
あらためてデジ田の”誰ひとり取り残されない”について考える
デジタル田園都市構想が語る”誰ひとり取り残されない”について、シニア文脈で書いてみる。
「いやいや、そうは言ってもね。」
「シビックテックさいたま」を立ち上げて4年。本業では「シニア」をキーワードに、100歳まで働けるものづくりの職場や、毎年シニア1,000人が通う生涯学習の場の運営をしたり、シニアに関するマーケティングなどをやっている。
週末シビックテックのイベントに参加すれば、最新のテクノロジーに触れることができ「こういうのあるといいよねー」と素直に感激するのだが、平日シニアがたくさんいる現場にもどれば「いやいや、そうは言ってもね!」と我に返る。
シニアが通う学習の場では、「今どきの情報技術」みたいな授業もあって、みんなで生成AIをさわってみたり、さいたま市が提供するアプリやサービスを試してみたりする。
シニアたちも「便利ねーこれー!」とその場では盛り上がるが、その後、使っているかというとそうでも無い。
なにか困ったり、悩んだりしていることはあるか?と聞けば「スマホに入ってくるお知らせが邪魔」「さっき開いていた画面がどこにいったかわからない」など、スマホ操作に関するものがほとんどだ。
業務の進捗管理がしたいだの、議事録を自動に起こして共有したいだの、そんな要望もないので、時間をかけてワードで書類を作成したり、LINEグループからもれた人には電話で連絡したり、データが送れない人にはプリントアウトして家に届けたり、「めんどうねー」と言いながらも時間をかけて粛々とこなしている。
「不便は我慢できる」これに尽きると思う。
「便利なので使いましょう」「生活が楽になりますよ」と言われたところで心は踊らない。逆に「不便」だからこそ、「認知機能が低下しない」「工夫ができる」「信頼できる」と思っているフシもある。
そして、”誰ひとり取り残されない”について。
確かに、防災や医療、物流、インフラ分野などでは、デジタルの力は心強い。しかし、シニア個人としては、「ひとり一台タブレットを持たされて健康や生死を管理されても…」な雰囲気が漂っている。データが収集分析されたその先に、未病や予防に関するパーソナライズされた情報があなたに提供されますよは、「へー」「ふーん」「ほんとに?」の遠い話だ。
”取り残されない”と”取り残さない”
健康保険証のマイナンバー移行も、そのうち予定されている運転免許証の移行も、私個人としては賛成だが、「しょうがないから」「なんとなく」やっている人も多い。それがどう便利なのか?なんのために自分のデータを提供するのか?を考える機会もないし、その”不便が便利になる以上の未来”について教えてくれる人もいない。
”誰ひとり取り残されない”は、優しい考え方で、その通りであったほうが良いと思う。
ただ、今の社会では”取り残されない”という姿勢を見せているだけの”取り残さない”運用になっている。
マイナンバーカードが普及したら将来どうなるのか、ちゃんと説明してくれる人もいないから、「資格確認書が発行されるなら、それでいいや」になる。行政側も「資格確認書があるから、取り残してないよ」とエクスキューズになる。
繰り返すけれど「不便は我慢できる」のだ。
シニアのとあるサークル活動で、「スマホから曲を流したいんだけど、どうすればいいの?」と相談があった。音量MAXでも音が小さいらしく、「マイクで音を拾おうかな、CD買ってCDラジカセで流そうかな」と言うので、「スマホに接続できるスピーカーも安く買えますよ」と提案してみた。
「んー、わかんないからいいや」と渋っていたその人に、自宅からBluetoothスピーカーを持参してつなげてみせると「へー、すごい簡単!これ貸して!」と。
しばらくぶりに会ったら、「すごい便利だから買っちゃった!」と嬉しそうにスピーカー(しかも、私と同じデザイン)を見せてくれた。そうそう、こんな感じで良いのだ。
説明するのを、理解してもらうのを諦めないこと、そして、ただ「便利ですよ」を押し付けるのではなく、「使ってみたい」「やってみたい」とシニアが自ら感じられる機会をできるだけたくさんつくって、そっと待って、じっと待って、ダメならカイゼンして、そんなほどよい気持ちが、”誰ひとり取り残されない”をつくる気がしている。
シビックテック活動をしている私ができること
シビックテックさいたまでは、年明けにPLATEAU(プラトー)という国土交通省が提供する3Dのデジタル地図データをつかったゲームづくりのハンズオンイベントを計画している。
11月にもPLATEAUを体験してみよう!イベントを開催したのだが、土木業界には便利そうねとか、防災にも役立ちそうねとか、さまざまな感想はあるが、正直なところ「ふーん」で思考が止まっている自分がいる。
シニアとマイナンバー、私とPLATEAU。
私もすでに取り残されているのだろうか。
シビックテック活動をしている私ができることは、新しい技術に対して理解することを諦めないこと、理解したことをわかりやすく、楽しく誰かに伝えることを諦めないことなのかもしれない。
シニアが納得してデータを提供する世の中になるといいな。
追記:2022年のCode for Japan Summitのためにつくった動画
あらためて見たら面白かったのでYouTubeのリンクを貼っておきます!
『それって便利ですか?70代・80代・90代がホンネで語るシニアとテクノロジー』高齢者と支援者へのインタビューで構成されています。
<プロフィール>
BABAlab 代表 桑原静(くわはらしずか)
1974年さいたま市生まれ。20代は、企業のWEBコミュニティサイトの企画。30代は、リアルのコミュニティの企画、NPOの事業化支援。シニアのコミュニティや働き方に興味があり、「長生きするのも悪くない」と誰しもが思える社会に必要な仕組みやサービスをつくる『BABA lab(ばばらぼ)』事業を2011年にスタート。2020年からは、超高齢社会の課題をテクノロジーのチカラを使って解決すべく「シビックテック活動」にもチカラをいれている。
BABA lab https://www.baba-lab.net/
シビックテックさいたま https://www.civictechsaitama.com/