 2、赤血球が壊れやすい(破壊亢進) 3、出血 に分けられる。
もっとも一般的に見られるのは1に含まれる鉄欠乏性貧血。ます血清フェリチン(肝臓中の貯蔵鉄)が減少し、次いで血清鉄(トランスフェリン結合鉄、鉄を運んでいる状態)が減少して、最後にヘモグロビンが減少する。原因として、まずは「摂取不足」が考えられます。最近、「ミロ」がバカ売れしているみたいですが、鉄補強食品を利用するのもおすすめです。そして、「吸収不全」です。無酸症、胃酸が少ない状態で、胃切除術後です。胃酸は鉄の吸収を良くします。また、妊娠中などの「需要の増大」。そして、出血性消化性潰瘍や月経過多、悪性腫瘍による「排泄増大」です。
貧血の種類を判定するために
末梢血から、赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値を調べ、この3社の相互関係を表すものがMCV ,MCH,MCHC等で、赤血球恒数と言う。もっと詳しく検査をするときは骨髄の赤芽球数を調べる。鉄代謝について、初めは結成フェリチン、ヘモジデリンの減少が起こり、次いで総鉄結合能(TIBC)増加、不飽和鉄結合能(UIBC)増加が起こる。次いで血清鉄(トランスフェリン結合鉄)減少が生じる。鉄欠乏性貧血の治療は不足した鉄を補い、ヘモグロビン合成を促進するため鉄製剤投与が行われる。経口鉄剤は主に小腸から吸収されるが2価鉄の方が3価鉄より吸収されやすい。
経口用剤の投与期間は鉄欠乏性貧血では、血清鉄(トランスフェリン結合鉄)がまず正常化し、その後、貯蔵鉄(血清フェリチン)が正常化するまでの約半年、持続する。服用する時間はもっとも吸収が良いのは早朝空腹時だが、胃もたれなどの副作用を起こしやすいため、食後に服用する。
副作用は粘膜刺激作用がある鉄イオンによるものであるが、今回処方のクエン酸第一鉄ナトリウムは有機酸鉄で非イオン型鉄剤のため副作用を起こしにくい。鉄剤だけで貧血の改善が思わしくない時は、ビタミンCを併用して3価鉄を2価鉄に還元することで吸収を促進できる。
巨赤芽球性貧血は、骨髄に巨赤芽球が出現する貧血で、ビタミンB12や葉酸が欠乏するために間接的に赤芽球の核のDNA合成が阻害され、核の成熟障害から巨赤芽球(幼若赤芽球)となる。核の成熟障害、無効造血を特徴とする貧血。自己免疫機序に伴うビタミンB12の吸収不全からDNA合成障害が生じる悪性貧血が代表的疾患である。そのほかに葉酸欠乏や骨髄異形成症候群でも認められる。胃全摘後3から5年を過ぎるとビタミンB12が体内より不足し、その補充が十分でないと起こりやすい。一方、葉酸欠乏による場合は、慢性アルコール中毒者、腸切除等による吸収不全、免疫抑制薬のメトトレキサート服用で認められる。