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富山、バスラーメンを追いかけたら最終便に間に合った夜

魚津に滞在中、好きな人から連絡があって、富山市に住んでた頃の話しを聞いてたら深夜のバスラーメンをよく食べていたらしく、とても気になってきて記憶に残っているデータを不明瞭なものまで全て書き出してもらった。

洗い出した情報から得られた結果がこちら
・富山はバスラーメンが栄えていた
・しかしその店はもう無い
・現存する2つのバスラーメンはあるものの、経年変化を払拭した中身の違うものらしい
・バスではないが、中身は当時のままで変わらない味が存在すること

上記のことから、記憶の中の店を諦め、当時のまま変わらない味を残すバスラーメンの源流を求めることにした。ひとつの味が消えていく。その大きな時代の切れ目に、まだ間に合いそうだ。

インターネットで検索するといくつかのお店に辿り着くが、営業時間20:00〜03:00と店名でワンチャンラーメンに決めた。ワンチャンお話し聞ければいいなって希望込みで。

昼間の行動は後ほど書くとして、19時、最寄の無人駅である東滑川に到着。真っ暗だがインターネットによればここは田んぼだらけなのが分かる。徒歩で30分とルート表示されているので、街灯もない道を目標地点に向かって歩き始めるが、国道に出るまで車とすれ違うことはなかった。こんなところにと言えば失礼なのは承知だが、営業時間20:00〜03:00の店が存在しているとは信じられない。グーグルが記載する“営業時間”の精度の低さも不安を募らせる要因だ。真っ暗な道では、目には見えないものを養分として、肩に抱きついたまま不安はどんどん成長していく。

歌でも歌おうか?

♪ウイルスが身体を欲するように
♪柔らかな組織が血を糧に息づくように
(鼻歌)
♪ 菌糸類が幹に寄生するように
♪蛋白質が変質するように
(鼻歌)
みたいな好きな歌で不安の面倒でもみるかと、いちおう背中に声をかけるが、口をついて出たフレーズは、思いの外メジャーだった。
「さかな さかな さかな〜、さかな〜を〜食べ〜ると〜」
「さかな さかな さかな〜、あたま〜が〜よく〜なる〜」

でもなんか止めささんなくて、そのあとどんどん声量が増していった。

しばらく歩くと、ポツンと光るセブンイレブンを確認しラスベガスみたいだなって、行ったこともないのに思った。そこから国道沿いをまたも暗闇に向かって歩く。途中一軒だけ、ビデオ・DVDソフトを販売しているお店があり、なぜここでという疑問が生じたが、経営者の物ですよと言わんばかりの位置に、手入れが行き届いた高級ファミリーカーのベルファイアが横付けされていたので、持ち得る邪推を集めて誠に勝手ながら、そうゆうことにした。すみません。

目的地に到着すると建物からささやかに漏れる光で店舗であることを確認できたが、暗過ぎて入り口がわからず建物を一周回った。波トタンにワンチャンラーメンの文字を発見し、店内で仕込み作業をする姿が見えたのでとりあえず駐車場の縁石に腰掛けて開店時間を待つ。


このときの勝手に炊かさったフラッシュで気づかれたのかも


開店準備をひと段落させて外に出た大将が私に気付くと怪訝な態度で話しかけてくる。のちに分かることだが、ここにくる客のほとんどが車で来る地元の方で、ひとり縁石に座ってる奴なんていないからだ。事情を話すと、それなら早く言いなさいってけしかけるように開店前の店内に招き入れてくれた。

「あんた誰から聞いてきたの、やっぱりインターネットって奴かい?最近はそれのおかげで知らん客が来るようになって、外国人もいるから日本語しか話せないわたしりゃ年寄りは困るんだよ」と開口一番。すいません私もそのインターネットに頼って来たものです。インターネットのお世話になってこのお店がバスラーメン及び屋台ラーメンの源流に当たることが判明しまして。

チャーシューメンと仕込みが終わったばかりの餃子も注文する。二人きりの店内で大将が話し始める。

うちの師匠から育ったのは3人だけで、残ってる私のとこに来る常連さん相手にやってんのよ。昔っからのラーメンを出してるとこはあーとどこにあんだろうね。

富山といえば富山ブラックという名称で全国的に知られていますよね。

若い人たちのラーメンも食べるけどあんあガチャガチャしたやつ私は作れないね。このラーメンも常連さんがいなくなったらやめやめ。

なぜ営業時間は夜間帯のままなんですか?

屋台から始めた奴はまともに昼働けないよ、体がそうなってんだから。

「あんなガチャガチャ」が何を指しているのか聞けないまま、そうこうしていると常連さんらが来店し、純度の高いローカル話が始まったので黙ってラーメンを啜ります。化調を投入しないスープは、チャーシューを漬け込んだカエシの醤油が立っているので、淡いガラ出汁は奥に潜んでおり、構成的に竹岡式が近似値だ。もちろん色は黒くなる一方だから富山ブラックの愛称が普及する前からずっと黒いだろう。ご当地ラーメンにしばしばみられる復権運動後2000年代以降のラーメンと実際昔から食していたラーメンとの乖離。地元の外へ向けた宣伝のために旨味がマッシブになり過ぎて歴史から離れていく現象は、私の地元八戸ラーメンでもそうで、ここ富山でも同じだった。
すりおろしニンニクの小瓶がノールックで目の前に置かれた。そういえばボウルに張った水で辛味を抜いたニンニクを開店前にミキサーにかけていた。これがスープを大変身させて驚いた。辛味を抜いたニンニクは旨味の塊だし、フレッシュなグルタミン酸は奥に潜んでいたガラ出汁と結びついて、いきなり旨味のリーチが伸びてくる。

でもスープは全部飲めないかなってレンゲを置いて心の中だけで言ったつもりなのに、大将が話しかけてきた。だからみんなライスも頼むんだよ。

富山のバスラーメンを追いかけたら富山ブラックの金型まで体験できてしまった。


店をあとにして真っ黒い道を無人駅まで歩く。「味覚の上限に達した僕らはいずれ不感症を患うだろう」などと盛大にイキったセリフを言いたいが為に、始めたばかりでフォロワーが8人しかいないインスタライブを決行し、今日あった上記のことを、青森の地元の友達が聞いたら鼻で笑われるような標準語かぶれで朗々と喋り倒し、無人駅に到着したのでではさよなら〜って画面見たらインスタライブ開始ささってなかった。

このような、人知れず爆発した恥をスノードームに閉じ込めて見返せる商品があったら私は買います。

2024.12.07

インスタライブ後半に登場予定だったやつ

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