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2024.12.26~29 ヌードルハウスウルクン

八戸市小中野、6かく珈琲で開催される「ひょうげ市 沖縄展」に合わせてウルクンに沖縄そばで出動要請がかかった。
6かくのヤスが主宰する「ひょうげ市」とは彼の交友関係を広げたマルシェ的な催しだが、美学や矜持にシンパシーを感じている個人・お店しか並んでいないので、所謂ゆるいマルシェとは一線を画しており、消費行動における前後の行動が有機的に、物語的に繋がっている。

ちゃんとやろう。ヤスが主催する音楽イベントでは何度も出店しているし、ちゃんとやっていない訳ではないのにまず最初に「ちゃんとやろう」がきた。ふざけた生き方をしているので戒めの意味もある。
開催日が出張から帰った4日後なので、試作開始から完成品まで辿り着けるかの不安もあっただろう。

本場で食べたことのない私が再現するにはどうしたら良いか。歴史と生活のなかに立って、その視座になるべく近づきたい。だから沖縄そばの歴史から調べ始める。インターネットが発達していくらでもレシピをインストールできる現在において美味しいラーメンは誰でも作れる(と、思っていたが沖縄そばは一筋縄では行かなかった。縄だけに)。だからこそ、なぜその地方の味になったのか生活の歴史を紐解き、文化的味覚を持って再現したい。

スープの基本材料は豚骨、鰹節、塩のみ。おーまじか〜、シンプルすぎる。
化調を投入したらバシッと味も厚みも決まるんだろうけど、私は基本無化調なので野菜も入れて複合的にしないと味が決まらない。

調べていくうちに鰹節は厚削りの場合もあるようで、ここを鯖の厚削りにかえて北国の味覚へ親和性を持たせよう。豚骨と対になるメインは鯖にして、鰹は風味と香りの役だけ担う花かつおに変更だ。
豚骨は匂いを抑えたいし、なるべくあっさりにしたいし、試作の時間も限られているから背ガラを使う。

三枚肉は「煮込み」、宮廷料理が「ラフテー」作り方も手間も全く違うことが分かった。
急な申し出に”皮付き”バラ肉を用意してくれたうえたいら精肉店さんには毎度感謝です。

かまぼこは、えっ?棒状になってるし揚げてある。なるほど、揚げの工程は保存のためだな。だが待て八戸じゃこれは売ってないから自作だ。しかし自宅のすり鉢が小さく腕がもげそうになったので足りない分は紅白かまぼこを揚げ加工した。(開催初日はヤチムン深貝工房のコウタク君からいただいた棒かまぼこを使用)

細ネギはどうなんだ。本部町という原初の木灰そばが残る地域に在来種の「もとぶ香ねぎ」があるとのことで本部町役場の農林水産課や本部農協、かりゆし市場にも連絡したが手に入れることはできなかった。しかし、出張の帰りに寄った仙台の沖縄料理店「ちゅら」で聞くには八戸で買えるわけぎで良いとのこと。

紅生姜はどうだ。ここで屋号であるウルクン(ベニノキ)を使いたい。しかし油には溶けるが水には溶けにくい性質のウルクン。どうしよう。塩基という科学の話で詳しく説明できないが生姜を塩漬けするときに投入するとワンチャンいけるかもしれないとのこと。よし、いいぞいいぞ、オレンジ色までは着色できた。しかし紅までは持っていけない。やはりここは梅酢先生だ。よしいいぞ!紅まで持って行けたがこりゃ酸っペー!酸の希釈と歯応えに変化を与える役で筍の千切りも混入。

最後に、麺はというと、麺には沖縄のプライドが宿っていた。
「沖縄県内で製造されたものしか沖縄そばと呼べない」
沖縄そばの戦いの歴史は石工夫さんのホームページに、沖縄生麺協同組合のホームページには沖縄そばの定義が記されている。

沖縄そばに危機
「沖縄そば」で慣れ親しまれてきましたが、麺の材料に30%以上の「そば粉」が入っていない為「そば」の名称が使えないと公正取引委員会よりクレームがつます。もともと沖縄そばの原材料は100%小麦粉を使用しています。「沖縄そば」という名称が使用できなくなる危機に。
この一大事に当事発足した沖縄県生麺協同組合が、沖縄県内の公正取引室、東京の全国生麺協同組合連合会、東京本庁等に何度も足を運び打開策を見つけるべく交渉を重ねた結果、昭和53年の10月17日に「本場沖縄そば」として使用が認可されました。
現在全国的にも認知度も上がり、沖縄を代表する食品ですが、こんな努力があったんです。
沖縄そば認可と沖縄そばの日
10月17日、「本場沖縄そば」の表示が特殊名称として登録許可されました。
これを期に、沖縄生麺協同組合が毎年10月17日は『沖縄そばの日』と制定しました。

本場沖縄そばの定義
どれか1つが欠けても沖縄そばとはよべない
沖縄県内で製造されたもの
手打式(風)もの
原料小麦粉 タンパク質11%以上 灰分0.42%以下
加水量 小麦粉重量に対し34%以上~36%以下
かんすい ボーメ2度~4度
食塩 ボーメ5度~10度
熟成時間 30分以内
めん線 めんの厚さ1.5~1.7ミリ切葉番手 薄刃10番~12番
手もみ 裁断されためん線は、ゆでる前に必ず手もみ(工程)を行う
ゆで水のPH8~9
ゆで時間 約2分以内で十分可食状態であること
仕上げ 油処理してあること

ここまで読んで「沖縄そば」という呼称を勝ち取った県民の意地が練り込まれた麺以外は使う気になれない。そこで青森県民でも馴染めるように金城製麺所の元祖丸麺八重山そばを使用した。

じゃあどこで独自性を出すか。スープに関してはおおらかな態度であるため、鯖厚削り節をメインに据えて旨みのボディーを出す。花かつおはあくまで風味と香り付け。豚骨と節たちのバランスを6:4→5:5→4:6→3:7、と4日かけて清湯へ移行させていった。

なんと言っても深貝工房さんのヤチムンがさらに沖縄そば然とさせてくれて本物感マシマシだから毎食の盛り付けが嬉しかった。
食べてくれたひと、複数回食べてくれた人たちに感謝です。6割が汁完でした。


現在、大晦日の夜です。
八重山そばの袋の裏面には、公式が推すアレンジというか石垣島の食べ方。開いた袋にサバ缶やツナ缶と醤油を投入、マンチャー(ごちゃまぜ)にして食べる「汁なし八重山そば」というのがあり、それをcommonsさんの黒糖食パンに賽の目に切れ目を入れて両面カリッと焼いて軽く塩胡椒してマンチャーそばをはさんでピパーツ振って紅生姜のせて食べました(サバ缶と残りの三枚肉の煮付けを合わせた場合、脂身部分が鮟鱇に化けますのでご注意ください)。ジャンクな食べ方ですが反り返るほど美味かったです。これハマりそうです。食欲に火がついた状態で、残りひとつとなったフォカッチャを見つめながら年を越しました。

蕪島の打ち上げ花火の音が聞こえてきます。


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